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動物園ってなんだ Vol.3~苦悩・結論編~

2018年10月収録。動物園に勤める二人が動物園の意義について考えています。前回までは「人類にとって動物園とはなにか」、「働いていて感じる動物園の役割」について語ってきました。今回は最終回。動物園で働く2人が出した動物園の答えとは。

動物園職員が抱える危機感

T いろいろ話してきたけど、前提として、動物園ってかなり後ろからスタートしてるよね笑

へい どの軸の?笑 
いろんな軸があるけども。

T なんて言ったらいいのかな。ぼんやりとだけど、動物園で働いている人たちが思ってるのは変わらなくちゃだめだよねって思ってるよね。

へい うん。思ってるね。

T うまくいってる施設って、それを磨いていけば前には進むけどさ。前例主義とかその場で停滞するのも良くないけど、上昇志向って危険だと思っていて。
現状、個人の資質だったり、オーバーワークとかで成り立つ出ても出ちゃっているわけじゃん。

へい やりがい搾取問題ね。

T 今のままじゃいけないってみんなが思ってるし、いまのままだと動物園がなくなっていくっていう可能性が結構あるよね。

へい てかいくつかなくなるでしょう。

T だから変わっていかなくちゃいけない時に自分たちのアイデンティティーを持っていないといけないんじゃないかな。それが何かに特化するとかじゃなくてもいいけど、何かしらのアイデンティティは必要。
あと言いたかったのは、他に海外ではいろんなものが掲げられているけど、それに対してどう振る舞ったらいいんだろうね。大きなところでは「保全」と「動物福祉」だけど。その流れに乗らなきゃいけない部分も発生するけど、それだけやっていればいいのかというと微妙だよね。

へい だから組織としてのアイデンティティというか軸が大事になってくると思うよ。個人の思いとかではなく。

運営側の動物園観

T あとなんだろね、動物園の意義ってやつは。

へい 人もたくさん集まる場所だしね。

T 集客という面は本当に難しくて。行政側からしたら町おこしじゃないけど、住民を増やしたりとか観光客を呼び込んだりするための装置でもあるわけじゃん。
金が落ちたり、人が集まる場としては自治体にある施設としては優秀な施設として意義があると言うこともできる。
行政はこっちをやれやれと言ってくるけども、そこを目的とするとズレってきちゃうというか。そこのズレな気がするんだよね。
観光客を呼べ!とか言うけど、それは実際に観光客に来たい!と思われたりとかしないと、それは旭山動物園みたいに芯があって、それに観光客にはまらなかったら来園者は来ないと思うんだけど、行政側は「じゃあ、人を集めるためにはどの動物を入れたらいいんだって、パンダを入れれば人は来るのか」って聞かれるけどさ。。。

へい それは違うよね。

T だから、パンダとかライオンとか(動物)種を目的にしちゃいけないよね。これを達成しようとかしていくとやばいじゃん。
集客とか町おこしに特化したりするとあんまり見たくない動物園が増殖していくよね。

へい:集客とかって結果の話じゃないかなって思うんだよね。

T そうなんだよ。戦略的にやらなくちゃいけない部分でもあるんだけどね。その辺が難しいよね、政治的だから。
人がたくさん来ればお金がつくって言うのが今の日本の体制だからさ。逆に人が来ないとお金がつかない。そして、身売り(=外部に売却)ってこともあり得るし。
ある動物園は300万人きた結果、自分たちがやりたかった本当の芯の部分が観光と言う波に潰されてしまって、ほんとに伝えたいメッセージっていうのは、意図せず伝わりにくくなってしまった。で、今150万人ぐらいに落ち着いてようやく落ち着いてやりたいこととか伝えるべきことが伝えられるようになったって言ってたりする。だから、あのブームはキャパを超えてたんだよ、施設としての。

へい そう施設にはキャパがあるからね。

T 科博とかもそうだけど、窮屈なんだよね。見たくても、見れなかったりとか、止まりたくても、止まれないなかったりとか、後ろの人がぎゅうぎゅうしてきたりするし。

へい 科博とかは大都市にあってそういう施設として運営されているからだけど、なんかそういう集客とは、違う視点でお金を落とす仕組み、あ、ファンドレイジングか。いや、集客じゃない仕組みでお金が落ちてくる仕組みがあればいいと思ったけど、それがファンドレイジングなんだなと思って。

T いや難しいー。
本当に来園者がお金落とさなくちゃいけないのかなと思ったけど。集客とかお金儲けが目的になってくるとますますズレてくる気がするし、、、

へい でも、実際ごはん食べれなくなっちゃうけどね、委託されている業者の人は。
お金がある程度落ちて来ない施設、運営してる側がお金が落ちてこない箱なのだと言うことを自覚して、かつ、市民にとって必要で大切な場所なのだって言うことを再認識されれば公的資金が投入されて我々も満足にごはんが食べれるんだけどもね。
けど、この国の流れを見ているとそういう風にはならなそうじゃないか。運営している側はお荷物というかお金がすごいかかる施設で邪魔だなくらいにしか思ってないし。

社会に動物園の意義を問いたい

T どうしたらいいんだろうか。「動物園とは」というテーマだけど、一般社会にとって「動物園とは」みたいなものはぼやぼやとあるかもしれないけど、内部の人間が思っていることが社会に全然浸透してないじゃんね。

へい それはまさしくその通りだけど、そんなずっとだ笑

T ずっとなんだけど。それでも、始めた当初には社会の中にはちゃんと意義があったじゃないか。長い歴史の中で町おこしの道具じゃないけども商業主義的な産業に使われてきたわけじゃん。

へい 政治的に使われてきたしね、歴史的にも。

T 動物園作りますって言ったら票が集まった時代があるからな。それで、実際動物園が作れたしお金も潤沢にあって、動物も安く手に入った時代があった。その感覚がまだ全然世の中にもあって・・・。

へい そうなんだよね。でも、もうそういう時代は随分昔に終わっている。動物園はうまく時代に乗っかって来れなかったんだよね。

T だから「動物園とは」っていうのはもっと社会に問うたほうがいいよ、僕たちは。

へい それはそうだよ。

T なんかいい感じに軌道が修正されてきました。「動物園とは」について、僕らはいろいろ答えがあるんだけども。

へい 僕らが思ってたってしょうがないんでよね。

T うん。芯を持ってる人たちは社会に発信するから、それが受けられた時にうまくいくんだよね。

へい だからもっと発信しよう。

T 動物園とはっていうのを。世の中がもっと真剣に考えるようになるともっと動物園は良くなっていく気がするよ。

へい これは極論だけど、動物園って、あってもなくてもどっちでも良いんだよね。だって、だれも動物園がなくても死ぬ事は無いから。合理的に考えると、博物館も図書館も多くの文化施設はそうなんだよ。
でも、今あるんだったらみんな真剣に考えてもっと良いものにしていったほうがいいんじゃないかなって思うんだよね。

T 動物園がよく4つの役割って言ってるけど、普通の人は全然知らないよね。自分だって最初にこの分野に興味を持ち始めて本を読んでたときにへーってなったもん。そんななってるんだねって。歴史もそんなになっているんだねって。

へい ここでこじれたかみたいな笑

T 他の施設とかはどうなっているのかな。
よく対比して考えるのは、図書館なんだけど図書館の役割って言うと、図書館の人と市民の人との間にズレが少ない気がするんだよね。

へい そうかな。図書館の役割ってなんですか?

T 世に出ている出版物とかをみんなが触れられるようにすることじゃないかな。

へい 後は地域の文献とかの保存的な役割があるんじゃない?
でも、結局、図書館も動物園と同じで受け取っている側は本借りて読めて楽しい位なものなじゃない?あまり大差がない気がするよ。
働き手と市民との認識の乖離で言えば、博物館のほうがもっと絶望的な気がするよ。

T たしかに。

へい でも、博物館の方がしっかりしてるというか基盤が盤石だね。一学問として成立してるからかな。

T 学芸員という専門的な人たちがずっといるからね。専門職か現業職かっていうのはでかいよね

へい まぁ当たり前だけど自分が働いていて施設にはついては深く掘り下がっていくけども、他業種に対してはわからなくなるっていうのはそういうもんなんじゃないかな。だから、乖離が発生するっていうのは必然なんじゃないかな。日々そんなに考えて生きてないしね。

T それが普通だと思うしね。

へい でも、まぁ、それは働き手のわがままかもしれないけども動物園についても少し考えていってほしいよね。

T 動物園はズレがひどいじゃん。

へい うん。

T 運営する側と現場側のズレていうのかな。例えば、図書館はこういう施設であると思って働いている現場とじゃあ、読まれていない本は全部捨てますって言ってしまう運営側っていう構図。

へい これって何が原因なのかな。日本っていう国自体が公共事業対して価値を見出してないのかね?

T それは輸入された概念だからじゃん。

へい そうか。

T でも、大きく違うところはあって。図書館も公民館も博物館もちゃんと法律で定義されているっていうとこじゃないかな。だからプライドを持って働ける。この言い方は語弊があるけど、プライドがないというかほんとにこれが動物園なのかって疑う動物園も国内には存在するじゃないですか。

へい はいはい。それは、僕は動物園とは呼べないみたいな施設ね。

T そう。なので、われわれは動物園とはっていうのを社会に発信していくのをがんばっていきましょう。
すべての国民には難しいけどもその施設を利用してくれる人たちの範囲ぐらいまでは一緒に考えていくことができたらいいよね。

へい 一緒に考えていくことってのが大切だよね。だって我々もわかんないし。

T 子供の福祉施設でもいいじゃん。じゃあ、その中で野生動物がいる意味を探したらいいじゃん。

へい ね。ないことを前提に考えるよねみんな。だから、みんなに動物園について興味を持って欲しいなって。

T でも一般の人たちに知ってもらってのも、大事だけども社会的にというか金を出す人たちも含めて、行政でやってるんであれば行政の人たちと共有できるといいよね。

へい んー。そうなると、結局、反応するのは金になるとか人がたくさん来たって言う所じゃん。

T どうしたいんだろうね。

へい:どうしたらいいのって思いません?笑

T それでも、「動物園とは」をもっと考えた方がいいよみんなと一緒に。それが自治体としてもそうだし、もっとみんなで考えられるような仕組みとかがあるといいよね。
そうであれば、どんな方向に進んでもいいと思うんだよね、動物園がアイデンティティを持つことができれば。
動物園だけで、「我々はこれで行くんだ!」っていう風に指針を決めていくのはなかなか難しい。結局、上に潰されましたとかよく聞くじゃん。だから、つぶれないためにどうしたらいいかって言ったら使ってる人たちをまきこんでいく。結局、その上の人たちに投票するのは市民だから。

へい 市民と一緒に考えていくってのが大切。

T うん。多分、1番すっきりするのは法律ができることじゃん。そうすれば、動物園とはと言う定義ができる。そしたらそこからはみ出さない範囲内でどう個性を出すかとか考えることができる。その中でいろいろやればいいけども今はその枠組みがない。

へい うん。枠がなくて自由すぎる。

T 法律に準ずる枠が日本動物園水族館協会で、その協会が定めた枠が4つの役割なわけじゃん。この役割を満たしながらどうしてかっていうの各園が考えていくってのが現状って感じ。

へい だからある程度ラインを決めて欲しいよね。

T 枠組みの?

へい そう。保全はここまで!みたいな。今は空気でなんとなく決められていくというかそんな感じがしていて、僕らの感触としては。

T 本当は動物園を運営するには4人のエキスパートが必要だよね。4つの役割を達成するためには。これを多くの運営している人たちは知らないから動物園の役割を運営している側にお知らせしよう。これを1人で担当を何個も持って、はい全部できましたってのはまあ無理があるよ。やってる人もいるけど。
そもそもそれができることを試験の基準にしていないじゃん。そーゆー試験をやってできる能力がある人だけを入れないと動物園の目的って達成できないよね。でも、そんな人、世の中にそんなにたくさんいるわけじゃない。理想として掲げていることを全て一人で達成できる人材っていうのはほとんどスーパーマンだし、なかなか難しいよね。自分の担当動物で4つの目的を全て達成しようとすると。

へい だから働き手としては飼育+αなにか秀でたものを身につけるってのが現実的な落としどころな気がするよ。

T そう、我々は飼育員だからね。

へい だから、飼育員にすべての役割を投げられているってことがそもそもおかしいんだよね。

T まとめに入りましょうか。
まあ、動物園自体の意義を一般に、広めていこう!って言っていたけども、イルカ問題の時に必要なこと、というか、もっとやった方がいいこととして僕らの存在をアピールした方がいいって指摘していた人がいたけど、僕ら自身もよくわかっていないというか答えがないんだよね。法律がないから。法律があれば日本でのルールとしてはあるんだけどもそれがない。だから自分たち自身にも動物園とはなにかを問わなくちゃいけないし、一般の人に問いっていって、利用者と動物園と運営者でこんな感じかなっていうイメージ作っていけるといいよね。そんな風に思います。

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