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「Body-code.138」第1話

○(OP)モンタージュ・世界観

以下、Nに合わせてイメージをインサート。

N「2025年――南極に隕石が飛来した」
「未知の結晶(クオーツ)でできたそれは、凍れる大地をこじ開ける一本の鍵」
「分析の結果、結晶は特殊な周波数を発していることが判明」
「それを二進法のコードに変換すると、ある方程式が完成した」
「方程式は、これまで人類を悩ませてきた全ての科学的難問を瞬く間に解くと、技術的特異点(シンギュラリティ)のその先へ、超高度文明社会へ人類を導く――」


○(トビラ)タイトル「Body-code.138」「第1話 刺青回路(バディ・コード)」

T「2055年、新宿――」
N「人類に智慧を与えし隕石は、禁断の果実(リンゴ)か、禁忌の箱(パンドラ)か」
「アダムとイブの末裔が、今、審判の日を迎えようとしている――」

路地裏に駐車された全面スモークの白いEVバンの車中。
乱暴に服を裂かれた女の背中アップ、一面に彫られた刺青――清楚で若い女には似つかわしくない本格的な和彫り、反社顔負けの滝登りの鯉である。


○歌舞伎町の人気のない路地裏・バンの車中(夜)

女をうつ伏せに抑えている男たち、息をのんでそれを見つめている。

手下A「マジ? 激レアじゃん」
手下B「伝説の彫師 沌の仕事(エレメンタルシリーズ)……」
半グレの男「焦んな、ヴァカ」

と、腕をまくる――未来的な幾何学デザインの電子タトゥ(※エレメンタリストの伝統的な和彫りに対して敵対勢力は基本、未来的な幾何学的電子デザインのイメージ)を起動、異能力が発動し、指先がナイフ状に変形する。
その切っ先をゆっくりと女の背に這わせる――びくん、と背中――と、その切っ先から逃げるように鯉が背中を泳ぎ回る。

一同「――」
半グレの男「贋作なら輪姦して殺ってシメェだったのに……ツイてねぇ女、クスリもなしで生皮むかれちまンだナァ……ニィ、ヒヒ、ヒヒヒィ……!」

と、ナイフがさらに変形、拷問器具の凶悪な形になる。

手下A「ちょ勘弁、新車スよ!」
手下B「ムダムダ。もう入っちまってンよ」
半グレの男「……」

――が、様子がおかしい。反応がない。

手下A「どしたンスか」

と、顔を覗き込もうと――どさりと倒れる半グレの男――ネコほどに巨大化したゴキブリやムカデなど虫がぼりぼりと男の顔面をむさぼり食っている。

手下A、B「――!?」
女「3億年前ってさー、カモメくらいの巨大肉食トンボが飛び回ってて、1mオーバーのゴキブリが走ってたんだってさー」
「ねえ、なんでかわかるぅ?」
手下A、B「ヒッ――」

押さえつけていた女から飛びのく。
女、体を起こし、ウィッグをはぎ取る――派手な金髪が揺れる。

女「正解はぁ、今より酸素濃度が1.5倍も濃かったからぁ☆」

と、入れ墨の鯉が身体から飛び跳ね、ふわふわと女の周りを戯れるように遊泳している。(※これが基本的なエレメンタリストの異能力発動時のイメージ。ジョジョのスタンドの如く刺青が体から離れて発動、攻撃する)
それに呼応して足元の虫たちが次々と巨大化する。

女「アタシの元素能力(エレメンタル)はO、酸素(オキシゲン)。酸素の特質を自在に操ることができる」
「……てか、気づけよサル。バトってる最中わざわざ能書きタレてんの、逃げる時間あげてるっつーことだろーが」

ぞわぞわと手下どもの足元から巨大なゴキブリが這い上がり――

手下A、B「――ッ」

慌てて振り払い、バックドアから勢いよくバンの外へ飛び出す。


○歌舞伎町・路地裏(夜)

手下A、B「ハッ、ハァハァハァ……」

走り抜けていく。近未来の歌舞伎町界隈。
毒々しいネオンの看板、薄汚れた路地、九龍城のようなスラム化した人気のない路地裏。(※ライトなサイバーパンクの世界観。ファッションや文化、建物、武器などのデザインはAR等のITギミックベースの近未来的なものをイメージしています)

手下A「ただのネズミ狩り、チョレェ仕事じゃなかったのかよ!」
手下B「ッセェ! 今、ケンジョーサンに確認とってンよッ!」

と、腕の電子タトゥ(スマホ)を起動しながら。

???(off)「なぁんだ、つまんねーの」
手下A、B「――」

突然の声に立ち止まり、身構える。
物陰から姿を現す少年。

少年「罪悪感不要のドクズ、ノーリミで憂さ晴らしできると思ったのに……そんな簡単に吐かれちゃボコれねぇじゃん」

と、これもまた右腕から立派な和彫りの龍が浮遊している。

手下A「(チッ)クソが……」
手下B「(絶望)こいつもかよ……」

覚悟を決める。
電子タトゥを起動、異能力が発動して腕がそれぞれ巨大なスタンガンとトゲトゲしい警棒に変形する。

手下A「死ねェェェェッ!」
手下B「舐めてンじゃねッぞラァァァァ!」

と、自棄になって襲い掛かっていく。
しかし少年、冷静に能力を発動しながら、

少年「昔、先生に聞いたんだけどさ……地獄には、煉獄っつう悪人の魂を浄化する炎があんだって? だったらさ、今やっときゃワンチャン、天国あんじゃね?」
「ギャハハハ、あるわきゃねよなぁ! 罪もねえ仲間(ネズミ)、散々殺しやがってよッ……クタバレ糞クズ裏切り野郎があッ(Fuck the fucking fuckers)!」

ボンッ、ボンボンボンッ――半グレたち、肩、腹、腿、など体中が弾けて崩れ落ちる。

少年「ボクの元素能力(エレメンタル)はH、水素(ハイドロゲン)」
「水素は星の輝き。その光は世界の闇を焼き払う」
手下A「……ぁがっ、あと……匹で……市民(ドッグ)、なれたのに……」
少年「サヨナラ(R.I.P)、権力の犬(lap dog)」

ボンッ――最後に残った頭が爆ぜる。
間。

女「ミナト、終わった?」

バンからやってきた女、破られた服の代わりに半グレから奪ったジャケットを着ている。
少年、落ちている刺青回路の入った腕を拾い上げて、見せる。

少年「ああ、オキシラ」
女「じゃ、やっとレン兄(にぃ)に会えんだね」
少年「……」

と、夜空を見上げる――バベルの如く天空を侵す巨大建造物、こうこうと輝く都庁がそびえたっている。
ふたりの眼、もの寂しげに見ている――

少年のT「ミナモト・ミナト(18) No.1 水素のエレメンタリスト」
少女のT「アオイ・オキシラ(16) No.8 酸素のエレメンタリスト」


○都庁・治安維持管理局・モニタールーム(夜)

T「東京都庁 治安維持管理局――」

その様子を路上の監視カメラから送信されるリアルタイムの映像を見ている全裸の男、局長。

局長「我ら法の番犬に盾突くとは……諦めの悪い非市民(ドブネズミ)だ」

何人もの美しい女彫り師たちをはべらせて、全身に刺青を入れさせている。

局長「というわけで……ご指名だ、レン」
レン「(伺候して)……」
局長「辿られる前に剣城を始末しておけ」
「あと、アレもだ」「鯉と龍か……素晴らしい。完璧な私の最後のピース、収めるに相応しい傑作(マスターピース)だとは思わないかね」

と、空いている背中と腕――

レン「……承知」

部屋を出ていく。


○新宿を走る車(夜)


○同・車内(夜)

ミナト、半グレから奪ったバンを運転している。
助手席にはオキシラ。
ふたり、真剣な顔――見つめる先、都庁。

ミナトM「レン兄……」

悲痛なお面持ちで回想――


○(ミナトの回想)歌舞伎町の教会・聖堂

T「10年前――」
N「なにが好きでこんな街で修道女(シスター)なんてやっているのか。先生は見捨てられた児を誰でも受け入れてくれる優しい人だった」

笑顔の修道女、沌が孤児たちに囲まれている。
そんな中、幼少期のミナトもいる。

ミナト「ねえ、先生。どうしてこんなところで先生してるの?」
沌「ん?」
ミナト「この街区は非市民ばかりのスラムじゃん。親に捨てられ、国に捨てられ、表の世界では生きていけない人ばっかり……」
「そんなゴミダメみたいな街、先生みたいな立派な人は来たがらないよ」
沌「気づいたから」
ミナト「え」
沌「一人ではできないことも、皆と一緒ならばできると気づいたからです」
ミナト「(きょとん)……?」

沌、ミナトの頭を優しくなでてやり、

沌「ミナトにもいつかわかる日がきますよ。ふふ」
N「親の顔も知らないボクらにとって、先生だけが愛を教えてくれる存在だった」
「なのに、アイツらは突然――」

轟音。
どおおおおん、ブラックアウト――

×  ×  ×

目が開き、少しずつ視界が明けていく。
がれきの山となった教会――天井をぶち破ってきた重機の鉄球、巨大ショベルの鉄塊――横たわるいくつもの子供たちの遺体――

ミナトM「……どうなっ、て……? ……先生? 先生は……?」

必死に見回す。

ミナト「――」

沌、吹き飛んだ教会の中で一本だけ残った十字架に磔刑の如く突き刺さって絶命している。

ミナトM「先生!!!!」

立とうと力をこめる。

ミナトM「……ぁがッ」

脚があらぬ方へ曲がっていて力が入らない。
ぞろぞろと入ってくる大人たちの足音、そして声。
ミナト、必死に顔を上げる。
視界がかすんでよく見えない。

市職員(かつての局長)「知事、ここで最後です」
知事「おや?」

と、無数の遺体に気づく。

知事「人がいるではありませんか? 何故確認を怠った」
市職員「都民は刺青回路内のマイナンバーで一括管理されています」

と、腕の刺青回路を起動。
ホログラムで表示された携帯PCのディスプレイを示す。

市役所職員「マニュアルに則り3度サーチをかけましたが、『認定市民は一人も確認できません』でした」
知事「(怖い顔)」
市役所職員「治安回復は都民の望み。非市民(ネズミ)の駆除は支持率の上昇を約束するかと(ニタァ)」
知事「……」
「(一転、微笑)どうやら、適任者が見つかったようです。治安維持管理局の局長はあなたしかいません」
市役所職員「光栄です」
知事「では、再計画予定地はすべて更地にして入札を進めて……」

声が遠のいていく。

ミナト「(声にならない)っが……待、て……!」

意識がもうろうとする中、折れた脚で膝をつき、最後の力を振り絞って立ち上がろうと――が、その足をつかむ手、ふたつ。

オキシラ「……ダメ、ミナト」
レン「諦め、ろ……犬死にだ」
ミナト「くっ……離……せ…………」

意識が落ちていく――


○(数日後)病院の屋上

ミナト「……」

ケガがやや回復して松葉杖をついているミナト。
睨むようにじっと空を見ている。

レン(off)「飛び降りるつもりじゃないだろうな」

ミナト、振り返る。
レンとオキシラが立っている。

レン「せっかく助かった命、無駄にする前に臓器提供しておけ」
ミナト「するわけねえだろ」
「あいつらぶっ殺すまで、死んでたまるかってんだ」

と、視線の先には都庁。

オキシラ「ダメだって、死んじゃうよ」
ミナト「先生が殺されたんだぞ! ムカつかねえのかよ!」
オキシラ「ムカつくし! でも無理だつってんの!」
ミナト「無理じゃねえ……先生からもらったこの力があれば!」

と、能力発動、腕から龍の刺青を浮遊させている。

レン「(がしっとその腕をつかみ)忘れたのか? それは先生が使うなと――」
ミナト「(さらに気を込め)使うべき時に使えとも言ってたッ!」
オキシラ、レン「……」
ミナト「今使わねえでいつ使うんだ」
「あの時だって、お前らが止めなきゃ、アイツを……」

ごごごごご――ミナトの龍、怒りに呼応するように次第に大きくなって抑制が効かなくなっていく。

オキシラ「……ちょっと、ミナト!?」
ミナト「……っぐ、くそっ! 言うこと、聞けよッ!」

必死に腕を抑えて制御しようとする。
が、もう無理、限界――暴発する。
――しかし寸前のところでその腕ごとダイヤモンドの結晶が覆う。
龍もろとも凍結されたように抑え込まれる。

ミナト「――」

はっとして見ると、レンの胸から黒鬼の刺青が浮かび上がっている――(炭素)のエレメンタル能力である。

レン「(凄み)制御もできないヒヨッコが、なにを使うって?」
ミナト「(悔しい、が、負けじと)ゥルセェ、できるようになってやる」
レン、ミナト「……」

にらみ合い、緊張感。
――が、突然、踵を返すレン。

ミナト「おい、どこへ行く!」
レン「(背を向けたまま)逆らうべきではなかった。権力の側にあれば、先生だって……」
ミナト「(憤り)それ、本気で言ってンのかよ……」
レン「だったらどうだと言うんだ」
ミナト「(ぶち切れ)レン兄ぃぃぃぃ!」

骨折も厭わず、松葉杖を投げ出してとびかかっていく――


○(回想明けて)新宿・とあるマンションの一室(夜)

どごおおおおおおん、爆風。
――と、オーバーラップするように、現在のミナト、レンに襲い掛かっていったところをレン、涼しい顔でエレメンタル能力のダイアモンドの盾で防いでいる。
剣城らしき男、悲鳴を上げて外へ出ていく。(※先に駆け付けたのはレンで、剣城を始末しようとしていたまさにその時、ミナトが飛び込んだ)

レン「フッ、変わらんな」
T「レン・カラスマ(21) No.6 炭素のエレメンタリスト」
ミナト「当たり前だ、1mmだって変わってたまるかよ!」
レン「そうじゃない、成長がないと言っている」
ミナト「て、思うじゃん?」
レン「……ん」

オキシラ、ミナトの背後からすっと現れ、異能力を発動――鯉の刺青が空中を跳ね、エメラルドグリーンの液体(液体酸素)を吐き出させる。

オキシラ「酸素はこの星でもっともありふれた助燃材☆」
ミナト「水素とセットならロケットの推進剤にだってなるんだぜ?」

同じく、ミナトの龍からも水しぶきが――

ミナト「いくらダイヤモンドが堅くてもよッ、高温で燃しちまえば……防ぎようがねえだろがぁぁぁぁッ!」

と、至近距離でロケットエンジンの点火時のような業火が襲う――

レン「(驚愕)――」
「(――が、涼しい顔で何故か不敵な微笑)ニッ」


○新宿の街・全景(夜)

ぼんっ――あっけない乾いた音。
ロングショットで、マンションの一室が吹き飛ぶ画。


○都庁・治安維持管理局・モニタールーム(夜)

扉が開き、人影が入ってくる。
局長、相変わらず女彫師たちに刺青を彫らせている。

局長「(うつ伏せのまま)ご苦労――(と言いかけて、意外そうに顔を上げる)珍しいな、お前がそこまで手を焼くとは」

と、ぼろぼろのレン、黙って立っている。

局長「ハッ、伝説の彫師は駄法螺ではなかったか」
「寄越せ、試したい」

レン、アタッシュケースを女彫師たちに渡す。
女彫師、受け取ったアタッシュケースを開く――と、生体標本のように、ミナトとオキシラの刺青部分の生皮、生理食塩水に浸されてある。
局長、それを見て満足そうにうなずく。
呼応する女彫師たち、移植の準備を始める。
女彫師、メスを握る。
局長の刺青だらけの身体の中の空白(腕と背中)の皮膚を剥いでいく。

局長「……」

麻酔もかけずにやっているが、局長は顔色一つ変えない。
皮膚が当てがわれ、あっというまに縫合されていく。
局長、立ち上がり、調子を確かめるように体をひねって確認する。

局長「……別段、変わった感じはないが、そういうものか……」

が、次の瞬間――どくんっ、と身体の深奥が脈打つ。

局長「――ッ」
「がっ、あがっ……レンッ、こ、これは、なんだッ!」

膝をつき、首を抑え苦しみ始める。

レン「(応えない)……」
局長「貴様ぁ……まさか……がああああああああああああああッ!」

縫合したばかりの皮膚に指をひっかけ、ぶちっ、ぶちちちっ――腕と背中の生皮を強引に引き剥がす。
べちゃっ――生皮を床に叩きつける。その生皮にはゲル状の液体酸素がアメーバのように蠢いている。

N「酸素は人間の生体活動に不可欠なものである。しかし、高濃度で摂取すれば全身の激しい痙攣を発症し、最悪の場合は死に至る。この症状を急性の酸素中毒と呼ぶ」
局長「(怒りの形相で睨みつけ)やってくれたなぁぁぁぁッ!」
レン、オキシラ、ミナト「……」

そろい踏み。
異能力を発動し、戦闘態勢で構えている。

オキシラ「あは☆ ダッサ」
ミナト「ラスボス失格? つか、これならボク一人でもやれたろ」
レン「ぬかせ。なんのために仇の本丸に潜伏し、10年もヤツの片腕をやったと思っている」
「すべては今日、この一手に賭けるため」
「用心深いアンタのことだ、無防備で会ってもらえるまでの信頼を得るのに苦労した」
局長「がっ、ハァハァハァ……ガアアアアアッ……!」

怒りに連動して身体中の刺青が暴れだす。皮膚から飛び出し、局長の身体を覆っていく――その身体、機工の異形となって肥大化していく。アサルトライフル、対物ライフル、バズーカー、ミサイル、レーザーなどありとあらゆる兵器に変化し、刺青の能力により肉体と同化していく――

ミナト「……な、なんだよ、こいつ」
レン「オレたち(エレメンタリスト)とは少し違うが、あれもまた刺青回路(バディ・コード)の能力だ。しかも局長のそれは最新軍事兵器と連動する特別仕様」
「弾薬補充から自動照準まで、完璧に電子制御された起動型自動殺戮システムだ」

局長、完全体。
その姿は重装機兵である。

レン「どうだ、これでもまだラスボス失格か」
ミナト「上等! 10年溜めたフラストレーション、全ブッパでボコれて安心じゃんよ!」
局長「フンッ、調子に乗るなドブネズミがッ、認定市民様に歯向かった罰だッ! ソノ身デ以テ受ケルガイイイイッ!」

ぶつかり合う両陣営。
未来科学の重装備とエレメンタル能力の凄まじい戦闘が繰り広げられる。
銃撃、砲撃、爆撃、レーザー照射、あらゆる攻撃の弾幕が途切れることなく次々と襲い掛かってくる。
ミナトとオキシラ、エレメンタル能力を発動――巨大な爆風で相殺する。
――が、局長のあまりの弾幕の厚さに次第にミナトたちは防戦一方になっていく。
業を煮やし、焦るミナト。

ミナト「クソッ……どうすりゃ……」

と、その時、かちかちかち――局長の弾薬がジャムる。

局長「(焦り)――」
ミナトM「ラッキー!」

弾幕が途切れたのをチャンスとみて、飛び出していくミナト。

ミナト「うおおおおおおおおおッ!」
オキシラ「ダメ! ミナト!」

聞こえない。突っ込むミナト。全力の水素能力で局長に攻撃をしかける。
――が、局長、それを待っていたかのようにニヤリ。
与えた隙は罠だった。
ミナトの額に向けて、冷たい銃口のカウンター。

局長「ククッ、ネズミハ脳ガ軽クテイイ」
ミナト「え――」

どおおおおおん、ゼロ距離射撃。
――が、寸前のところでレンの異能力発動――黒い影のような可塑性の高い物質を操り、ミナトと局長の間に盾のように挟みこんで助けていた。

N「カーボンナノチューブ 炭素を多層に編み込んだ優れた素材。アルミの半分の軽さに鋼鉄の20倍の強度、しかも弾性に優れダイヤモンドよりも強靭かつ高温に強いため、宇宙船にも使用される超高性能シールドとなる」

ミナト、吹き飛ばされ深手を負うが、なんとか一命をとりとめる。
ミナト、オキシラ、レンのカーボンの盾に身を隠しながら。

レン「……厳しいな」
オキシラ「弾切れでも待つぅ?」
レン「ヤツの本丸、無尽蔵だ」
オキシラ「だったら一度退くぅ?」
レン「10年かけてようやく作り出した好条件。これを逃せばもう二度目はない」「それどころか、追手に殺されるのを待つだけだ」
オキシラ「えー、だったらぁ――」
ミナト「近づかず倒せばいい」
オキシラ「え?」
レン「できるのか」
ミナト「ボクじゃできない」
レン「は?」
ミナト「さっきの無様な攻撃、見たろ?」
「威力はあっても単調なパターン。読まれやすく、対応もされやすい」
「ったく、万能で変化に富んだオキシラやレン兄が羨ましいよ」
レン「らしくないな。もう敗戦の弁か」
ミナト「なわけねーじゃん」
「ボク一人ならできなくても、みんなと一緒ならできるって言ってんだよ」
オキシラ、レン「……」

×  ×  ×

作戦実行。
ミナト、オキシラ、レンのカーボンナノチューブの盾から飛び出す。
連携をとって陽動に出る。

局長「……チッ、ウロチョロト……ウゼェェェナァッ!」

銃撃や爆撃を連射する。
ミナト、オキシラ、距離をとって戦う。
異能力でミサイルを誘爆させて避けたり、爆風で相殺したり、壁を壊してバリケードにしたりと、徹底的に防御に徹する。

局長「ドウシタッ! モウ諦メタカッ! 逃ゲテバカリジャ――」

はっと足元を見る。
足首のところまでひたひたと水が溜まっている。

局長M「……水……漏水?」

と、見渡すがそんな状況は見受けられない。

ミナト「水素と酸素が反応すればH20(水)ができる」
オキシラ「中学生でも習う簡単な化学反応式だね☆」
局長M「……今マデノハ陽動? コレガ真ノ目的?」
「ハッ、無駄ナコトヲ……我ガ装備ハ防水モ完璧ダ!」
オキシラ「この刺青、先生がいれてくれたんだけどさ。最初、小さな子になんてヒドイことすんだろって、マジ無理だった。しかも鯉とかダサくない? もっとカワイイのにしろっつうの」
局長「(武器を構え)時間稼ギナラ無駄ダッ!」
オキシラ「でも、今ならわかんだよね。鯉は滝を登って、龍になるから……」
ミナト「そして、龍は水神……水を司る神様だ」

×  ×  ×

フラッシュバック。教会の沌のセリフ。

沌「一人ではできないことも、皆と一緒ならばできると気づいたからです」

×  ×  ×

ミナト「先生は教えてくれた。足りねぇもんは皆と補い合えってな!」

と、ミナトとオキシラ、手をつなぐ。
ミナトの龍とオキシラの鯉が融合する――化学反応攻撃だ。

局長「(慌てて銃の乱射)――」
ミナト、オキシラ「はぁぁぁぁぁぁぁぁ! いっけぇぇぇぇ!」

水素と酸素の化学反応による爆発とともに、一気に莫大な水がふたりから洪水のごとく溢れていく。それはその部屋、ビルのフロアを水族館の巨大水槽にしてしまうほどに。

局長「(ゴボッ)グッ……クソッ」

水の中で身動きが取りずらい。重たい重機の体が邪魔で沈んだまま動けない。ダダダダダ――銃を乱射するが水中のせいで威力が削がれてしまって役に立たない。

局長「……落チ着ケ、問題ナイ……(シュッと顔を覆うシールドマスク起動。中に酸素を送り込む。それをホログラムモニターで確認し)酸素レベル……ヨシ、十分ダ」
「クハハッ! 水ガドウシタ! 対水中戦装備モ万全ダッ!」

が、オキシラとミナトが見当たらない。
赤外線温度センサー起動、サーチするが見つからない。

局長M「……消エタ? ドコヘ?」
「ソウ言エバ、レンモ……」

と、レンのカーボンの盾を見るが温度センサー無反応。
気づく。
そこから天井へ黒いロープのようなものが続いていることに。

局長「……?」


○同・屋上(夜)

レン「10年もいれば見取り図くらい覚える」
ミナト「つまんねーの。結局、ボコできねーじゃん」
オキシラ「強がり☆ カワイイ」

レン、自分の長く伸びたカーボンナノチューブをとある小さな小屋の機材につなぐ。
その小屋の扉には「業務用 高圧電流注意」の文字。


○同・モニタールーム(夜)

N「カーボンナノチューブが優れているのは硬さや強さだけではない。なにより導電性に優れ、一般的な銅線の1000倍以上の高圧電流にも耐えられる」

強烈な電撃が走り、局長、感電している。
機器の制御ができず、次々と漏電して壊れていく。

局長「ガアアアアアアアアアアアアアッ! クソドモガアァァァァッ!」

システムが耐えかねて強制武装解除される。
と、刺青が浮かび上がり、次々と局長の身体に噛みついていく。

局長「ゴボッ、な、なにを――」
「やめっ! があっ、制御できな……あ、ああぁああああいッッッッ……」

暴走した刺青、みるみる局長を食らっていく。


○新宿の街・全景(朝)

眠らない町の夜が明けていく。


○歌舞伎町・スラムの一角の秘密の場所(朝)

(※昔のゴールデン街のような入り組んだバラックのイメージです)違法な増設に次ぐ増設で出入口の潰れた路地裏――実はラーメン屋の裏口からしか入れない袋小路。周囲には食材の箱やらビール瓶やらゴミ箱やら雑然と置かれている。その先に無造作に地面に刺さった十字架――あの教会で沌が磔刑にされた十字架である。
その前でミナト、オキシラ、レン、祈っている。

オキシラ「……終わったね」
ミナト「ああ……」
レン「いや。まだ始まったばかりだ」
オキシラ、ミナト「は?」
レン「人間を構成する元素、知っているか?」
オキシラ「(ミナトに)急になに?」
ミナト「さあ、意味わかんね」
レン「炭素、水素、酸素、窒素(CHNO)。たった4種類で98.7%をカバーする」「今、ここに3つ(CHO)がそろっている。これに窒素、リン、カリウム(NPK)が加わればほぼ100%になる」
ミナト「いや……だから、なに言ってんの?」
オキシラ「(気づいて)レン兄、まさか……」
レン「先生を蘇らせる」
ミナト、オキシラ「――!?」

間。
ミナト、オキシラ、お互いに見合う。
そして笑顔。

ミナト「なあ、どこにいんだよ、そいつら」
オキシラ「突き止めてんでしょ? レン兄なら」

レン、空を指す。

レン「(微笑)火星だ」

(続く)


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