ほるもん第8話

童話 ホルモンの森 08 作:MONTAN ★カナリヤにされたホル★

ネコネコ森をごぞんじですか?

すっかり昔のことなのでお忘れになっているかもしれませんね。

でも、夢の中では知っていると思いますよ。

ほら、見えてきたでしょう?

大きなホルモンの木のそばに、

いつものように、がらくたのようなピンクの二階建ての家が…。

双子の白ネコ“ホル”と“モン”はホルモン屋をしていますが、

この頃はちっとも働いておりません。

ネコという動物はもともとなまけものなのです。

二階のダイニングには、ネコタワーの端から壁に吊るされたハンモックがあります。

モンはそこで気持ちよさそうに揺られておりました。

「ねぇ、モン。天気がいいからさ、散歩に出かけないかい?」

「いいよ、いいよ。ボクはここでグータラしていたいから。」

なんだ、付き合いが悪いなぁとホルは思いましたが、

「じゃ、出かけてくるね。」

と言ってスタスタと出ていきました。

外はうすもも色の空で、穏やかな風はホルモンの木の葉を揺らしています。

とても気持ちの良い朝でした。

ちょっと歌の練習でもしようかなぁ。

ホルモンの木の下でホルがそう思った時、双子のピーナッツ娘が現れました。

「ねぇ、ホル。今日も私たちの歌をきいてくれないかな?」

二人ともしっかりマイクを握っております。

このごろ、なぜかピーナッツ娘がホルの前に現れて、

いきなり歌ってくるのです。

最初は楽しかったのですが、しつこく付きまとってくるので、嫌気がしておりました。

ホルは黙ってクルッと向きを変えて逃げようとすると、

娘の片割れが先回りしてホルの行く手をはばみました。

二人の娘はじっとホルを見つめて、歌う気マンマンです。

にやにやと笑いながら、じりじりとにじり寄ってきました。

「もうヤダぁ~!」

ホルはネコネコの森の中にスタスタと逃げていきました。

この森は深いので、普段はあまり奥まで入らないのですが、

この時は夢中で逃げていたので、

どうやらホルはずいぶんと奥まで入り込んでしまったようです。

森の中は木々がおいしげり、うっすらと暗いのですが、

ホルはネコなので視界ははっきりしていました。

すると、どこからともなく魚を焼くいい匂いがしてきました。

ホルは小さな鼻をヒクヒクさせて、匂いのする方に進んで行きました。

ああっ、いい匂いだなぁ~食べたいなぁ~。

そう思いながらフラフラと歩いていると、

丸太でできた小さな家が見えました。

屋根には煙突があって、うっすらと煙がたちのぼっておりました。

匂いのモトはあそこですね。

ホルが近寄ってみると、丸太は黒くすすけていて、古い建物だと分かりました。

誰が住んでいるのだろう?

ホルは好奇心がいっぱいあるので、気持ちを抑えることができません。

丸太の玄関の扉をノックしました。

中からはおばあさんの声。

「誰だい?コンコンとたたく子は?」

とても優しそうな声です。

「白ネコのホルです。」

「扉は開いているから、入っておいで。」

そう言われると我慢ができずに、ホルは扉を開けて中に入って行きました。

中に入ると、しわくちゃで鼻の長いおばあさんが、

古いベッドの上に毛布を掛けて寝ておりました。

「おおっ、ホルや。よく来てくれたねぇ。そこの魚をお食べ。」

おばあさんは毛布から手を出さずに、

細長い突き出たアゴで、暖炉の方にホルの目を向けさせました。

暖炉にはくすぶった炭があり、串に刺さった川魚が美味しそうに焼けておりました。

「えっいいの。おばあさん、ありがとう!」

ホルはウキウキと暖炉に近づき、魚の串焼きを手にしました。

「ボクはネコ舌なので、冷ましてから食べるね。」

でもホルは我慢できなくて、まだ熱いのに口を付けるものだから、

「アチ!アチャ!」といいながら、フーフーと息を吹きかけ、

ちょっとずつ端の方から食べていきました。

おばあさんは優しそうな顔でホルを見つめておりました。

ああ、なんていいおばあさんなのだろう!

ホルは食べ物をくれる人はみんないい人だと思う悪いクセがありました。

やがて、ホルはすっかり焼き魚をたいらげて、なごり惜しそうに、

残った串をぺろぺろぺろぺろとなめておりました。

「ホルや、ホル。おまえは歌が上手だそうじゃないか。あたしのために歌っておくれよ。」

「えっ、いいよ。」

ホルはもうすっかりおばあさんに気をゆるしていますね。

「あたしゃ、耳が悪いからもっと近くに来ておくれ。」

「えっ、このくらい?」

ホルはおばあさんが寝ているベッドのそばに近づいて行きました。

「そうそう、いい子いい子。」

ホルがすぐそばに来たら、おばあさんは毛布から右手を出して、

「この指輪を見てごらん。」と言いました。

おばあさんの人差し指には大きな指輪。石は目玉のようにギロリとホルをニラメつけました。

ホルがその目玉を不思議そうにじっと見つめていると、

急に体がふわりと浮きあがり、ふと気が付くと、

天井から吊り下げられた小さな竹の鳥カゴの中に入っておりました。

「ぴぃ~ぴぃ~?(なんだ、なんだ?)」

自分の声が変です。手は黄色いツバサになっておりました。

ホルは鳥カゴの中でじたばたと羽ばたきますが出られません。

ホルはおばあさんの魔法でカナリヤにされ、鳥カゴに閉じ込められてしまったのです。

「あっはっははっ。おまえはそこで一生、私のために歌うのだよ。」

急に意地の悪い声で、おばあさんはそう言いました。

「ぴょぴょ、ぴぃ~ぴすけけぴ―。」

「誰も助けてはくれないよ。あきらめるのだねぇ。あっはっははっ!」

カナリヤになってなげいているホルを魔法使いは満足げにながめていました。

しばらくして丸太の扉があくと、双子のピーナッツ娘が得意げに入ってきました。

「おばあさん、ホルモンの実をもってきたわよ。」

双子Aの手には、赤いホルモンの実がキラキラしておりました。

「おや、おまえたち、よく手に入れられたねぇ。そいつはホルが歌わないと落ちてこないしろものじゃないか!」

「私たちだって歌が上手いのだから、ホルモンの実なんて簡単にゲットできますわ。おほほほほ。」

本当は、ホルモンの木の下で、何度も何度も歌ってやっと落ちてきた実でした。

「おおっ、わたしが望むのは若返りじゃ。はやくその実を食べさせておくれ。」

双子Aはおばあさんの口にホルモンの実を入れてあげました。

「おばあさん、早く元気になってね。」双子Bは心配そうです。

おばあさんが、実をかじるととてもまずい味。

でも我慢してごくりと飲み込みました。

するとおばあさんの体はきつね色に光り出しました。

「ああっ、くっ、苦しい~!まずいぃ~!」

「おばあさん、大丈夫、しっかりして!」双子AとB。

やがておばあさんは、まばゆい光に覆われて見えなくなりました。

「おばあさん、おばあさん!」双子は手も触れられずにうろたえておりました。

その様子を、ホルは鳥カゴの中から、じっと眺めていました。

するとホルの手からは肉球が現れ、黄色い羽の体は、だんだんとネコの白い毛に変わっていきました。体も大きくなり、竹カゴを壊して、吊るされた鳥カゴとともに床に落ちてしまいました。

「いてててっ!」ホルはこわれた竹カゴをお腹に巻いたまま、床にお尻を強く打ちました。

ピーナッツ娘たちは、そんなことには気がついておりません。

というのも、ベッドの上の可愛らしい小さな女の子に夢中になっていたからでした。

「おばあさん、こんなに若くなっちゃって。」「おほほほほ。」

双子は楽しそうに笑っております。

「あらあら、あたち、若返り過ぎちゃって、魔法が使えなくなっちゃたでちゅよ。」

3人は盛り上がっております。

後ろから見ていたホルは腹がたって言いました。

「いいかい。ホルモンの実を食べたらね。大切だけど忘れたいものをお代としてもらうんだ。キミたちにとって大切なのはボクだろ!だからボクはボクをもらっていくからなっ!」

カッコイイ名ゼリフにホルは酔いしれておりましたが、

「いいよ、いいよ、おまえはもう帰れ。」双子と小さな女の子のそっけない返事。

「ばっきゃろぉぉぉぉぉぉぉ~!」

ホルは捨てゼリフをはいて、走って出でいきました。

目にいっぱい涙をためて、「ばっきゃろぉぉぉぉぉぉぉ~!」

森の中でも叫びながら、我が家に帰って行きました。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

ホルが家に着くと、モンはまだお気に入りのハンモックの上で揺られておりました。

まったく、のん気でいいよな。

ホルは心の中でそう思いました。そして、さっきひどい目にあったことをモンに話しました。モンは聞いているのかいないのか分かりませんが…。

「へぇ~、カナリヤにされちゃったのか~!そいつは、カナリ・イヤだね。」

ホル「………。」

「あっそうだ。ホルが出て行ったあと、ピーナツ娘が来ていてね。ホルモンの木の下でずっと歌っているわけ。『うるさい!』って怒鳴ったらあれおいてったよ。」

モンが指さすほうには、大きなピーナッツのカラ。

「一週間の無料レンタルだって。」

ピーナッツおじさん………

ホルはきゅうに幸せな気持ちになりました。

8話 了


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Dosgatos

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