バルカン室内管弦楽団との幸せな日々~2023
バルカン室内管弦楽団の日本ツアー2003に賛助出演してきました。コロナ禍もあってバルカンに参加するのは4年ぶり。
バルカン室内管弦楽団をご存知ない方の為に説明すると、バルカン地域で内戦を続けていた民族の共栄を願って指揮者柳澤寿男さんが設立した室内オーケストラで、コソボやセルビア、マケドニアなどのメンバーを中心に結成されており、日本ツアーの際には足りないセクションを日本人で補うため、私にも4年前にお誘いがあり、その御縁から今回も出演する事になりました。
今回はバルカンだけの演奏会のほか、石井竜也さん、一青窈さんとの共演や京都フィルハーモニー室内合奏団との共演などもあり、プログラムが盛り沢山。演奏会6回、リハーサルは4日間で、通常日本のオーケストラなら1日4コマ(1コマ1時間)のところ毎日6コマというハードな内容でした。
そのリハーサル初日、久しぶりに会うメンバーとハグを交わし、初めて参加する奏者と挨拶をしてリハーサルスタート。
リハーサルが始まってみて、徐々に「あ〜そうだった、バルカンってこうだった」と感覚を思い出しました。
リハーサル中なのに私語は止まらない、楽器を置いてトイレに行く、面倒くさいと弾かない、指揮者が話していようと主張をぶつけ合うなど雰囲気は自由きまま。日本のオーケストラは堅苦し過ぎると感じる事はよくありますが、こちらは自由過ぎるというか。これを体験出来るだけでも参加した意味があるというものです。
コントラバス首席はブルガリア人のマルガリータ。彼女は毎回参加しているバルカンの顔のような存在でもあり、アンサンブル金沢やモナコのオーケストラで首席を務めた経験もあって日本式のやり方も知っているのですが、とにかく強烈なリーダーシップでリハーサルを引っ張ります。
コントラバスで新たに参加したのがスルジャン、見た感じ格闘家みたいな肉体で女の子と一緒にいるのが大好き。石井竜也さんのコンサートはノリノリなのに「ドヴォルザークはストレスフルだ」と大きな溜息をついて明らかにやる気をなくし、リハーサルの終了時刻が迫るとソワソワし始め、時間がオーバーすると「ジャパニーズスタイルならオーバーしないんじゃないのか」と時計をアピールする、そんなやんちゃなキャラクターでした。
4日目のリハーサル後大阪へ移動。リハーサルが17時半に終わってすぐ移動し、途中大渋滞もあって私たちが大阪のホテルに到着したのは午前0時半。メンバーを乗せたバスが到着したのは午前1時半で、翌日もう石井竜也さんのコンサート本番という過酷なスケジュールに、メンバーも疲労困憊といった感じでした。今回はオフもないらしく口々に「観光出来ないのが残念だ」と言ってましたが、リハーサル後に東京スカイツリーに行ったりと精力的に動いてはいたようです。
大阪で石井竜也さんとのコラボ、京都で京都フィルとのコラボを終え、私は一人新幹線で楽器とともに帰京。息子の誕生日の日に一青窈さんのコンサートなので、この帰京日に誕生日祝いをやりました。
そして今回、私は楽器を拭くタオルとしてWAAO(We are all one)のタオルを持参していました。
これは世界平和を提唱する須藤元気議員が格闘家時代から発売しているグッズで、音楽で民族共栄を願うバルカンの主旨にピッタリだと思って選択したのですが、ホテルでこのタオルを眺めながら「須藤元気議員、来てくれないかな」と思い立ち、Instagramでメッセージを送ってみたところ、すぐに東京公演に来てくれる事になったのでした。このフットワークの軽さには感動しました。格闘家やパフォーマーまで何をしても器用にこなすイメージですが、根底にはこの行動力があってこそなのかもしれません。
実は彼、私の関東第一高校の後輩でもあります。偉大なる後輩ですね。
このタオル、バルカンのメンバーにもとても好評で、ツアー最終日にはコントラバスの二人にプレゼントしました。
彼らは「これは本当に素晴らしいアイディアだ、もったいなくて使えないよ」と、とても気に入ってくれました。海外の方へのプレゼントには最適かもしれません。
バルカンのメンバーとツアーを周っていると、オンオフの切り替えに驚かされます。休憩時間には誰もステージに残らない。私が練習していると「休憩時間くらい休もうよ」と言われます。「もっと技術をあげたい、演奏の精度を上げたいんだ」と答えると「それはそうだけど、今は休もう。この後良い演奏出来なくなるよ」と言うのです。
演奏中も、私がピッチを気にして首を傾げていると「気にするな、楽しもう」と声をかけてきます。私なんかは良い音程、正しいリズムで演奏しないと楽しくないじゃないかと思ってしまうのですが、この辺の感覚が根本的に違う。以前「音程が合わなくてイーっとなるのは日本人特有の感覚」という記事を読んだ事があるような気がしますが、こうした体験をすると本当なのかもしれないなと感じたりします。
これと似たような話で、私がベルリンに留学した時、ベルリンフィルのコントラバスを間近で聴くとあまり音程が良いわけではないのに客席だと全く気にならなくて、むしろ物凄く鳴っているのに驚いた事がありました。これはベルリンでレッスンを受けるうちに楽器の鳴らし方、音に対する発想が日本人とは根本的に違うのだと知って納得したのですが、いつの間にか私の音程に対する感覚が日本人的に戻っていたのかもしれません。
日本とヨーロッパでは「楽しむ」事の種類が違うとは何度も感じてきましたが、特にバルカンでは演奏していて心から楽しいと思える瞬間が何度もあります。日本のオケではなかなか感じられない感覚だからこそ、過酷な移動などであっても依頼が来ると請けてしまう、バルカンにはそんな魅力があります。もちろん、どちらが正しいとか良いという次元の話ではありません。日本のオーケストラの高い技術の中で演奏するのも楽しいですし、バルカンのメンバーとの、笑顔溢れる本番もまた楽しいのです。「吹奏楽と管弦楽どちらが楽しいか」と聞かれるのと似ていて、それぞれ楽しさの種類が違うというところでしょうか。
今回は10日間のツアーでしたが、またいつか彼らと一緒に演奏する機会がある事を心から願っています。WE ARE ALL ONE!!