遥か彼方

友人が引っ越す。思えば彼の部屋には僕の今までの大学生活のほぼ全てが詰まっている。なぜか自分の部屋よりも居心地がいい気がする。何よりも上京してきたときのこれから始まる大学生活への夢と希望で溢れていた。 

一年の春学期はほぼ毎日彼の部屋で泊まっていた。彼の部屋は自分の部屋から自転車で5分ほどという近所にあったから当然の流れだった。お互い課題をやり、くだらない話をしたりしていた。そんなことを夜遅くまでやり、昼に起きた。もちろん2限という概念はなかった。思うに2人ともいわゆる夢のキャンパスライフみたいなものは送ってなかったから飽きもせず、楽しそうなキャンパスライフを送ってるやつらを毎晩なじってたのだろう。

しかし、一年秋学期になると僕の方が部活で忙しくなって春学期ほど彼の部屋に居座ることもなくなり、今年に入ってからは1ヶ月に一回行くか行かないかくらいになっている。

彼とはもちろん仲がいい。時間さえあればいつでも彼の部屋に行っていいくらいだ。しかし、彼のあの部屋には少し別れのようなものを感じる。

未来への希望と夢に笑い、挫折、そして少しの別れ。何か小さな人生が詰まっているようだ。

とりわけ上京してきた時の、まだ目に見ぬ大学生活への興奮と期待感は忘れられない。この感情は上京した人だけが感じることのできる特権だと思う。

昨日の深夜、2人で引っ越しの準備を兼ねて掃除をしていた。大学入学時の手続きの書類や新歓のビラなどが大量に出てきた。あの頃のワクワク感さかなり美化されているが、淡いいい思い出である。今では東京という街に慣れて、夢のキャンパスライフなんてものへの諦めはついているが、あの頃の感情だけは大切に取っておきたい。

引っ越しは一つの区切りである。区切りのない人生などない。しかしやはり寂しいものがある。掃除終わりに軒先で2人で吸った煙草はいつも通り不味かったが、美味かった。

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