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「Body-code.138」第3話

○(OP)モンタージュ・火星開拓史

以下、Nに合わせてイメージをインサート。

N「2030年までに火星移住を実現する」
「そう宣言した実業家イーロン・マスクは、スペースX社を立ち上げ、巨大宇宙船スターシップを打ち上げた」
「しかし、その道のりは険しかった」
「火星にある水や空気は不十分で、凡そ人が住める環境ではなかったのだ」


○(トビラ)タイトル「Body-code.138」「第3話 火星」

N「だが、その絶望的状況を打破する者が現れた――」

繁栄した火星コロニー、全景。
作物が実る緑豊かな楽園、そこに立つ少女たち――リン、パオ、ナイトロ。


○同

三人、未開拓の荒野に向かって、

リン「ほな、今日も元気にいきまっせ」
ナイトロ「仕切ってンじゃねぇ殺すぞ」
リン「頼むでパオ」
ナイトロ「シカトこいてンじゃねえ!」

パオの首の刺青――和彫りの壺の絵(アラビア人が植物の灰、ポタシを保管した壺)が反応、異能力発動――

パオ「おらの元素能力はK(ポタシウム)……だども、みなカリウムって呼ぶべさ」
「植物の3大栄養素の1つで、根肥(ねご)えつうて作物の根っこさ強く太くすっだよ」

と、壺から灰色のミストが出て大地を覆っていく。

T「パオ・タリ(16) No.19 カリウムのエレメンタリスト」
リン「次はうちらや。いくで」
ナイトロ「だから仕切ってンじゃねぇ!」
リン「同じく3大栄養素の1つ、開花・結実を促すP(フォスフォラス)と!」
T「リン・マーリン(16) No.15 リンのエレメンタリスト」
ナイトロ「チッ……茎と葉っぱをガンガン広げて、ドチャクソ光合成させるN(ニトロゲン)だッ!」
T「ナイトロ・ヘイズ(17) No.7 窒素のエレメンタリスト」

異能力を発動――リンの太腿に和彫りの火焔、ナイトロの胸元の髑髏が浮かぶ。
三人の異能力が合体し化合能力となって大地を覆う。
荒野が果樹の楽園になっていく。

リン、ナイトロ、パオ「はぁ、はぁはぁ……」
作業員A「何度見ても素晴らしい」
作業員B「天地創造……奇跡だ」

と、手を止め唖然。

ナイトロ「いいぞもっと褒めやがれ」
リン「アホくさ。奇跡なわけあらへん、ただのクソの塊や」
ナイトロ「リン、そう呼ぶなつってンだろが!」
パオ「まあまあ」
リン「グアノって知ってんか」
作業員A「ぐあの?」
リン「島のサンゴ礁にたまる海鳥のフンが化石化したヤツ。これがええ肥料になったんや」

インサート、イメージ。

ナイトロ「ケッ、何百年前の話してンだ」
「1913年、ハーバー・ボッシュ法が実用化されて以来、とっくに化学肥料の時代なんだよ!」
N「ハーバー・ボッシュ法 空気中の窒素と水素からアンモニアを合成する手法。この発見により窒素、リン、カリウムを含んだ化学肥料を工場生産できるようになった。硝酸アンモニウム(NH4NO3)、硝酸カリウム(KNO3)が特に有名」
作業員A「そう、それこそが奇跡なんだ!」
「水素と酸素はロケット燃料を転用すればよかった。でも他は能力で生み出すしかなかった」
作業員B「君たちがいなかったら皆とっくに餓死していたよ」
リン、ナイトロ、パオ「(まんざらでもなく)」

「まさに『空気からパンを作る力』ですね」拍手と声がして振り返る。

沌「お疲れさま、救世主諸君」

リンたち、彼女を睨む。


○(回想)異国の街(夜)

T「10年前、ロシアと中国の国境付近の街――」

雨降る繁華街。雨でネオンが滲み、地面に反射して幻想的だ。
人々が行き交う中、飲み過ぎた市民がゲロを吐く。汚い雨水がそれを集めてマンホールに流れ落ちていく――

×  ×  ×

マンホールの下、下水が流れる狭い空間。
表の世界から隠れるように流民たちが凍える体を寄せ合っている。
幼少期のパオ、リン、ナイトロもいる。

パオ「……腹ぁ減っただぁ」
ナイトロ「言うな。次言ったら殺す」

リン、黙って差し出す。
カビたパン。

パオ「いんだべか?」
リン「ダイエット中や。美人なって市民様からしこたま絞ったる」
ナイトロ「ハッ、鶏ガラブスがイキってら」
リン「うっさい、夢見んのはタダや!」
ナイトロ「やンのかコラァ!」

ナイトロの腹が鳴る。

ナイトロ「腹減りすぎてケンカもできねぇ」
リン「……」
ナイトロ「あ?」

リンの視線の先を追う。
パオ、パンを食べずに隣の子に与えている。

パオ「……ごめんしてけろ。この子、病気だって……」

子供、どうみても助かりそうもない。
死にそうな顔で力なくパンをかじっている。

ナイトロ「オイ、そんなンに食わせても――」
リン「ナイトロ」
ナイトロ「(チッ)わかってンよ!」
パオ「はぁ、腹いっぺえ食いてえ。空気からパン、出きねがなぁ」
ナイトロ「叶わねぇ夢はタダでもすンな」
闇から声「では、叶えてさしあげましょうか」

一同、驚き振り返る――


○(回想)薄暗い手術室(夜)

リン「いや、や」
パオ「やめてけれ……」
ナイトロ「殺おおおおす!」

不潔な手術台の上、暴れても拘束具が痛いだけ。
沌、刺青用の針を構える。

リン、ナイトロ、パオ「(激痛で叫ぶ)――」

×  ×  ×

事後。
リンたちの身体には和彫りの刺青。

沌「あの方がお困りです。遅れを取り戻さなくては」


○(回想明け)火星コロニー・果樹園の一角

沌「……意外でした」
「私への殺意は把握していましたが、今ですか」

沌に向けて能力を発動、臨戦態勢のリンたち。

沌「本当に、よろしいので? 整っているようには見えませんがね、フフ」
ナイトロ「なら確かめてみろよ……テメェの体でなァァッ!」

能力発動――激しい爆発が沌を襲う。

沌「ッ――」
ナイトロ「窒素ってなぁ、ちょいと弄りゃニトログリセリンになンだ。おうよ、ダイナマイト様の原料だぜッ! オラオラオラァッ!」

と、シャボン玉よろしく無数の液体の玉を飛ばす。

沌「ふむ……」

冷静に腕の刺青回路を操作――右手に投げナイフを具現化、投げる。
浮遊するニトロの玉に阻まれ爆発で弾かれる。

沌「わずかな衝撃で爆発……」

次は左手を火炎放射器に変えて攻撃。
やはり爆発。

沌「高温に反応して爆発……」
「なるほど、攻防に適した妙手です」「しかし起爆の瞬間が不自然……0.1秒単位のズレ。それに直情的で単純なナイトロらしくない攻撃……」
「リン、あなたが起爆役ですか」
リン「(図星)」
沌「当然でしょう。リンはマッチの原料、着火点を操るのに都合がいい。ニトロを燃やす司令塔とは実にあなたらしい」
「しかし」

再び刺青デバイスを操作――天井のスプリンクラーから水が降る。

ナイトロ、リン「――!?」
沌「人工降雨システムです」
「ニトロもリンも水に弱い。希薄化すれば爆発しません」

浮遊していたニトロが次々と弾けて消えていく。
沌、すかさず発動――両手を武器化、巨大な鋼鉄の顎に変形、勢いままにナイトロとリンの首を狩る――

ナイトロ、リン「やば――」

が、寸前のところで沌の動きが止まる。

ナイトロ、リン「……?」
沌M「……体が動かない? まるで、意志に反しているかの……」
「意志に?」
パオ「リンみてぇに火起こせねぇ、窒素みてぇに爆発も無理」
「だども、カリウムは生物の活動を止められんだべ!」
沌M「カリウムイオン――」
N「イオンチャンネル 生物の活動はすべて電気信号によって命令される。これを活動電位と呼び、その伝達にはカリウムイオンが不可欠だ。もしカリウムイオンがなければ生物は動けない」
ナイトロ「ケケッ、ボーナスステージの始まりだァ!」

と、沌に向けて殺意を込める。

リン「やめときや」
ナイトロ「あ?」
リン「パオが封じられんのは動作だけやない。その気になりゃ心臓から脳の働きまでなんでもや」
ナイトロ「だったら、とっととしやがれ!」
リン「完全に命を絶つには時間が足りへんのや」
パオ「(真っ青)は、がっ、はぁはぁ……」
沌「ふむ、リンとナイトロで時間を稼ぎ、本命はパオ。悪くない連携……でも残念、もって数秒ですか」
リン「せやな……でも、それで十分やで」

と、リンとナイトロ、パオを抱えて深い穴へ飛びこむ。

沌M「え――」


○同

どおおおん――大爆発でコロニーが吹き飛ぶ広い画。

N「1921年 ドイツ オッパウの爆発事故
死亡者509名、行方不明者160名」
「1947年 アメリカ テキサスシティ大災害
死亡者581名、負傷者5000名以上」
「2015年 中国 天津浜海新区倉庫爆発事故
死亡者165名、負傷者798名」
「化学肥料工場は常に爆発事故の歴史だった。保管される硝酸アンモニウムは軽油と混ざるとアンホ爆薬なる非常に強力な爆発物になる。その性能はテロリストの常套手段となるほどであった」


○吹き飛んだ火星コロニー跡

リンたち、宇宙服を着ている。

ナイトロ「ザッマァァァ! 毎日作らされた化学肥料、トドメにしてやったぜ!」
パオ「皆無事でよかったべ」

と、作業員たちも一緒にいる。

作業員A「すいません、足引っ張っちまって」
作業員B「俺たちが避難する時間稼いでくれたんですよね」
リン「……」
作業員A「わかってますよ、あなたは昔から優しい人だ」
作業員B「パンの味、忘れてませんから」

十年前、下水道の子供達の面影がダブる。

リン「(照れ)アホたれ」
ナイトロ「つーか、やりすぎじゃね?」

見渡す限り、荒野。

パオ「んだんだ。ドームまで壊しちまってどう生活すんべ」
リン「これでええ」
ナイトロ、パオ「え?」
リン「あれは人間やない。化け物や」
パオ、リン「……?」


○月面・謎の遺跡・全景

不自然な人工建造物があり、足跡が点々とそこへ続いている。


○同・内

ミナト「……なんだ、これ」
オキシラ「火星いく必要なくね?」
レン「……」

立ち尽くす三人、視線の先には――

声「一人ではできないことも、皆と一緒ならばできると気づいたからです」
N「あの日、ボクが聞いたあの言葉……もう、違う意味にしか聞こえない」
沌「おかえりなさい、プロメテウスの子らよ」

と、彼女の背後には人工羊水で満たされた無数の生命維持装置、無数の沌が揺蕩っている。

(続く)


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