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COLONY 10th interview - 4

麓健一『コロニー』10周年インタビュー
聞き手:Chantrapas (doubles studio)

たたえよ いつかのこと
たたえよ あの時のこと
たたえよ 小さなこと
たたえよ 巡ってきたこと
たたえよ あなたのこと
たたえよ 離れていっても
たたえよ もう一度だけ
たたえよ 出会えたことを

『たたえよたたえよ』

麓健一
2008年 『美化』
2011年 『コロニー』をリリース
その後、十年間の空白

 

4(*3はこちら

Chantrapas(シャントラパ/以下”C”): ちょっと似た話がメモにあるから読んでみようかな。

麓 健一(ふもと けんいち/以下”麓”): うん。

C: 時制の話だね。事前に少しメッセージのやり取りをしていて出た話。「今、過去、未来が同時にあるような時間軸、パラレル、整理された混沌」。

麓: あぁ。

C: 『スローターハウス5』って好き?

麓: そのことを考えてた。

C: あれは運命論的な捉え方でしょう。確かに時間軸がないように飛ぶんだけど、過去も未来も決まっていて始めも終わりも固定されてる。これってリニアに乗ってるのと同じなのね。パラレルに見えて、リニアな世界。

麓: うん。

C: この捉え方がマズい。線的に考えると、今・過去・未来が同時に存在しても何も変わらない。

麓: うんうん。

C: もっと大事なのは、「今」を起点に、今の行いで未来が少しずつズレる。過去も少しずつ変わること。

麓: 過去も変わる……。

C: 10年前聴いた『コロニー』と今聴くそれ違うでしょう。私の中では『コロニー』は今最高値。過去変わってるでしょう。非常に主観的な話だよ?

麓: うん。

C: 主観でいい。それで、分かりやすいかなと思った例え話があって。

麓: うん。

C: われらもともとロックの出というか、そういうものが好きでしょう。

麓: そうね。

C: オアシスは有名でしょう。

麓: はいはい。

C: オアシスが売れて、しばらく後にジョージ・ハリスンが「あいつら俺たちの真似だから」みたいな感じで結構ディスってたのよ。それに対してノエルが「俺たちが売れるまで誰もビートルズなんて聴いてなかっただろう」と返したの。

麓: はははははは。ほう。

C: ビートルズの評価って、オアシスが出て来た後の方が絶対上がってる。

麓: そうね。

C: それは事実でしょう。そういうことが起こる。これは過去が変わってるとも言える。変わってない人もいるだろうけど、大人数の過去が変わった。民主主義的な意味で、ビートルズの評価ってオアシスの後の方が絶対上がってるじゃん。

麓: うん。

C: こういう変わり方がある。みんなで変える。その後ね、

麓: うん。

C: ジョージが死んで、すぐ私は「ノエルが何て言うかな?」と思った。そしたらちゃんと追悼してた。

麓: ふうん。

C: あの時はモメたけど、先の未来ではちゃんと死を惜しんでたね。

麓: なるほど。

C: 過去も未来も一緒に変わる例。

麓: なるほどね。

C: リニアに乗らずに、過去と現在と未来を同時に意識する。意識せずとも、いる。そういう状態。ははははは。よく分からないね。未整理。健一くんが時間について「最近よく考える」と言っていた意味は?

麓: ちょうど昨日観返していたよね……ホン・サンス観る?

C: 大好き。

麓: ほんと。『自由が丘で』を観ていて、

C: 素晴らしい。

麓: 時間の話ね。時間の説明をしていて……今ちょうど僕が新しい曲を作っているんだけど。

C: うん。

麓: 映画なり音楽なりは時間的な拘束があって……まあ「時間の中の芸術」だよ。言ってみれば。だけどその形式を使って、時間という「足枷」みたいなものから解放する、「楽になる」みたいなやり方があるんじゃないかと思ったのね。『スローターハウス5』の映画もめちゃくちゃだったなと思って……だから今のオアシスの話すごい面白かったけど。

C: うん。運命論的に捉えるんじゃなくて、「変えた」という主観。

麓: 時間というものを考えるようになったのは歴史というものに興味を持ったからだけど。今Cが言ってくれたそれを……なんとなく自分の無意識でやろうとしているんだろうね。過去と未来と現在が同時というか、固定的じゃないことがなんとなく分かっているから、僕は歴史のことを調べたりするんだろうな。

C: 過去は平気で変わるよ。

麓: 少なくとも僕個人の中ではいくらでも変わったからね。そうだよね。時間の話が出て来たのは面白いなぁ。加瀬亮の台詞をそのままメモしているよ。「時間に実態はないんだ/君の肉体や僕の肉体とは違う/テーブルともね/人間の脳みそは時間は流れているという概念を作った/過去から現在、未来へと/だけど僕たち人類は必ずしもその流れに従って人生を体験する必要はないと思うんだ/とはいえ人間はこの時間の概念から逃れられない/なぜだかわからないけど脳がそう進化したからだ」と。Cのさっき言ったことを極端にすると、「時間が無いんだ」みたいな感じになっていくと思うんだよね。そうすると楽だよね。簡単という意味じゃなくて、生きる上で少し軽くなるというか。

C: うん。

麓: そういうことをモヤモヤと考えていた。確かに自分の作ったものを通して時間というものを考えるという意味では……作品に残すというのはすごい面白いね。

C: うん。

麓: それぞれ。

C: せっかく時制の話になったから、

麓: うん。

C: ファンの間でというか。はははは。「麓健一の三枚目のアルバムは録った上でお蔵入りになった」という話があって。

麓: はははは。ははは。

C: ピアノとドラムのトリオだったという噂がある。

麓: 実際はベースとドラム。コロニーのメンバーとは別の人たちに頼んで、録音もある方に頼んで……7、8年前だったと思うけど。

C: 録ってないの?

麓: ある程度形が出来てお蔵入りとかではない。一回録ったくらい。たぶん。なぜかしっくりこなかったの。

C: それを聴きたい人もいると思うから、それを解決しておくと……伝説性が減るか。ふふふ。

麓: ずっと曲は作ってて……次のが出たら面白いんじゃないかな。録音……『コロニー』以降の10年間。村上春樹が短編集のはじめに「澱のように溜まった」と書いてたけど、そういう感じだよね。コンセプトを打ち出して出来るようなタイプでもないし、音楽家というのでもないし。うん。澱のように溜まったものを成仏させる。

C: あるんだね。

麓: 去年の10月にベーシック録音は終えています。ライブは……ある程度狭い場所でみんな集中して聴いてくれるから、良くは聞こえるんだよね。だけどライブとは違うレベルで音源に落とし込めるというのは、どうすることも出来なかったから、ある人にプロデュースをお願いしました。今回の曲たちは自力では成仏させれなかった。

C: 最初から完璧だったよ?

麓: 最初から完璧?

C: 作品。

麓: それが……それはなんか……ああいうふうに出来なくなったということだろうね。

C: アーリーワークスが持つ社会性は解き放ってやるべきだよ。

麓: 社会性あるあれ?

C: あるよ。

麓: はははは。

C: 最初に会った時20曲くらい入ってるデモみたいなのくれた。

麓: うーん。

C: 覚えてないかもしれないけど。

麓: 渡したっけ。

C: 『NHK』とか『西海岸』とか全部入ってる。ライブ音源もいくつか。

麓: 全部詰めを渡したんだ。

C: 昨日聴いてたんだけど、あれは世に出すべきだよ。

麓: そう。いやあ。

C: 素晴らしかったよ。

麓: 本人がもう覚えてないからなぁ。なんにも覚えてない。

C: 健一君は「ループ」で作る感覚があるでしょう。

麓: 自然となっちゃう。

C: それって今ジャスト。アーリーワークス聴いても全然変じゃない。素晴らしい。

麓: 確かに。展開が出来ないからループなんだよね。

C: みんなループの感覚を上手くなりたい。最初から完璧。

麓: いやあ。面白いね。

C: 自己評価~。

麓: ははははは! 憑依してたから。

C: 「そういうのはやった」ってこと?

麓: そういう時期があった。自分の体の中を通過していった。

C: あながち「神聖」と評されるのは間違っていない。

麓: そうだね。何かが私を通した。

C: 信仰的なことは今はどう捉えているの?

麓: それは……随分と長い間、教会からは離れているけど、色んな思想を取り入れて自分なりの考えにしていく中で、やっぱり自分の中で霊性や信仰、宗教というものの重要性を以前以上に感じています。

C: 生まれた場所のこと、奄美大島のことって覚えてる?

麓: ほとんど覚えてなくて……4、5歳で離れてから一度も行ったことがない。だけど3、4年前かな、仕事で与論島には行ったのよ。奄美の隣の、沖縄との間にある離島なんだけど。

C: うん。

麓: 本籍は与論島にあるんだよね。奄美で生まれたんだけど、先祖を遡ると与論島というとこで。それでオフの時間に本籍地の住所に自転車で行ったんだよね。初めて行った。そしたら……今まであんまり味わったことのない懐かしい感じがして、DNAのレベルでビシバシ来ちゃって、やっぱりこっちから来たんだなと思った。

C: ふうん。

麓: 南方の、アジアの方だなとなんとなく感じたね。行きたい。ずっと惹かれてるよ。

つづく

 

2022年3月30日
ビデオ通話を録音したものを書き起こし、編集したもの

edited by Chantrapas from doubles studio
編集:シャントラパ/ダブルス・ストゥディオ

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