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「Body-code.138」第2話

○(OP)歌舞伎町スラム・ラーメン屋

(※第1話ラストからのつながり)

ミナト「大将、先生のお世話、いつもワリィね」
大将「いや、世話んなったからな」

客のいない店内。
不愛想な店主がラーメンを湯がいている。
レン、ミナト、オキシラ、裏口から戻ってきて店内のカウンター席に座る。

大将「Aセット、3つ」

うまそうなラーメンと餃子、チャーハンが置かれる。

レン「当分ないぞ。心して食っとけ」

レン、ミナト、オキシラ、ごくり――


○(トビラ)タイトル「Body-code.138」「第2話 星の輝き」

ガツガツガツ――競うように実にうまそうに食っている三人。


○ラーメン店・店内

ミナト「火星たって、どうやっていくんだ?」
オキシラ「(色っぽくポーズ)イーロン・マスクを誘惑?」
レン「フッ」
オキシラ「むっか! アタシだって……!」
レン「勘違いするな、お前は魅力的な女だ」
オキシラ「(ドキッ)え……」
レン「だが、そんな時間はない」

と、店内のテレビへ視線を促す。
緊急ニュースが流れている。
昨夜の都庁爆発の事件現場の映像とともにキャスターが話す。

キャスター「昨夜未明、都庁で爆発があり、治安維持管理局局長の兼房十三氏が亡くなりました。反政府組織による関与が疑われており、現在、以下三名の非市民が指名手配されています。発見次第、当局へご連絡を――」

ミナト、レン、オキシラの顔写真。指名手配されていることがわかる。

レン「安全なところまで逃げるのが先だ」「大将、ごちそうさま」
大将「これでよかったのかい」

と、メモを卓の上に。

大将「街区の皆で出し合った、足のつかねぇチケットと偽造パスポートのデータだ」
レン「感謝する」
ミナト「じゃ、先生をヨロシクな!」
オキシラ「また来るから、それまで潰れないでね!」

と、メモを持って出ていく。

大将「……ここも、どんどん客が減っちまうなぁ」

がらがらの店内。
それだけネズミ狩りで客が少なくなった。


○首相官邸・総理執務室

T「首相官邸・総理執務室――」

執務机につく首相に向かい、直立不動、深々と頭を下げている都知事。
大量の冷や汗、ハンカチで拭いながら、

都知事「も、申し訳ございません」
首相「……政治家モードで話すの、辞めましょうか」
都知事「え」
首相「聞きたいのは、今を取り繕う謝罪の言葉ではなく、人が命を懸けて絞り出す今後の対応についてです」
都知事「そ、それは無論、既に警察と協力して――」
首相「それがあなたの命懸け、ですか」
都知事「(ごくり)……」
首相「都知事、なぜ、我々認定市民がドッグと呼ばれるか、その理由をご存じで」
都知事「権力の番犬と蔑まれているためかと」
首相「確かに。我々は非市民(ネズミ)の不法を裁き、認定市民の生活を守るべく働いています」
「そう、犬は飼い主に忠実な生き物……ならば果たして、その飼い主とは一体誰のことなのでしょう」
都知事「(怯え)――」
首相「知事や首相、大統領ですら、あの方を失望させることは許されない」

銃声。
都知事、倒れる。

首相「命懸けとは言葉だけでは伝わりません。犬は忠誠なくして生きられないのです」

銃声。
口に銃口をくわえた首相が絶命している。


○空を飛ぶ旅客機

ジェットエンジンがうなりを上げて飛んでいる。


○同・内

オキシラ「すっごーい、貸し切りじゃーん☆」

と、ミナトたち以外、誰も乗客がいない。

ミナト「つか、なんで誰も乗ってねんだ?」
レン「……嫌な予感がする」
ミナト「は?」
レン「立て、急ぐぞ」

と、立ち上がる。

ミナト「おい、どこへだよ」
レン「操縦室だ。パイロットを代わってもらう」
ミナト「いや、代わるって、操縦できんのかよ?」
レン「いちいち聞くな。説明している暇がない。これ以上高度が上がれば彼らが脱出できなくなる」
ミナト「(戦闘態勢で)もう手遅れみたいだぜ」
オキシラ「(同じく深刻な顔)……」

レン、振り返る。
不気味な覆面をした男が両手に操縦士と副操縦士の首をもって立っている。

レン「お役所にしては仕事が早いな」
謎の男「ハイジャックは重罪ですよぅ?」
レン「ほう、殺人はいいのか」
謎の男「重罪人に協力した者は等しく重罪ですからぁ!」
「さあぁ! 権力に盾突く反逆者の皆さぁんヌッ! 死刑執行の時間で――」

突如、男の顔面が爆発で吹き飛ぶ。
ミナトとオキシラの元素能力である。

オキシラ「(異能力発動状態)ダッル、話長っ」
ミナト「(同じく)パワハラ確定。コンプラ違反で死刑な」

煙が晴れていき、男、その正体を現す。
覆面が爆ぜ、中の顔面が露わに――肛門のような目と口、クマムシ人間である。刺青回路が浮かび上がっている。

ミナト、オキシラ、レンM「刺青回路(バディ・コード)――」
刺客「私のコードはクマムシの能力を引き出す特注品です」「この程度の攻撃、地上最強の生物クマムシには通用しませんがナニかぁ?」
レン「そうか、地上以外も試してみるか」

と、密に元素能力を発動して、カーボンナノチューブのロープを操り前方へと伸ばしている。

刺客「――」

ぐん、と重力がかかる。

×  ×  ×

インサート。操縦席。
レンのカーボンナノチューブが操縦桿に絡まり、遠隔操作している。

×  ×  ×

刺客「くっ、気圧が……機体が上昇していくだとぉぉぉぉ!?」

大げさに焦る。
――が、一転、呵々と笑いだす。

刺客「あははははっ! なぁ~んて、焦るとでも思いましたぁぁぁぁ?」
ミナトM「なんか、ウザくね?」
オキシラM「ウッザ」
レンM「同意」
刺客「高度10kmより上へ行けば酸素がなくなるんですよぅ? 飛行機の燃料は燃えず、エンジンは回らなぁぁい!」
「ハァイ! 手間が省けましたぁ! 墜落墜落墜落ぅ! でもクマムシ、秒速728mの衝撃にも耐えられるぅ! 墜落しても生き残るぅぅぅぅ!」

調子づく刺客。
オキシラ、冷ややかに。

オキシラ「あっそ。別に作ればいいだけだし」

と、能力発動――刺青の鯉がエメラルドグリーンの液体をほとばしらせて機体に注入していく。

刺客M「液体酸素――」


○旅客機がぐんぐん上昇していく

10、20、30……400km。
大気圏を突破してついに宇宙空間に出る。

○旅客機の中

ぼこんぼこんッ、ぼごッ――と空気圧に負けて鉄の機体が外へ膨れる。
さらに窓がひび割れ、凄まじい勢いで空気が外へ漏れ出ていく。
皆、無重力でぷかぷかと浮かび思うように動けない。

刺客「自殺覚悟で、私を宇宙空間へ放り出せば殺せるとでもぉ? ククク……クハハハッ……! ハッ、ハハッ……ハァハァハァ……!」

様子がおかしい。
ぱきぱきぱき――刺青回路が反応し、さらなる異能力が発動する。
刺客の体表がみるみる変化していく――

オキシラ、ミナト、レン「――」

刺客、鋼鉄のような硬い甲殻に覆われ、乾眠モード完成体にメタモルフォーゼする。

刺客「ハァァァァイ! 残念でしたぁぁぁぁ! クマムシは死にましぇぇぇぇんヌッ!」
「【乾眠】と言ってですねぇ、危機的状況に陥ると休眠状態に入りまぁす! そうなれば、-273度の超低温でも、150度の高温でも、真空や放射線でも、無酸素でも、無摂食、無摂水でも! 決して死なない不滅の存在となるのでぇぇぇぇす!」
「おバカさぁぁぁんヌッ、死ぬのはあなたたちだけでしたぁッ!」

と、機内の壁や天井を攻撃。次々と巨大な穴をあけていく。
さらに勢いを増して空気が漏れ出ていく。

オキシラ、ミナト、レン「――ッ」

息苦しそう。脚はバードレックでがりがりに細り、逆に顔がムーンフェイスでひどく膨れ上がってぼこぼこと血液が沸騰する勢い(※多少過剰にやってよいかと)――

N「ムーンフェイス 宇宙空間など重力が微小になると体液が上半身へ移動する症状。結果、脚は細りバードレックとなって顔面がひどくむくみ、血液が沸騰する」
オキシラ、ミナト、レン「がぁっ、ハァ、ハァハァハァ……」
刺客「フッ、飛行機とロケットは似て非なるものです。宇宙服もなく大気圏を抜ければ……フハッ、もう酸素を生み出す力も残っていませんかぁ? 能力を燃料に使いきったのは悪手でしたねぇ!」

絶体絶命、皆が瀕死の中、ミナト、なんとか力を振り絞る。
異能力を使おうと手を伸ばす――

ミナト「……う……うううぅ……」
刺客「ハイ無駄ぁぁぁぁ! 如何に水素の能力でもここは宇宙! 酸素がなければ爆発しませぇぇぇぇんヌッ!」
ミナト「……なら、あれは……なんで燃えてんだ……よ……」
刺客「は」
ミナト「酸素もねえ宇宙で、一等強く輝いてんじゃねえか……」

と、外からまぶしい光が差し込む――

刺客「……太陽……?」
「(ハッ)……ま、まさか……」

振り返ると、ミナト、既に気を込めて異能力発動に入っている。
龍の刺青が浮遊し、巨大な力をため込んで――

ミナト「水素は宇宙で一番初めに生まれた元素だ」「そして、酸素がなくても巨大な熱量を生み出す……そう、星々の輝きをなッ!」
男「水素核融合――!?」
「や、やめて……それは反則、いくらクマムシでも――」
ミナト「ハァァァァァァァァ――ッ!!!!」

核融合能力発動。ホワイトアウト。


○荒れた砂丘

夜の砂漠のような殺風景な丘にミナトたちが立っている。
その姿、黒いマスクに黒いボディスーツ――レンが異能力を発動させて作り出した即席の宇宙服だ。その管にオキシラの能力で酸素を送っている。

ミナト「便利でいいよなー、レン兄の炭素って」
オキシラ「チートが過ぎる☆」
レン「本来、旅客機をコーティングして即席のロケットにするつもりだったのだがな……どこぞの火力馬鹿が破壊するから」
ミナト「(バツが悪い)ハイハイ、悪かったよ!」「つうか、どうやって火星までいくんだよ?」
オキシラ「んー、それ以前? 正直、詰んじゃってね?」
レン「……」

遠くを見る。
どこまでも続く月面の荒野、遠くの方に日の出ならぬ地球が半分顔をのぞかせている広い画。
そんな世界にぽつりと取り残されたミナトたち、絶望的な状況だ。

(続く)

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