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親英体道道主 井上鑑昭の世界

電撃電飛の技

協力:親英体道代表 油井靖憲 
   井上鑑昭師の甥 井上誠之助

(取材 編集部)
※所属や肩書きは、季刊『合気ニュース』に取材当時(2001年5月12日)のものです。

合気道草創期における井上鑑昭師の活躍を特集(note掲載)した前号(合気ニュース127号)に引き続き、今号では「井上鑑昭の世界」と題して、師を思想面、技面からとらえてみたい。
祖父から教えられた教育の実体・平法学を究めるため、大本教の出口王仁三郎聖師に弟子入りした師は、平法学と大本の思想をもとに親和学を確立。それを武道の世界に具現化し、親和体道、のちの親英体道として人々に指導した。師を理解するには、武道面だけではなく、師の壮大な親和学の世界も知る必要がある。
本誌では、井上鑑昭師のビデオシリーズを制作(60歳代から70歳代の演武を中心に収録)を制作(現在は『DVD 雷撃電飛の技 井上鑑昭 合気武道から新英体道へ』に収録。師の演ずる技の一つひとつが平法学、大本教、親和学に由来することを理解していただければ、師の演武がいっそう味わい深いものとなると考え、その一助となることを願って本記事を企画した。記事作成にあたっては、親英体道代表油井靖憲氏、および井上師の甥・井上誠之助氏のご協力をいただいた。また【】内に親英体道会報掲載の井上師の講義録を抜粋引用した。

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井上鑑昭先生の映像を見て

                       スタンレー・プラニン
 私が合気道の歴史研究を始めた頃から、「植芝盛平の甥・井上鑑昭」という名前は耳にしていた。植芝先生の戦前の弟子たちからお聞きしたところでは、「井上先生はすばらしい武術の持ち主で、それは生まれながらのものだ」ということであった。
 そしてついに井上先生にお会いする機会を得た。85歳とはいえ、お元気で話題も豊富な、ユーモアのセンスにあふれたお方であった。先生が最高にお元気だった頃の演武を拝見したかったなと思ったものである。
 ところが先日、思いもかけずそのような機会に恵まれた。親英体道の油井先生からお招きを受けて、30年前の、井上先生の撮影フィルムを拝見させていただいたのである。映写が始まり次々と先生の演武が映されていった。それはじつにすばらしいものだった。
 叔父・植芝盛平翁をしのばせるところもあり、と同時に非常にユニークでもあった。優美な動き、安定した姿勢、天才的としかいいようのない体捌きは、何度観ても私を飽きさせなかった。
 これらのフィルムから戦前の合気道がいかに豊富な技をもっていたかが想像できる。井上先生のシャープな入身、間合、その武術魂に魅かれる方も多いのではないか。
 先生の、相手を完全に制御し包み込む演武は、先生の師・出口王仁三郎聖師の、愛と調和の精神を映し出しているのだと思う。



(以下は、親英体道代表油井靖憲氏、および井上師の甥・井上誠之助氏のご協力をいただき、会見として掲載しました。なお、【】内は、親英体道会報掲載の井上師の講義録から抜粋引用した文章です)


すべて「一」からはじまる

 井上先生の演武というのは非常にすがすがしくて美的なんです。その空間がなんともいえない平和的な雰囲気をかもしていますね。ただやるなら強いだけでいいわけです。それでは万有愛護にならない。大本さんで勉強したその思想を毎日毎日の生き死にのなかに具現していってるわけですよ。ここに井上先生の誰にも真似のできないすばらしい世界があるんです。

【(昭和十五年の大寒での修業において井上師が紫雲たなびく紫気の光に包まれた時のことを回想されて)……紫雲の気の中で、虫けらや山川草木あらゆるものがことごとく生命と使命を与えられて生息している実在を観て、万物の霊長たる人間には、大きな使命が与えられている(と感得した)。人間の産まれてくるその瞬間、天にとどけと産声を発して生れてくる。その産声は「ウ・ギ・ア」…ウ・産まれる、ギ、アでつらぬく、すなわち魂の実在において産まれてきているのであります。魂がそのまま、大地から天に通じ、天から大地に返ってくる。すなわち「ウ・ギ・ア」の産声は大地から天、天から大地へと「一」の線を引いて生まれてくるのである。すなわち、人間の実体は「一」の実体である。我々はこの「一」の実体から進んできているのである……】

 先生は、いつも言ってました、「つねにものごとは一から始まる」と。「一の実体である。一に始まって一に終わる。宇宙にゼロはない。存在にゼロはない。ゼロはどこまでもゼロ、無の世界。(大事なのは)つねに一の実在だ」と。 

 一に帰れば気づくことができるということです。終始一貫しているのは惟神の道なんです。一から二へ、三へとわかれていく。ようするに日本人に最初からあるあり方。宗教じゃないのです。
 我々は、細胞のかたまりと言われていますね。その元はみな原子ですよね。だけど、微細の世界(量子力学の世界)では、もうその先はわからなくなっているらしい、“もうひとつの世界”がないと理解できないと言われているね。つまり、その元というのはどこから生まれてくるか、それは科学ではまだ解明されてない。それは「産土の神さんによってつくられた、生を与えられたんだ」と考えるのが井上先生の、大本や古神道のあり方なんです。そして「幽」であったのが「顕」として生まれ、そしてまた「幽」に帰る。そこには道というものがなければいけないと考える。道を知ることが一霊四魂の一霊なんだと。これが動物には与えられていない、人にしか与えられていない。こういう考え方なのです。

平法学

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