チンチラに心奪われた話
久々に、本当に久々に、ペット売り場の小動物に心奪われた。
初めて彼と出会ったのは、近所のホームセンター内のペット売り場にて。
開店したばかりでまだ売り場の一部の電気が付いてない薄暗い中。彼は、寝ぼけまなこでぼーっとしていた。
なんだろう、あのずんぐりむっくりとしたいでたちの動物は。
その灰色の小動物は、リスのようなネズミのような見た目であるが、モルモットのようなサイズ感。そして、そのどれにも当てはまらない。
とぼけた顔とずんぐりした丸い胴体、その胴体に付いた思いのほか小さく短い手とふさふさのリスのようなしっぽ。
ケージに付けられたプレートを見ると、「チンチラ、オス」と書いてある。
絵本の中に登場してもおかしくはないそのとぼけた印象のチンチラに、私は一瞬にして心奪われた。
帰って、チンチラについて調べてみる。
南米原産で、標高400 - 1,650メートルの地域に生息。齧歯目チンチラ科チンチラ属に分類される齧歯類。15年から20年以上生きることもあるという。
私は、これまでチンチラを見たことがなかった。猫のチンチラは聞いたことがあったが、齧歯類のチンチラと出会ったのは、人生で初めてだった。いや、見たことはあったかもしれないが記憶になかった。
飼い方なども調べてみる。
これまで犬や猫、ハムスター、メダカ、金魚、カブトムシ、クワガタなどとは一緒に暮らしたことがあったが、チンチラとの生活は想像がつかない。
暑過ぎ、寒過ぎるわが家は、元々の生息地域の高原とはほど遠いし、きちんとこの南米原産の未知の生物を飼っていくことができる自信がない。
恋愛で言うと、一目惚れしてしまった相手の正体を知り、戸惑ってしまったといった状況か、、(少女漫画でありそうな設定?)
その後、そのペット売り場で何度もチンチラを目にした。いや、正確に言えば彼を目当てに素通りする風に見に行っていたのである。
ある時、私の熱のこもった眼差しに気がついた店員さんが、寝ているチンチラを起こして出そうとする会話が聞こえたこともあった。
寝ているチンチラを起こしては悪い、飼う自信はないのだからと、私は足速にその場を去った。
そんな日々が続き、ある日いつもの場所のケージ内に、彼の姿はなくなっていた。
売れてしまったのである。
私だけでなく、他の人の心も彼は奪っていたのだった。
仕方がない。
分かっているものの、寂しい。
彼の姿に、もう出会えないのは。
数日後、同じ場所に、違う毛色のチンチラが二匹入れられていた。
同じチンチラと言えど、残念ながら彼の愛らしさには二匹とも負けてしまう。
短い間ではあったけれど、寒い日々に少なからず私の心をあたためてくれたずんぐりした彼の姿を、今でも時々思い出す。
そして、そんな彼との生活を想像してみる。
生き物との暮らしは、手間や大変なことも多いけれどきっと今より彩り豊かになり、日々の楽しみが増えるのだろう。
今はまだないけれど、彼らを招き入れられる余白と心づもりができたら、
その時は、その時こそは、その新たな家族との暮らしをより真剣に考え実行に移してみたい。
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