「Body-code.138」第1話
○(OP)モンタージュ・世界観
N「2025年――南極に隕石が飛来した」
「未知の結晶(クオーツ)でできたそれは、凍れる大地をこじ開ける一本の鍵」
「分析の結果、結晶は特殊な周波数を発していることが判明」
「それを二進法のコードに変換すると、ある方程式が完成した」
「方程式は、これまで人類を悩ませてきた全ての科学的難問を瞬く間に解くと、技術的特異点(シンギュラリティ)のその先へ、超高度文明社会へ人類を導く――」
○(トビラ)タイトル「Body-code.138」「第1話 刺青回路(バディ・コード)」
T「2055年、新宿――」
N「人類に智慧を与えし隕石は、禁断の果実(リンゴ)か、禁忌の箱(パンドラ)か」
「アダムとイブの末裔が、今、審判の日を迎えようとしている――」
○歌舞伎町の人気のない路地裏・バンの車中(夜)
手下A「マジ? 激レアじゃん」
手下B「伝説の彫師 沌の仕事(エレメンタルシリーズ)……」
半グレの男「焦んな、ヴァカ」
一同「――」
半グレの男「贋作なら輪姦して殺ってシメェだったのに……ツイてねぇ女、クスリもなしで生皮むかれちまンだナァ……ニィ、ヒヒ、ヒヒヒィ……!」
手下A「ちょ勘弁、新車スよ!」
手下B「ムダムダ。もう入っちまってンよ」
半グレの男「……」
手下A「どしたンスか」
手下A、B「――!?」
女「3億年前ってさー、カモメくらいの巨大肉食トンボが飛び回ってて、1mオーバーのゴキブリが走ってたんだってさー」
「ねえ、なんでかわかるぅ?」
手下A、B「ヒッ――」
女「正解はぁ、今より酸素濃度が1.5倍も濃かったからぁ☆」
女「アタシの元素能力(エレメンタル)はO、酸素(オキシゲン)。酸素の特質を自在に操ることができる」
「……てか、気づけよサル。バトってる最中わざわざ能書きタレてんの、逃げる時間あげてるっつーことだろーが」
手下A、B「――ッ」
○歌舞伎町・路地裏(夜)
手下A、B「ハッ、ハァハァハァ……」
手下A「ただのネズミ狩り、チョレェ仕事じゃなかったのかよ!」
手下B「ッセェ! 今、ケンジョーサンに確認とってンよッ!」
???(off)「なぁんだ、つまんねーの」
手下A、B「――」
少年「罪悪感不要のドクズ、ノーリミで憂さ晴らしできると思ったのに……そんな簡単に吐かれちゃボコれねぇじゃん」
手下A「(チッ)クソが……」
手下B「(絶望)こいつもかよ……」
手下A「死ねェェェェッ!」
手下B「舐めてンじゃねッぞラァァァァ!」
少年「昔、先生に聞いたんだけどさ……地獄には、煉獄っつう悪人の魂を浄化する炎があんだって? だったらさ、今やっときゃワンチャン、天国あんじゃね?」
「ギャハハハ、あるわきゃねよなぁ! 罪もねえ仲間(ネズミ)、散々殺しやがってよッ……クタバレ糞クズ裏切り野郎があッ(Fuck the fucking fuckers)!」
少年「ボクの元素能力(エレメンタル)はH、水素(ハイドロゲン)」
「水素は星の輝き。その光は世界の闇を焼き払う」
手下A「……ぁがっ、あと……匹で……市民(ドッグ)、なれたのに……」
少年「サヨナラ(R.I.P)、権力の犬(lap dog)」
女「ミナト、終わった?」
少年「ああ、オキシラ」
女「じゃ、やっとレン兄(にぃ)に会えんだね」
少年「……」
少年のT「ミナモト・ミナト(18) No.1 水素のエレメンタリスト」
少女のT「アオイ・オキシラ(16) No.8 酸素のエレメンタリスト」
○都庁・治安維持管理局・モニタールーム(夜)
T「東京都庁 治安維持管理局――」
局長「我ら法の番犬に盾突くとは……諦めの悪い非市民(ドブネズミ)だ」
局長「というわけで……ご指名だ、レン」
レン「(伺候して)……」
局長「辿られる前に剣城を始末しておけ」
「あと、アレもだ」「鯉と龍か……素晴らしい。完璧な私の最後のピース、収めるに相応しい傑作(マスターピース)だとは思わないかね」
レン「……承知」
○新宿を走る車(夜)
○同・車内(夜)
ミナトM「レン兄……」
○(ミナトの回想)歌舞伎町の教会・聖堂
T「10年前――」
N「なにが好きでこんな街で修道女(シスター)なんてやっているのか。先生は見捨てられた児を誰でも受け入れてくれる優しい人だった」
ミナト「ねえ、先生。どうしてこんなところで先生してるの?」
沌「ん?」
ミナト「この街区は非市民ばかりのスラムじゃん。親に捨てられ、国に捨てられ、表の世界では生きていけない人ばっかり……」
「そんなゴミダメみたいな街、先生みたいな立派な人は来たがらないよ」
沌「気づいたから」
ミナト「え」
沌「一人ではできないことも、皆と一緒ならばできると気づいたからです」
ミナト「(きょとん)……?」
沌「ミナトにもいつかわかる日がきますよ。ふふ」
N「親の顔も知らないボクらにとって、先生だけが愛を教えてくれる存在だった」
「なのに、アイツらは突然――」
× × ×
ミナトM「……どうなっ、て……? ……先生? 先生は……?」
ミナト「――」
ミナトM「先生!!!!」
ミナトM「……ぁがッ」
市職員(かつての局長)「知事、ここで最後です」
知事「おや?」
知事「人がいるではありませんか? 何故確認を怠った」
市職員「都民は刺青回路内のマイナンバーで一括管理されています」
市役所職員「マニュアルに則り3度サーチをかけましたが、『認定市民は一人も確認できません』でした」
知事「(怖い顔)」
市役所職員「治安回復は都民の望み。非市民(ネズミ)の駆除は支持率の上昇を約束するかと(ニタァ)」
知事「……」
「(一転、微笑)どうやら、適任者が見つかったようです。治安維持管理局の局長はあなたしかいません」
市役所職員「光栄です」
知事「では、再計画予定地はすべて更地にして入札を進めて……」
ミナト「(声にならない)っが……待、て……!」
オキシラ「……ダメ、ミナト」
レン「諦め、ろ……犬死にだ」
ミナト「くっ……離……せ…………」
○(数日後)病院の屋上
ミナト「……」
レン(off)「飛び降りるつもりじゃないだろうな」
レン「せっかく助かった命、無駄にする前に臓器提供しておけ」
ミナト「するわけねえだろ」
「あいつらぶっ殺すまで、死んでたまるかってんだ」
オキシラ「ダメだって、死んじゃうよ」
ミナト「先生が殺されたんだぞ! ムカつかねえのかよ!」
オキシラ「ムカつくし! でも無理だつってんの!」
ミナト「無理じゃねえ……先生からもらったこの力があれば!」
レン「(がしっとその腕をつかみ)忘れたのか? それは先生が使うなと――」
ミナト「(さらに気を込め)使うべき時に使えとも言ってたッ!」
オキシラ、レン「……」
ミナト「今使わねえでいつ使うんだ」
「あの時だって、お前らが止めなきゃ、アイツを……」
オキシラ「……ちょっと、ミナト!?」
ミナト「……っぐ、くそっ! 言うこと、聞けよッ!」
ミナト「――」
レン「(凄み)制御もできないヒヨッコが、なにを使うって?」
ミナト「(悔しい、が、負けじと)ゥルセェ、できるようになってやる」
レン、ミナト「……」
ミナト「おい、どこへ行く!」
レン「(背を向けたまま)逆らうべきではなかった。権力の側にあれば、先生だって……」
ミナト「(憤り)それ、本気で言ってンのかよ……」
レン「だったらどうだと言うんだ」
ミナト「(ぶち切れ)レン兄ぃぃぃぃ!」
○(回想明けて)新宿・とあるマンションの一室(夜)
レン「フッ、変わらんな」
T「レン・カラスマ(21) No.6 炭素のエレメンタリスト」
ミナト「当たり前だ、1mmだって変わってたまるかよ!」
レン「そうじゃない、成長がないと言っている」
ミナト「て、思うじゃん?」
レン「……ん」
オキシラ「酸素はこの星でもっともありふれた助燃材☆」
ミナト「水素とセットならロケットの推進剤にだってなるんだぜ?」
ミナト「いくらダイヤモンドが堅くてもよッ、高温で燃しちまえば……防ぎようがねえだろがぁぁぁぁッ!」
レン「(驚愕)――」
「(――が、涼しい顔で何故か不敵な微笑)ニッ」
○新宿の街・全景(夜)
○都庁・治安維持管理局・モニタールーム(夜)
局長「(うつ伏せのまま)ご苦労――(と言いかけて、意外そうに顔を上げる)珍しいな、お前がそこまで手を焼くとは」
局長「ハッ、伝説の彫師は駄法螺ではなかったか」
「寄越せ、試したい」
局長「……」
局長「……別段、変わった感じはないが、そういうものか……」
局長「――ッ」
「がっ、あがっ……レンッ、こ、これは、なんだッ!」
レン「(応えない)……」
局長「貴様ぁ……まさか……がああああああああああああああッ!」
N「酸素は人間の生体活動に不可欠なものである。しかし、高濃度で摂取すれば全身の激しい痙攣を発症し、最悪の場合は死に至る。この症状を急性の酸素中毒と呼ぶ」
局長「(怒りの形相で睨みつけ)やってくれたなぁぁぁぁッ!」
レン、オキシラ、ミナト「……」
オキシラ「あは☆ ダッサ」
ミナト「ラスボス失格? つか、これならボク一人でもやれたろ」
レン「ぬかせ。なんのために仇の本丸に潜伏し、10年もヤツの片腕をやったと思っている」
「すべては今日、この一手に賭けるため」
「用心深いアンタのことだ、無防備で会ってもらえるまでの信頼を得るのに苦労した」
局長「がっ、ハァハァハァ……ガアアアアアッ……!」
ミナト「……な、なんだよ、こいつ」
レン「オレたち(エレメンタリスト)とは少し違うが、あれもまた刺青回路(バディ・コード)の能力だ。しかも局長のそれは最新軍事兵器と連動する特別仕様」
「弾薬補充から自動照準まで、完璧に電子制御された起動型自動殺戮システムだ」
レン「どうだ、これでもまだラスボス失格か」
ミナト「上等! 10年溜めたフラストレーション、全ブッパでボコれて安心じゃんよ!」
局長「フンッ、調子に乗るなドブネズミがッ、認定市民様に歯向かった罰だッ! ソノ身デ以テ受ケルガイイイイッ!」
ミナト「クソッ……どうすりゃ……」
局長「(焦り)――」
ミナトM「ラッキー!」
ミナト「うおおおおおおおおおッ!」
オキシラ「ダメ! ミナト!」
局長「ククッ、ネズミハ脳ガ軽クテイイ」
ミナト「え――」
N「カーボンナノチューブ 炭素を多層に編み込んだ優れた素材。アルミの半分の軽さに鋼鉄の20倍の強度、しかも弾性に優れダイヤモンドよりも強靭かつ高温に強いため、宇宙船にも使用される超高性能シールドとなる」
レン「……厳しいな」
オキシラ「弾切れでも待つぅ?」
レン「ヤツの本丸、無尽蔵だ」
オキシラ「だったら一度退くぅ?」
レン「10年かけてようやく作り出した好条件。これを逃せばもう二度目はない」「それどころか、追手に殺されるのを待つだけだ」
オキシラ「えー、だったらぁ――」
ミナト「近づかず倒せばいい」
オキシラ「え?」
レン「できるのか」
ミナト「ボクじゃできない」
レン「は?」
ミナト「さっきの無様な攻撃、見たろ?」
「威力はあっても単調なパターン。読まれやすく、対応もされやすい」
「ったく、万能で変化に富んだオキシラやレン兄が羨ましいよ」
レン「らしくないな。もう敗戦の弁か」
ミナト「なわけねーじゃん」
「ボク一人ならできなくても、みんなと一緒ならできるって言ってんだよ」
オキシラ、レン「……」
× × ×
局長「……チッ、ウロチョロト……ウゼェェェナァッ!」
局長「ドウシタッ! モウ諦メタカッ! 逃ゲテバカリジャ――」
局長M「……水……漏水?」
ミナト「水素と酸素が反応すればH20(水)ができる」
オキシラ「中学生でも習う簡単な化学反応式だね☆」
局長M「……今マデノハ陽動? コレガ真ノ目的?」
「ハッ、無駄ナコトヲ……我ガ装備ハ防水モ完璧ダ!」
オキシラ「この刺青、先生がいれてくれたんだけどさ。最初、小さな子になんてヒドイことすんだろって、マジ無理だった。しかも鯉とかダサくない? もっとカワイイのにしろっつうの」
局長「(武器を構え)時間稼ギナラ無駄ダッ!」
オキシラ「でも、今ならわかんだよね。鯉は滝を登って、龍になるから……」
ミナト「そして、龍は水神……水を司る神様だ」
× × ×
沌「一人ではできないことも、皆と一緒ならばできると気づいたからです」
× × ×
ミナト「先生は教えてくれた。足りねぇもんは皆と補い合えってな!」
局長「(慌てて銃の乱射)――」
ミナト、オキシラ「はぁぁぁぁぁぁぁぁ! いっけぇぇぇぇ!」
局長「(ゴボッ)グッ……クソッ」
局長「……落チ着ケ、問題ナイ……(シュッと顔を覆うシールドマスク起動。中に酸素を送り込む。それをホログラムモニターで確認し)酸素レベル……ヨシ、十分ダ」
「クハハッ! 水ガドウシタ! 対水中戦装備モ万全ダッ!」
局長M「……消エタ? ドコヘ?」
「ソウ言エバ、レンモ……」
局長「……?」
○同・屋上(夜)
レン「10年もいれば見取り図くらい覚える」
ミナト「つまんねーの。結局、ボコできねーじゃん」
オキシラ「強がり☆ カワイイ」
○同・モニタールーム(夜)
N「カーボンナノチューブが優れているのは硬さや強さだけではない。なにより導電性に優れ、一般的な銅線の1000倍以上の高圧電流にも耐えられる」
局長「ガアアアアアアアアアアアアアッ! クソドモガアァァァァッ!」
局長「ゴボッ、な、なにを――」
「やめっ! があっ、制御できな……あ、ああぁああああいッッッッ……」
○新宿の街・全景(朝)
○歌舞伎町・スラムの一角の秘密の場所(朝)
オキシラ「……終わったね」
ミナト「ああ……」
レン「いや。まだ始まったばかりだ」
オキシラ、ミナト「は?」
レン「人間を構成する元素、知っているか?」
オキシラ「(ミナトに)急になに?」
ミナト「さあ、意味わかんね」
レン「炭素、水素、酸素、窒素(CHNO)。たった4種類で98.7%をカバーする」「今、ここに3つ(CHO)がそろっている。これに窒素、リン、カリウム(NPK)が加わればほぼ100%になる」
ミナト「いや……だから、なに言ってんの?」
オキシラ「(気づいて)レン兄、まさか……」
レン「先生を蘇らせる」
ミナト、オキシラ「――!?」
ミナト「なあ、どこにいんだよ、そいつら」
オキシラ「突き止めてんでしょ? レン兄なら」
レン「(微笑)火星だ」
(続く)
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