02_書を捨てて_ホルモンの森_より

ホルモンの森:第2話:書を捨てて森に行こう

テーマ曲「書を捨てて森に行こう」

作詞・作曲 : MONTAN/holmium
トラックメイキング・童話:MONTAN
ボーカル・イラスト・デザイン:holmium
・試聴 : https://soundcloud.com/dosgatos-1/bit5ijpuqdt4
・ダウンロード(\100):https://note.mu/dosgatos/n/n48af237babf0


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小説「ホルモンの森に消えゆく人たち」
Dos Gatos「ホルモンの森」の童話から派生したリアル世界のお話です。
※こちらもあわせてお楽しみください(^ω^)
★note: https://note.mu/montan/m/m6308c23f9e5e
★MONTAN BLOG:http://montan18.blog.fc2.com/blog-entry-287.html

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童話-ホルモンの森02

『書を捨てて森に行こう』  作:MONTAN

広大なネコネコ森の西のはずれ。
そこに双子の小さな白ネコがおりまして、
名前は「ホル」と「モン」といいました。
二匹はホルモン屋をしておりました。

ホルモン屋の店先にある木製のベンチに、
さっきから見知らぬ男がおりました。
頭はもじゃもじゃ、ひげぼうぼう。
丸いメガネにとがった鼻。
カーキー色のよれよれの上着に汚れたジーンズ。
前かがみでベンチに腰掛け、
なにやらブツブツと言っておりました。
「信じない、俺は信じない…」

「あの人はさっきから何言っているの?」とホル。
「さぁ~ねぇ~、ちょっと聞いてみようか。」とモン。

「もしもし、そこのおじさん。あんた、だれ?」
ホルとモンは男が座っているベンチの前に立ちました。
「なんだ、お前らは!ネコなのか!ネコがしゃべっている!
信じない、俺は信じない…」
男は、顔をあげて2匹をかわるがわる見て
驚いているようでした。
「ボクはモンで、こいつはホルさ。二人でホルモン屋をしているの。」
ちょうど男の目の高さに立っている二匹のネコ。
「ネコが二本足で立っている!信じない、俺は信じないぞ…」

「信じなくてもいいからお話しようよ。」とホル。
「おじさん、ホルモン屋でなにかお探しですか?」とモン。
「おじさんはやめてくれ。俺はレモンだ。」
レモンの額から一筋の汗。
「なんで俺はここにいるのだ?天国なのか?おれは天国なんて信じない!
神なんて信じない。」
薄桃色の空を見上げると、はぐれ雲がゆっくりと右から左に流れています。
見たこともない大きな木。ガラクタのようなピンクの家。
森に向かって風は吹き、ときたま鳥の鳴き声が聞こえました。
「テンゴク?カミ?なんだろうね?」モン
「初めて聞くね。」ホル
レモンは不思議な気持ちになり、少し気持ちが落ち着いてきました。

「信じないばっかり。レモンが信じるのはなにさ?」とモン。
「ユーコさ。ユーコと俺だけだ。」
「ユーコって誰?」とホル。
「俺のカミさん。もういないけどな。」
「カミは信じなくて、カミさんは信じるの?」とモン。
レモンはこれ以上話したくなくて、ベンチから立ち上がると、
ガラクタのような店の中に入っていきました。

中に置いてあるものもガラクタのようでした。
ジャックが壊したタイプライター。
ウェンディ―が嫌いな斧。
ダニーがお気に入りのおもちゃの自動車、ヒツジのキグルミなどなど、
所狭しにいろいろ雑多なものが置いてありました。
「骨董品屋か?ここは?」
「ちがうよ、これは売り物じゃなくて、お代でもらったものさ。」とモン。
レモンはついてくる白ネコを無視して店内を見回していると、見覚えのあるCDがあるのに気が付きました。
【書を捨てて森に行こう】寺田ひろみ
「このCDは、ユーコが持っていたものだぞ。どんな曲だったろう?すまないがこいつを再生してくれないか?」
「サイセイ?この曲を歌えばいいの?」

モンはそのCDをホルに渡しました。
ホルは盤面をとりだし、まん丸い目玉で裏側をジーと見つめました。
やがて、大きな目玉はグルグルとまわりだし、だんだん早くなっていきまた。
コテンッ!
「あっ倒れた!」モンとレモン。
ホルは後ろ向きにコテンとひっくり返りピクピクしています。
モンはあわててホルに駆け寄り、
「おい、大丈夫か!」と頬をポンポンと叩きました。

しばらくしてホルはむっくりと立ち上がり、外にあるホルモンの大きな木の前に歩いていきました。モンとレモンはついていきます。
ホルモンの木の前で、ホルは歌い始めました。
歌声は空まで響き、ホルモンの木をざわざわと揺らしておりました。

レモンはその歌声をじっと聴いていました。
そして、丸メガネの奥から涙がポロポロとあふれてくるのでした。

ユーコ、なぜひとり先にいってしまったのだよ。
お前がいなければ、俺はただのがんこものさ。

ホルの歌が終わると、ホルモンの木の上から、小さな実が、
ひゅう~~~っと落ちてきます。
それをモンが慣れた手つきでキャッチする……?はずでしたが、
キャッチできずに実は草の上…5回に1回はこんなこともあるのです。
モンは慣れた手つきで草の上の黄色い実を拾い、腰あたりの白い毛で実をふいて、
のたのたと膝を抱えて泣いているレモンに近づいていきました。
「はい、これはホルモンの実。今のキミに必要なものさ。」
「必要なものさ。」といつのまにかホルもそばにおりました。

レモンが顔を上げると、白ネコの手の肉球の上に、黄色い小さな実。
レモンは言われるがまま、親指と人差し指でその実をつまんで、
口の中に入れました。
奥歯で噛むとレモンのような酸っぱい味。
レモンは、吐き出したくなりましたが、
その酸っぱさは悲しい気持ちを遠ざけてくれるようでした。
口いっぱいに広がる酸味は鼻の奥まで広がり、
すっきりとした気分になり、やがて涙も止まりました。
「ああっ俺はなんで泣いていたのだろう…?」

「お代をいただきます。」とモン。
「いただきます。」とホル。

「おだい…? ああ 金か? あいにくだがそんなものは持ってないよ。」
レモンはぼんやりと答えました。
「キミの大切だけど忘れたいものを欲しいんだ」とホル。
「大切だけど…忘れたいもの…? そんなもの…あるかよ?」
「ポケットの中に入っているよ」とホル。
「はぁ?」
レモンはいぶかしげにカーキー色のよれよれの上着のポケットに手を突っ込んでみました。
手のひらにすっぽり収まる丸みのある形。
ポケットから取り出すと、それはレモン。
でも、それは本物ではありません。
レモンにそっくりな作り物でした。
「ああ、これは誰にもらったんだっけ?思い出せないなぁ…」
「ボクたちにそれをちょうだい。」とホルとモンがいいました。

レモンはちょっとためらって、
でも、なんだか忘れなくてはいけないような気になって
「ほら。」
と目の前のネコに手渡しました。
二匹は、喜んでその場でくるくる回り、
レモンの作り物を、かわるがわる双方で手わたし、
受取ったりしておりました。

「俺はたしか、公園のベンチに寝ていたはずだ…。
ここはひょっとしてネブラスカか!?」

「ここは、ネコネコの森の西のはずれ。」とモン。
「そして、あっちはネコネコの町。」とホル。

ホルが指差した方向に、いつの間にか、
黒ネコと若い女性が立っておりました。
「やぁ、ヒロじゃないか。」とモン。
「やぁ、ひさしぶり。」とヒロ。
黒ネコのヒロは一度、人間の世界で「寺田ひろみ」でしたが、
いまではすっかりそのことを覚えておりません。
(※1話参照)
「そちらの女の人は?」
ホルは気になって仕方ありません。
綺麗な女の人だといっしょに遊びたくなるのです。
「初めまして、ユーコです。私の夫を迎えに来ました。」
なんだ、残念…と思うホル。

長い茶色の巻き髪。きりっとした大きな瞳。
紫の小さな花柄のワンピースがそよ風に揺れていました。

「誰だろう?この女性は?」よれよれの上着を着た男はつぶやきました。
そして初めて見るその女性に一目ぼれをしてしまいました。
「レモン、いえ、レイモンド。私のこと覚えていないのね。
でもいいわ。私のことを信じて、いっしょに来てくれない?」
男は自分の本当の名前を言われて、この女性を信じる気持ちになりました。
「ああ、信じるよ…。
よく似合っているね…、その服。」
「そう、嬉しいわ。」

二人の人間と一匹のネコは、ネコネコの町のほうに遠ざかって行きました。
ホルとモンは、そんな様子を眺めておりました。

大きなホルモンの木の下で…。

2話 了


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