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多田 宏 合気会本部道場師範 合気道九段

どう出版

合気道は、命の力の高め方、保ち方、使い方を身につける道

東京大学合気道気錬会説明演武記録

「対象にとらわれた稽古をしてはならない。これは日本武道の大原則です。とらわれないこと。これがこれからの学生、21世紀の日本にいちばん重要なのです。何故でしょうか……」
「道を探求するには、自分の行き先とその方法をはっきり確認して稽古をする必要があります」

―――本編は東京大学五月祭で行なわれた多田師範の演武のひとこまです。合気道修行60年、合気会九段の多田宏師範が行なう説明演武には、いつも日本の将来への思いと、自らが真剣に師事した合気道開祖植芝盛平翁や中村天風先生への熱く深い思いがあります。

※所属や肩書きは、季刊『道』に取材当時(2007年)のものです。
 取材:編集部 東京大学 七徳堂にて

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「どうしたらもっと人間の心と身体をひとつにできるか、
 そこへ向かう修行が大切です。」



合気道は、「行」なのです。

 合気道を説明するには、現代のスポーツ的運動論ではなく日本の伝統的武道の思想、訓練法についての知識が必要です。
 本来の武術には、伝統的な「行」「道」という思想が誰に言われなくとも、自然と入っていました。

 武道の「道」には二つの「道」が渾然一体となっており、ひとつは、現代で言えばその時代の社会倫理の道です。すなわち、時代が要請する社会的な倫理の道、徳川時代だったら武士道ですね。あるいは我々のように、昭和一桁生まれの年代であれば、忠君愛国の精神を養って欲しいという、時代が要請した道です。この道は「心学の道」つまり儒教的な道です。

 もうひとつの道は老荘の自然哲学、仏教、禅、密教、神道に関係している〝実践東洋哲学の行〟の世界です。この道は、時代に関係なく、命の力の在り方と使い方を教示し、日本人の宇宙観、生命観を支える心の底を流れる道です。つまり人間と宇宙とのつながりを重要視する道で、学者は「心法の道」と呼んでいます。

 合気道の創始者、植芝盛平先生のお教えを研究するには、この「行」「心法の道」を探求しなければなりません。合気道を「心学の道」だけから見てもわかりません。合気道は東洋哲学の行法を基とする訓練法だからです。
 日本の文化は心の在り方を重要視しています。生死をかけた武術の世界ではとりわけその研究が大切でした。

 日本武道の心の在り方を探求するには、武道伝書の研究、またその基となる思想の研究も重要です。ところが、ここにひとつの問題があり、それは、禅、密教など日本の行の文化思想は多くが中国を経て渡来しており、難しい漢字が相当使われるなど、本を読んでもわかりにくいところがあるということです。

 ところで「心身統一法」を説かれた中村天風という先生がおられました。この先生は、日露戦争に軍事探偵として活躍された方ですが、数奇な運命によってインド、ヒマラヤ、カンチンジェンガの山麓でヨーガの修行をされ、後にその体験によって得られたものを「心身統一法」として普及された方です。

 私は、植芝道場の先輩の紹介により先生を知り、早稲田大学在学中からその教えを受けました。天風先生の説く心身統一法は、難しい哲学を分かりやすく現代の平易な言葉で説明され、実行できるようにされています。その基本となっているのは、カルマ・ヨーガとラージャ・ヨーガです。このラージャつまり「心の王国を治めるヨーガ哲学」は、精神集中の科学として、これを基とした訓練法が数多く欧米で考案され、宇宙飛行士から子供にいたるまで世界中で大きな影響を与えています。


 なぜこれが合気道の研究に良かったのかと言うと、植芝盛平先生の生地、紀伊田辺は、真言密教の本山・高野山の膝元であり、その教えと訓練法は、先生の生涯に大きな影響を与えました。弘法大師が遣唐使の一員として渡った中国から、インド直伝の密教「マントラヨーガ」を持ち帰って、独特の哲学と行法により日本に広められた真言密教の教えは難解ですが、心身統一法の法則から見ると、現代的な感覚から理解できる点があるからです。

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