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出資バウチャーという方法論


マクロビジネスのための制度的ビークル

 現代の会社法や一般法人法などの団体/法人法制制度の下でも、マイクロビジネスのビークルを作り出すことは十分可能。

 株式会社であっても、株式を全部譲渡制限付とし、買取請求について定款で制限すると共に、会社の運営についての少数株主の議決権能を強化した上で、業務運営に参加する「社員」に株式を持たせる=出資させることで、従業員一体方の経営体を作ることはできる。
 持株会社(特に、合資会社や合同会社)であれば、さらに定款をもってより柔軟な仕組みをつくることもできよう(機関設計の自由度が大きいから)。
 また、既存の共同組合法制を活用して、当事者主権的な仕組み、例えば、介護保険の利用者と介護福祉士が出資して組合を作り、小規模な介護サービスを提供するといった仕組みだ。

 さらに、2020年には、労働者協同組合法が成立している。
 この仕組みのポイントは、次の2点だ。
 ○組合員の議決権及び選挙権は、出資口数にかかわらず、平等であること
 ○組合との間で労働契約を締結する組合員が総組合員の議決権の過半数を保有すること
 この「制約」のおかげ、組合の規模を無限定に大きくすることがしにくい仕組みなっていると思われる。 
 そもそも、この法律の第3条第1項で基本原則が定められおり、その第2号は「その事業を行うに当たり組合員の意見が適切に反映されること。」となっていることから、上意下達的なヒエラルキー構造が否定されていると言える(この法律の制定によって、組織論、組織行動論の研究がどのように変化していくかも楽しみだ)。

<厚生労働省>
労働者協同組合
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_14982.html


出資バウチャーという発想はどうだろう?

 さらに、このようなマイクロビジネスへの「出資」をエンパワーするためのバウチャーみたいなものを公的に設計できないだろうか。
 例えば、出資バウチャーを一定の年齢に達すると(例えば、潜在的介護サービスの利用者となると)自治体から給付されるとか、介護福祉士の資格を取得するとこのバウチャーの配分を受けるというのはどうだろう。
 
 被雇用者中心的、当事者主権的な社会サービスの提供の在り方を公的に支えるために、公的サービスの供給主体への出資を、税金でエンパワーする具体的な方法論はあるのではなかろうか。


 あるいは景気対策として流行りの就業訓練についても、訓練プロセスの出口戦術として、訓練を受けた仲間が集って、自らサービス提供のビークルを作り出すという発想を必要ではなかろうか。

 このような出資バウチャー的な仕組みの構築・支援のために必要な法整備の検討課題としては、バウチャーで取得した株式・持分の譲渡に関連して、バウチャーに基づく出資が換金されしまうことを防止するため、別のサービス提供機関の持分・株式への移行に限定することを可能にするというか、義務化するということあるのではなかろうか。要すれば、転職するときの不利益を多少なりとも中和する方策ではあるが、その労働者の身体と分離されないような仕組みが必要ということ。
 こういった取り決めを、マイクロビジネス実施上の用件、例えば、介護保険の指定事業のための要件とするか、法人設立に関する実定法上の強行規定とするかは考えどころ(特別の法人根拠法ということになる)。

 また、この制限に対するサンクションを、公的規律とするか、民事的にも無効(となると持分移転自体が無効となり、動的安全は否定される)というもっと強力な効果を与えるかも、思案のしどころだ。