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宇宙人、溝にハマる

 コロナ禍で打撃の大きかった観光業界はどこも人手不足に悩んでいるとニュースで聞いてはいたが、宇宙人がかつて世話になった宿でも悩みが深刻だというので、昨年に引き続き世界遺産知床半島の宿を手伝いにやってきた宇宙人。今年は流氷の到来が例年より早く、しかも去年よりもごっそり漂着している。去年は群青色の海の向こうから白い帯状の流氷がドンブラドンブラこちらへやって来るのが見えたが、今回は既に岸辺までびっしり硬い氷で埋め尽くされていた。早朝から流氷ウォークを楽しむ観光客らの姿も見える。空の青と氷の白と無音の世界が、非現実的で清々しいのだ。
 休日をもらったので、昨年は流氷不足で乗れなかった砕氷船おーろら号に乗ってみた。画像のカモメは船の甲板から撮影。餌が目当てかもしれないが、撮影用ポーズを取って客のインスタ需要に応えるサービス精神旺盛なカモメたち。カモメも地元経済に貢献しているのだな。船内は台湾からの団体客で満席だったが、大陸中国の人民と違って静かで大人しい。というか余りの寒さに彼らは甲板へ出て来れず、終始暖房の利いた船内に座りっぱなしであった。こんなに静かに観光してくれるならどんどん来て我が国の地方経済を潤わせてくれなのだ。

 宇宙人は通勤用の社用車を支給されており、休日は自由に使っていいことになっている。昨年はペーパードライバーを返上し屈斜路湖・摩周湖へのドライブを成功させたので、今回はサロマ湖を目指す宇宙人。しかし前回使えたナビ付き車はなく、支給されたのはナビ無し軽自動車。仕方ない、スマホのマップで経路を確認する宇宙人。これだと走行中にどこを走っているのかチラ見できないが、ちょいちょい停まって画面で確認すればいいよね。いいよね、宇宙人…。
 いや良くないぞ宇宙人。一年前までペーパードライバーだったことを失念するでない。この一年間だって一度も運転しなかったではないか。自分のヘタな運転技術と拙い知識を忘れるな。そうだね、忘れてないよ。だからちょいちょい停まって現在地を確認しようとしてるじゃないか。ほらサロマ湖だよ。雪で真っ白だよ。湖畔道路が真っ直ぐだよ。真っ直ぐ過ぎてどの辺まで来たのかわかんないよ。一度停まって地図を見よう。路肩に停めるから左へ寄って、左へ寄って…ガクッ。…エ?と傾く宇宙人。アクセルを踏むとギュルルル! バックしてもギュルルル! 動かない。傾いたまま車外へ出る宇宙人。あ、前輪が溝にハマっている! 側溝が雪で埋もれて見えなかった。見えていれば気付ける深さだ。なんてことだ。自力ではとても出られないぞ。どうするのだよ、宇宙人!
 車がいくらも通らない道路であったが、幸い遠くからこちらへやって来る車を見つける宇宙人。両手を振って助けを求める宇宙人。停車してくれたのはご近所の方で、「どうするべきでしょうか」と問うと「ロープを繋いで引っ張るしかない」とのこと。「近くに弟が住んでるから来てもらいましょう。私は急ぐのでこれで」と弟さんを呼んでくれた恩人様は去る。5分もせずに弟さんが軽自動車で現れ、検分してくれる。しかしロープを車前方に引っ掛けるフックが着脱式になっており、そのフックが見当たらないという。宇宙人の車の工具箱には似たようなフックが入っていたが、車種が違うのでサイズが合わない。住民の方は一度自宅に戻るとトラックで再登場し、無事ロープを取りつける。宇宙人は車内に戻ってバックでハンドルを操作。トラックが牽引。ギュルルル、ギュルルル、スポン! 出たー(泣)。ありがとう、地元の方。実にお恥ずかしい面倒をお掛けしました。ダメだな南の国のよそ者は、雪事情を知らなくて。お蔭で勉強できました。そういえば道中、ハザードランプをつけて路肩駐車している車があまり左に寄っていないなと思ったのだ。この種の事故を予測して左に寄り過ぎないようにしてたのだな。合点がいった。もう遅いけど。
 ちなみに冬の平日はいくらも車が通らないこの道に、巨大なタイヤで動く建築用車両が通りかかったので、この馬力なら行けそうだと助力を打診してみたところ、車高に差があり過ぎて角度的に無理だとの意見だった。あ、そういう無理もあるのか。勉強になるなあ。今後は同じような事故に見舞われたドライバーを宇宙人が救出したりできるのかな。工具箱やロープが車に搭載されていることすら知らなかった。いかんな、冬季の閉じ込めに遭ったら宇宙人はうっかり死んじゃうな。事前に対策知っておかないと。

 思わぬ時間を食ってしまった。目的地の「道の駅サロマ湖」に辿り着き、地元産の豚丼を頬張る宇宙人。うまい。トラブルの後は体に沁みるな。地元に感謝してかぼちゃソフトも堪能する宇宙人。土産も充実しているのでここで買っていこう。かぼちゃとホタテの町らしい。日没後の雪道は怖いのでゆっくりできなくて残念だ。地図を頭に入れて明るいうちに車を発進させる宇宙人。名所であるサロマ湖展望台は冬季通行止めと知り、断念してキムアネップ岬へ向かう宇宙人。岬入口に掲げられた「冬季は除雪しません」の看板を眺め、これまた断念して先へ向かう宇宙人。除雪されていなくても車の轍は見えたが、雪の知識ゼロを露呈した宇宙人だ、これ以上事故るわけにはゆかぬ。
 え、ロシアにいたのになぜゼロか? 車の運転なんてしたことないよ。勤め人の時は運転手付きの車で移動していたのだよ。なに、リッチだと? 違うよ、ロシア人の運転は総じて荒いから、腕のいい運転手に任せるのが安全なのだよ。実際、宇宙人の同僚の一人は運転中に事故に見舞われ亡くなっている。ロシア人の寿命の短さを推して知るべし。
 最後の予定は「夕日の名所」能取岬。明るい時間に着くつもりだったのだが、図らずも夕日の時間ぴったりになってしまった。観光客も少なく、ほの暗い道路を横切るのはエゾシカばかり。あ、でかい鳥! オオワシだ! なんと幸運な。こんなに近くを飛んで、枯れ木にとまってくれたよ。カモメに負けずサービス精神旺盛だなあ。ヘタに路上駐車してまた溝にハマるのはイヤなので撮影は諦める宇宙人。オオワシを見送り岬に到着すると、ちょうど黄色い夕日が沈んでいくところであった。画像はその一枚。なかなか充実した一日であった。ちょっと知恵もついたし…あんまり浮かれて人様に迷惑かけるなよ、宇宙人。

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