動物園ってなんだ Vol.2 ~実感編~
2018年10月収録。動物園に勤める二人が動物園の意義について考えています。前回は「人類にとって動物園とはなにか」という壮大なテーマに及んでしまいましたが、今回は働いていて感じる動物園の機能について語っています。
こどもにとっての動物園
T もう少し、実社会に落とし込んで考えてみようよ。動物園が社会にあって何の得があるの?どんな機能があるの?
へい 公園的機能。レクリエーションにふくまれるけど、家族で来て楽しめる場所でしょ。
T うん。これは公開じゃないとできないことだよね。保全に特化した施設じゃできない。
へい 後はこどもが安全に楽しめる場所っていう風に言う人もいるね。
T うん。それは思うよね。
へい これは働いてるとけっこう感じるよね。だって、こどもたちが園内で駆けずり回ったり転んだりしてるじゃん。街中でやってたら一発で車にひかれるよ笑
T ほんとだよね。最近びっくりしたのは園路ハイハイしている赤ちゃんがいたもん。
へい 笑 おれは甥っ子とか見てるとすごい感じるよ。だってこどもって制御不能な生き物なんだもん。あんな生き物を解き放てる場所ってあんまりない気がするんだよね。
T この間、解説してたら、聴いているこどもが裸足だったからね。びっくりした!
へい でも、それぐらい安全な場所ってことだよね。
T あとは子供にとってはじめてがいっぱいだよね。それは、もちろん、家の中とか近所とかでもいろんな初めてなことが起こるんだけども。動物園は、安全に遊べてすごいいろんな刺激がある場所。そして、動物園に来る子供たちはすっごい体力がある笑
へい それ分かるわ笑
T もう、動物園の中を何時間でもかけずりに回ってるから、めちゃくちゃ体力あるよね。
へい 毎週末、絶対来る姉妹がいるんだけども、ほぼ毎回開園から閉園まで遊んでるからね。あんまり動物は見てなくて、どっちかって言うと俺とかと遊びに来ているんだけどね。
T だからまあ、公園的機能に近いのかな。
へい そうだね。
T でもまぁ、野生動物じゃなくてもいいじゃんって言われるとその通りだし。
へい そう。ぐうの音も出ないけど。
T でも、いいじゃん、それは。公園的機能という一側面にしか過ぎないから、それが全てじゃない。子供の安全な遊び場を用意するためだけに動物園はあるわけじゃないんだからね。多分、動物園ってすごくいろんな可能性があるんだけど、それを自らどんどん制限していくから。。。
へい でもね、世間の目=愛護団体ってやつがありますからね
T まぁそうですね
へい 一般に公開しているって言う点においてはそういう声を無視はできないからね。後は公共の場だから、公益性とかも担保しなくちゃいけないしね。
動物園に野生動物がいる必然性を証明するのってなかなか無理な気がするんだよね。
T でもそこが1番大事だよね。
へい 大事なんだけども、答えを出せてない部分だよね。
T だって答えはないんだもん。
へい 旭山動物園と到津動物園は二大奇跡の復活動物園として有名じゃん。それで、到津動物園の場合、民間でやっていたところが閉園するってなったときに、市民から「潰さないで!」って声が上がって、公立の動物園になったという、いわゆる民から官へっていう動物園だけど、あの潰さないでって言う声は、ずっと昔から林間学校とかやっていて、みんなの思い出の場所だから、という理由だと思うんだよね。それ事体すごく価値があることだと思うんだけど、野生動物の必然性の証明にはならないんだよね。
T それはちょっと違うと思うよ。もし、それが地元密着のキャンプ場とかビジターセンターだったとして、そこで林間学校とかするのが当たり前ってなっていたら到津みたいになったかな。そのキャンプ場が潰れるってなったら買い取れ!ってなったかな。自分はあそこまでの市民運動が起きなかった気がするよ。
だから、そこにゾウとかキリンがいたから特別な場所というそういうのがあるんじゃないかなって思うんだよね。
もちろん、その地元密着で来てもらっていたっていうのはあると思うけど、やっぱり野生動物という普段は絶対見れない動物が居るってのは大きいと思う。小さくはない。
へい なんらかの作用はしてたってことか。
T:自分たちにとって特別な場所なわけじゃん。林間学校は他でもできる。
だけどやっぱり本物のゾウとかキリンとかが見れるって言うと動物園しかないわけで。
まあ、愛護的な思想の人たちの中には、映像でいいんじゃないって言う意見もあるかもしれないけど・・・
へい 動物の情報はGoogleの検索でオッケーだって言ってたね。
T それはその人にとってオッケーなわけで、実際はやっぱ本物見れるっていうのは動物園しかないわけだからね。
へい 補足で、グーグルの検索OKっていう部分に反論すると、動物園の強みって情報が集約しててわかりやすく出せるってとこだと思うんだよね。
いくら自分でGoogleで検索したって言ったってそれは自分の想像の域の話じゃん。
でも、専門家が適切な形で情報提供できたりすると自分が思いもしなかったことが知れたりとか、知らない観点が提供できたりとかそういうこともできたりすると思うんだよね。世界が広がるというか。
だから、Googleの検索だけじゃわからないこともこちらにはあるよって言う事は伝えたいよね。
T 話を戻して、この公園とか子供の福祉的な機能って4つの役割にはなかなか当てはまらないじゃん、まぁレクリエーションとかに含まれるのかもしれないけども。
これって利用している側からしたらめちゃめちゃ大きい要素だと思うんだよね。
へい そうだね。
T でも、提供する側はこれを4つに入ってないから無視しようとするというかここを伸ばそうとか、、、
へい そういう議論はなかなか起きないよね。
T むしろけっこう目の敵っていうか。
昔は4つの役割を表記する時に1番上にレクレーションが書いてあったと思うんだけど、今は1番下に追いやられてるよね。
へい いろんなひとを世間の声があるからな。動物を娯楽で消費していいのかみたいな。そういう声にある程度応えていかなければ部分もあるけども、でも来園者ありきだからね。
T:来園者は大事だと思うんだけどね。えもいえぬ力ってのがあって。科博の特別展とか行くじゃんたまに。全然心が落ち着かないんだよね。
へい ガヤガヤしてるな。
T そうそう。子供が走り回れる感じじゃないじゃん。(展示物に)触っちゃいけませんだし。次々進んでいって、展示をじーっと見て、次の展示物をじーっと見てさ、また次って同じことをずっと繰り返していて、不思議なんだよね。博物館ってなると敷居が上がるよね。動物園は敷居が低い。
実際、ローカルな動物園の方が多いんだよね。都市のど真ん中にある大都市の動物園よりかは地方の動物園の方が数が多い。そういう面がある中で大都市の動物園と地方の動物園が同じ目的を共有しているってのもなかなか厳しいよね。
へい そうだね。
僕は竹島水族館すごく好きなんだけども、あれって保全・研究は諦めたというか自分の園はそういうことには力は入れないというある種の宣言をしたじゃん。レク特化ですって言うと語弊があるんだけども・・・
T 教育というか情報発信だよね。
へい そうそう。竹島水族館はそういう部分である種の差別化に成功した。ローカルの動物園はそういう差別化をしていかないと今後太刀打ちできない気がするんだよね。
T いや、差別化しなくてもいいと思うんだけど、自分たちのアイデンティティーを明確に打ち出した方が強いよね。それを来園しているヒトの気持ちに寄り添うというか、どうやったら来てくれるかなっていうのをめっちゃ考えている。広報戦略とかさ、
へい:相当練っていると思うよね。
T 営業的なテクニックも凄いと思うんだけど、何よりも自分たちはこうやるんだと言う強みというか・・・。
旭山とかもそうじゃん。展示がすごいって言うよりかはこういう展示を作ろうって決めて、それをずっと打ち出し続けて、それに沿って発信し続けていく。今、注目されつつあるいくつかの動物園も「ウチはこうやるんだ!」っていうアイデンティティーを打ち出してそれを世に発信していくと、そこにメディアがくっついてくるという感じじゃん。
へい やっぱ、軸があるのは強いよね。
T それもそうだし、やっぱり、メッセージとして発信しまくると面白いんだよね。そういう人たちって勝算ありきでやるわけじゃん。ビジョンがあってやってるわけだから、ストーリーとしても面白い。
旭山だってこれで勝てるって言う自信があったからこそだよね。長年、現場にいる人たちが自分たちが持っているエネルギーとかを分かった上で「こうしていこう!」ってなっているってのは強いよね。
あと、まんべんなく面白いっていうのもあると思うんだよね、たとえ薄っぺらいとしても。福祉に特化とかレクに特化とかする必要はないと思うんだよ。園として「ウチはこういう動物園だ!」って言うのを働いている人と金を出す側=運営側が同じ方向を向き出すとうまく行くよね。
へい 共有できているかってのは大事かもね、運営側と働いている人が共有できているのも大事だし、そこに市民も共有できているともう最高だね。来てくれる人じゃん、結局、動物園を評価してくれてるのは。
だから、そういう人たちと自分たちがこういう風にやっているんだ!って言うのが共有できている感じって原動力になる気がするんだよね。動物園が前に進むって感じがする。
Vol.3へつづく
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