「嫌儲と情弱」“ネットに住む人達” ドワンゴ川上会長講演 〜 niconicoのポータル化事業とユーザーとの関係作り〜(6)
ドワンゴ川上会長 「ネットでは、基本コンテンツが無料と思われるサービスが非常に多いんですけれども、何故そのようになってしまったのか? その時に重要なキーワードが2つあります。それは
「嫌儲(けんもう)」という言葉と、 「情報弱者」。略して「情弱(じょうじゃく)」と呼ばれているんですけれども、「嫌儲」と「情弱」。この2つのキーワードが非常に重要です。
ここでいう「嫌儲」とは、字の通りなんですが、儲かる人はとにかく腹が立つ、儲ける人がいたら叩く。ネットで儲ける奴は許さないという考え方、それが嫌儲という言葉です。
もう一つは「情弱」、ここでの情報弱者の方はどういう意味かと言いますと、情報が弱い人、簡単に言えば「バカ」ですね。で、「バカ」とは何か。
ネットの中で <情報弱者=バカ>とは何かというと、<コンテンツにお金を払う人達>のこと
です。「コンテンツにお金を払う事はバカ」だとネットでは思われているんですね。実際、本当に、若い高校生なんかはそう思っています。で、なんでそういう風になったかというのを理解する事が大切になると思っているんですが、とにかくですね、最近随分変わってきましたけれども、こういう
ネットユーザーの課金に対する意識を変えないと本当に儲からない
というのが、我々がニコニコ動画を作った時からずっと挑戦してきている事です。このように、とにかく
「お金を儲ける奴はゆるさない(=「嫌儲」)」
「ネットにお金を払うのはバカだ(=「情弱」)」
というネットユーザーに対して、どうやってコンテンツに対してサービスに対してお金を払うという意識をつくる事が出来るか、それが僕たちのやって来た事です。
「嫌儲」意識というのは、どういうところから発生して来たかというと、基本、簡単にいうと、
<儲かるような仕組みをいれると面白くなくなる>
という認識がある。とにかく儲けようとすると、もうシラケるんじゃないの?というのがあります。
これは、インターネットの初期にアフェリエイトというのがはじまったりとかして、いわゆるバナーとかがそうなんですけれども、そうするとバナーを貼りまくる奴がいる。そうするとサイトが非常に汚くなって、サービスが異常に汚くなって、コミュニティがダメになる。
実際グーグルで検索するとSEOとか出てくるんですけれども、人気のあるタレント、アーティストを知るために、名前を検索すると、関係ないものがヒットする。なにか変なサイトがヒットして、自分のサイトに誘導しようとするようなことがありますけれども、それは人気のあるキーワードに反応するようなサイトを作って、広告収入で儲けようとしているんですね。
そういうことをすると、とにかく広告を目当ての訳の解らないサイトが多くなって、ネットが汚くなる。面白くなくなる。ネットがシラケる。というのが、嫌儲の出来ている一つのおおきな理由です。
あと、もう一つは「情報弱者」思想なんですけれども、最近は随分改善されたんですが、昔は音楽の場合は特に良い有料サービスが無かったんですね。あっても有料サービスはだいたいサビレている。あとはサービスの自由度が少ない、さらにコンテンツの内容が豊富じゃない、というのが有料サイトで、無料サイトは、これは無料だからユーザーが集まってくる、にぎやか。みんな使っている。友達もみんな使っている。なにしろ何の許可も得てませんから、やりたい放題の自由なサービス ( 会場 笑 )。
そして、許可をとってませんが、豊富なラインナップで全ての楽曲がダウンロード出来る。というのが、無料サービスと有料サービスの違いで、だったら無料サービス使うだろうというのが、これが、この10年ぐらいで日本のネットユーザー、携帯ユーザーの中で培われてきた常識になっています。つまり、こういう中で、たとえば無料で曲をダウンロードした方が、携帯変えた時に移せるし、好きな曲があるし、長さや音質も良い、というのが実際に起こっていたんですよね、そうすると、
コンテンツを愛する人は、無料サービスを使う、コンテンツのことをあまり知らない、コンテンツを本当は愛していないような人は、バカだからお金を払う。
というのが高校生なんかの間では本当に常識になっていたんですね。今でもそれは残っています。この、
「お金を払う事は情報弱者だから頭が悪い」というような感覚をどうやって払拭してお金をはらってもらうようにするのか
というのが、ネット時代に非常に重要な事なわけです。
それで、僕たちもインターネットでニコニコ動画を作る時に、インターネットでどうやって儲けようかということを、非常に一生懸命考えまして。
そして結論が出たんですよ!それは
「儲かる訳が無い、こんなところで!」ということです。(会場 爆笑)
「こんなところでやってられない」というのがニコニコ動画を作ったときの僕の感想です。
それで、本当に腰を据えてやっていかなければならないと思って、いろんなことを考えたんですけれども。
それを、幾つかご紹介します。まず一つは
サイト自体がコンテンツ化するしかない。いわゆるパッケージコンテンツというのはコピーされる訳です。だから、世界感を持ってくるしか無い。
われわれは「ディズニーランド化」と呼んでいたんですけれども、とにかく皆がエンターテイメントする場所を作ろうと。愛するべき場所を作ったらお金を払ってくれるのではないかなと。というので、いろんなものをショーアップして行きました。そのショーアップの一つが、サービスの発表をちゃんと記者会見しようと。記者会見もどんどん演出を加えて行って豪華にしようと。というので、豪華にして行った訳です。最初は普通の会議室ですね、200人ぐらいが入る会議室に、ニコニコ動画の新バージョン発表会というのをやったのが最初なんですけれども、その次はJCBホールを使って記者発表をやりました。それがだんだん大きくなっていって、今、幕張メッセでやっているのは、その時の記者発表会のなごりです。実は記者発表というのは、15分位つつましくやっているんですけれども、本当はそれが本体で、記者発表会に来てもらう為に始めたのがニコニコ大会議であり、ニコニコ超会議の始まりです。
そして、もう一つ一生懸命トライしたのが、
「情に訴える」という作戦です。
超会議の時に「明るい発表会」とかやるんですが、なんでも「明るい」「明るい」と言っておりまして、だいたいニコニコ動画が始まってからドワンゴの決算発表はインターネットのトップニュースになる訳ですよ。「ドワンゴは今年も赤字だった」「ドワンゴの赤字拡大」というのが、毎年ネットでニュースになっていまして。ユーザーがニコニコ動画がこのまま本当に続くかというのは心配してくれたんですよね。なので、<いかに儲かっていないか>というのを、ずっとユーザーにはアピールしてきました。で、そして、全然儲からない中で、こんなことやっていたら儲からないだろうなという、
ユーザーが哀れみを誘うような、そういうお金の儲け方
というのをやってみて、こんなの無理だろうなとユーザーに本当に思ってもらう。そういうビジネスモデルというものを次々と発表してきました。
そして、もうひとつは無料では世の中にないサービスをつくるというのが重要だと思っていまして、
ユーザーには作れないサービスを作る
ということをやってきた訳です。
それが例えばニコニコにはパロディが多いのですが、パロディにされる側の人達が、本人が実際にやってしまうとか、そういうことを交渉してやってもらったりとか、六本木にネットに対応した360度スクリーンのライブハウスを造ったり、ニコニコ本社とか、大会議、超会議、町会議とか、そういうイベントを作って、
ユーザーには出来ないようなことを提供してきた
というのが僕らの作戦です。」
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