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マイクロファイナンスの普及・定着のためには?

 先頃、いわゆるソーシャルレンディング(SL:ネットを使って、小口の貸し手と借り手をマッチングするサービス)を行っていた有名企業の子会社が、金融庁によって業務改善命令が出され、業務を廃止した。そこで、SLを含むマイクロファイアンスについて、少し考えてみました。


マイクロファイナンスの供給者と需要者の条件

 短期の景気対策において必要とされる貧困対策/失業対策としての資金還流に関し、既存の金融機関(銀行、消費者金融)が有効に機能しないことは確かである。だから、マイクロファイナンスという「魔法の小箱」に対する期待が高まり、その普及・定着が高唱されることも、理由なしとはしない。

 一方、マイクロファイナンスを実装・実施するための法的ビークルは、既に存在しており、オペレーションの蓄積やその工夫は必要としても、マイクロファイナンスの実現に少なくとも法的障碍がある訳ではない。
 である以上、マイクロファイナンスという仕組みを定着させる上では、もう一度基本に戻って、マイクロファイナンスというサービスの供給者と需要側の条件を考える必要があろう。


リソース提供者のインセンティブ

 まずひとつは、マイクロファイナンスを実施する機関に労働や資金を提供する者の動機付けの問題である。
 中公新書「マイクロファイナンス」では、この点に関し、共感やCSRで説明しようとしているが、些か弱いのではないだろうか。アダム・スミスの「道徳感情論」で展開された議論を否定するものではないし、このような論理立てが、社会思想の変革のための社会運動としての価値はあるとは思う。

 しかし、その実現を政策的に推し進める方策を考えるという意味での政策論としては、公的権力が人間の頭の中身に直接介入できないし、すべきでないという観点から、社会思想としての議論だけでは意味のあるものとはならないのではなかろうか。

 同書でも触れられている「ソーシャル・インデックス」というアプローチは、企業の価値(価額)評価と社会活動とのリンクを図るというアプローチではあるが、そもそも既存の資本市場インフラという仕組とのリンクである点が、マイクロファイナンスという仕組みと「水と油」ではないかという懸念がある。
 つまり、既存の資本市場から調達される資金は、マイクロファイナンスというサービスの資本として適合性がないように思われる。

 いずれにせよ利潤動機(貨幣的利潤動機)以外のマイクロファイナンスの事業の継続に対する動機付けの在り方をさらに理論化する必要があるであろう。篤志家が存在するというだけでは、持続可能性は確保されないだろう。


利用者にとってのメリット

 もうひとつは、マイクロファイナンスを利用する側の能力の問題、別の言い方をすれば、マイクロファイナンスによって供給される資金の質に適合したマイクロビジネスの在り方、そういったマイクロビジネスの社会への定着ということである。

 生活密着、地域密着の小規模サービスビジネスが適合的であることは直感的・感覚的には理解できるであろう。
 と同時に、そういったマイクロビジネスは、結局、ビッグビジネスに化けるか、ビッグビジネスによって市場から排除されてしまうので、マイクロな常態で持続することが難しいという課題が、マイクロファイナンスの前に立ちふさがることになる。
 このマイクロビジネスの生き残りという問題は、「月3万円の仕事」という信条があるものの、多層的で柔軟な職務人生を寛容する社会の在り方、特定の組織的保護体からはじき出された人が改めて自律的・自立的に生きる在り方を”再発見する”ことが、現代日本において如何に難しいかという問題と、表裏の関係ではないかと、類推・推測される。

 マイクロビジネスが、マイクロ状態で市場というフィールドで生き残ることができ、そのマイクロな状態のビジネス複数に従事することで、マイクロファイナンスを返済しながら自律して生活していくことができる。
 つまるところ、それを希望しなければ、ビッグビジネスにおけるマッチョな「ビジネスマン」=古くさい言い方では「勝ち組」になる必要がないという状態を常態にするためには、そのような競争条件や公的需要の発注方式が考慮されるべきなのであろうか?


マイクロファイナンスはビックビジネスになれない?

 そもそも、マイクロファイナンスという事業自体も、マイクロビジネスであることがベターなのではないだろうか。マイクロファイナンスの債権管理は個別性が高く手間がかかるのであるから、自由度のあるフランチャイズはともかく、ビッグビジネスで実施という絵姿には、相当な違和感、異質感がある。
 また、大銀行と競争関係におかれて、マイクロファイナンス機関が市場から排除されてしまうという事象も自然体では非常に起こりそうな事象だ。

 冒頭で紹介した業務停止命令の件は、ソーシャルレンディング=マイクロファイアンスがビックビジネス化することの矛盾を、まさに象徴していると考えている。

 いずれにせよ、マイクロファイナンスの普及・定着のためには、マイクロファイナンス自体を含む、マイクロビジネスを日本で”再発見”するための政策的介入=国家権力の介入の具体的有り様を考えなければならないということなのではなかろうか。
 労働者協同組合法の成立が、マイクロファイアンスと共進化すべきマイクロビジネスの起爆剤になるのだろうか。