『踊れないガール』感想

山本ぽてとさんのトークイベント面白かった。面白い話を聴いたりラジオでよく聴いてる人やSNSでよく見かける人たちに会えたりして、嬉しくて頭が上手く回らなかった。
24歳くらいの頃に行った宮古島のロックフェスでワンオクやケツメイシやオレンジレンジを次々に観たときの感じに似てた。意味が違うかもしれないけど久保田利伸の『TIMEシャワーに射たれて…』という曲を思い出した。情報のシャワーのような時間だった。拭くのが勿体無い。


さて、話を聞いてて色々熱くなったので、今更ながらぽてとさんの著書『踊れないガール』を読んだときに感じたことを殴り書きします。
殴り書きって表現、スマホとかパソコンだとなんかフィット感ないね。叩き書き?滑り書き?

まず読んだ直後に思ったのは、こんなに私的な出来事をよくここまで私情を挟まずに書けるな〜ってことだった。
トークイベントでもそんな話が出てたけど、大半の書き手がそうであるようなウェットな書き方ではなく、ドライな書き方をすることで、それはそれで読み手にとっての心地よさや読みやすいリズム感になっている気がする。
それでいて、やんばるの西海岸のあの風景がすごい立体感で描かれていて、僕はそれが面白いどころか感謝すら感じた。


僕は小禄の出身(沖縄の人って具志から奥武山あたりまでを総じて小禄って呼ぶよね。ボカすのにちょうどいい)で、周りに山や森なんて一切なくて、海は空港と航空自衛隊基地で見えなくて、人口や建物の密度が高い地域で生まれ育った。

もっと言えば、親族との関係は非常に希薄で、祖父母や親戚の名前はほとんど知らないし、地域や身内の行事はまったくと行っていいほど参加してない。
というか参加しなくてもいい環境だったとも言える。
僕は「踊れない」というより「踊らなくてもいい」側だった。那覇に住んでいるといろんな言い訳ができる。男だし。踊らなくてもいいボーイ。

さて、僕にはちょっとした趣味というかクセがある。
知らない場所を歩いたりドライブしたりしながら、ここで暮らすのはどんな感じなんだろうと想像するのが好きなのだ。
旅行先でもそういった時間を設けがちで、行き先も決めず電車に乗って、知らない駅で降りて、ぶらぶら歩きながらそこでの生活を想像したりする。都会でも田舎でも。

沖縄県内だと本島北部でよくそういうことをする。
名護や本部の、静かな住宅街とか、パッと見で営業してるかどうかわからない商店とか、釣具を持って自転車を漕ぐ子供達とかを見ながら、そこでの暮らしをぼんやり考えるのが楽しい。なんだか僕が育ったところと対照的な気がして。

『踊れないガール』を読んで驚いたのは、僕が適当に想像するしかなかった北部の暮らしが、これでもかと言うほど鮮明に(赤裸々に?)描かれていたことだ。
もちろん、北部と言ってもいろんな人やいろんな世代や地域があるので全然ひとくくりにはできない。あくまでぽてとさんの目線・体験なんだけど、その様子がまるで自分のことのように染み込んでくる感覚があった。ドライな語り口によって自分のことのように想像できる余地が発生していたというか。

なので、「書いてくれてありがとう」というのが一番の感想だ。
岸政彦先生の生活史プロジェクトを読んでるときの感覚に近い。僕の知らない生活を教えてくれてありがとう。そこでの人生を教えてくれてありがとう。僕はこういうのが読みたかった(知りたかった)んです。

もちろん北部出身の友達がいないわけではないが、なんだかそういうのって聞きづらかった。
やんばるの暮らしってどんな感じなの?と那覇出身の僕が聞くのは、なんか無邪気な嫌味みたいなふうに捉えられそうで怖いからだ。
高校生のとき、大阪出身の友達に「沖縄って電車が無いのになんで電車の存在を知ってるの?」と真顔で聞かれたときのあの感じを思い出してしまう。

なので、それまで聞くに聞けなかった暮らしの様子を、しかも読みやすい形で書いてくれてありがとうという気持ちでいっぱいなのだ。


ここまで書いて思ったけど、自分のことを書いて語って、そしてそれを形に残すことってめっちゃ大事だね。べつに聞かれたり求められてなくても。
岸先生の生活史プロジェクトでそれをなんとなく理解したつもりでいたけれど、改めてそう思えたというか。

ぽてとさんもトークイベントで言ってたように、自分の書いたことを、しかも自分の好きなデザインで形に残すって、きっとすごく楽しくて意義深いことなんだろうね。
そして、それが勝手に刺さる俺みたいな踊らなくていいボーイもきっとたくさんいるのだろう。

今後もそれを読みたいし、なんなら書きたい。
僕は社会的には無名どころか端っこのゴミみたいな生活をしてるけど、自分のことを勝手に書いて、踊れるガールとか、踊ったことないボーイとか、いろんな人に読んでもらえたらきっと幸せなんだろうな。

いやほんと、ありがとうございました。本もトークイベントも面白かったです。

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