「さよならの妖精」からのラブソング ~ ABC座『ジャニーズ伝説2019』

ジャニーズ伝説2019のパンフレットで、「あなたにとって“ジャニーズ”とは?」という質問に対して、橋本くんがこう答えている。

“家族”
ジャニーさんのことは父親だと思っているし、A.B.C-Zのメンバーだけじゃなく、事務所の全員と血がつながっているように感じています。

2017年のジャニーズ伝説の感想で、わたしはこう書いた。

今日の結果に満足できなくても、自分がジャニーズ(事務所)の一員であることは誇れるだろうと。ジャニーズの名を背負ってもっと胸を張れと。その象徴であるレビューをみて、ああ、これは血統の問題なのだな、と思ったのです。
A.B.C-Zがジャニーズ伝説を演じることをゆるされているのって、A.B.C-Zがまごうことなき純血種だからだと思うのです。(略)もうね、これ、血の問題だと思う。

そして、やはり今年のパンフレットで、戸塚くんはこう答えていた。

“血”
体中に張り巡らされているもの。
血管の中に、すごい喜びが流れているから。
この血を絶やすことなく、これからもやっていきたい。(略)

エンターテイナーのDNA、というんだろうか。やっぱりなにか、そういうものが確実にあるんだと思う。B'zのイナバくんも言ってます。「時の流れは妙におかしなもので血よりも濃いものを作ることがあるね」…なんつって。

これまでA.B.C-Zは、それを継いでゆくものとしての自覚のようなものをたびたび口にしていたけれど、今年はさらにそれを「伝えていくもの」であることを体現してみせていた、と思う。

MADEのような古株から、若いジュニア、さらには19年組と(勝手に)呼ばれるちびたちを率いるA.B.C-Zは、本当によく笑う。とてもよく笑う。芝居のアドリブ、曲の合間、ステージの上でとてもよく笑う。それはまるで、若い彼らに「ステージってこうやって楽しむんだよ」と教えているようだった。子どもの顔をのぞき込んでは笑い、後ろから抱き着いては笑い、アドリブでけちょんけちょんにされては笑い。怖がらなくていい。舞台は、ステージは、楽しまなくちゃ。それはA.B.C-Zがずっと、先輩から、ジャニーさんから、教え込まれてきたことだ。その姿はさながら、雛に飛び方を教える親鳥だ。鳥にはいつか巣立ちの時がくる。それが、きっと、今だ。

ABC座「ジャニーズ伝説2019」おつかれさまでした。今年ほどこのタイトルが演じられることに必然性のあるときはないと思う。去年、2018も「ジャニーズ伝説」が演じられると決まったときは、「いやもうこれ、じいさん死ぬまでずっとジャニーズ伝説だな。派手に追悼公演やって終わりだわ」って笑ったものだけど、そのときは意外なほどあっさりと訪れてしまった。初演時から散々走馬灯だ生前葬だと言われていたジャニーズ伝説、実際そのときがきてみたら、まるで「A.B.C-Zとジャニーさんの思い出のアルバム」のような作りになっていた。

1幕は、構成はほぼ変わらずだったけれど、戸塚くんがジャニーさん役でなく「トツカ」というナビゲーター?に変わって、ジャニーさんとジャニーズ(グループ)を知らない子どもたちに語って聞かせる形になっていた。

2幕、歴代メドレーの選曲は、去年までのような「ジャニーズのグループを紹介していく」ための代表曲ではなく、A.B.C-Zがこれまでたくさんの公演に関わってきた中で思い出深いものが多く選ばれていた。カミラタマラやドンエバのようなコンサートバックがフラッシュバックする先輩曲はもちろん、橋本くんが敬愛していたすばるの歌声が響くミセテクレ、トラヴィスとステイシーの指導に苦戦した(とのちに語っていた)2010年PLAYZONEのOne Step Beyond、河合くんが怪我で悔しい思いをした2011年PLAYZONEの$10、3か月という途方もない帝劇長期公演を思い出すMilkyway…とか。もちろん、JUMPのドリカムはA.B.C-Z結成の2008年サマリーだ。そしてそのすべては、彼らの思い出であるし、それを追いかけていたわたしたちの思い出でもあるし、彼らとジャニーさんの思い出でもあるのだ。

続けてのABC座メドレーは、もちろんそのまま、デビューしてからの日生劇場での思い出が詰まっていた。そしてその活動の思い出は、やっぱりずっと、ジャニーさんとの思い出でもあった。デビューを喜び、座長公演を喜び、ジャニーズ伝説の公演を観てもう心配ないと言ったジャニーさん。ぼくはA.B.C-Zのファンだと言ったジャニーさん。ジャニーズの中でもとびきり「おじいちゃん子」だったA.B.C-Zの活動を振り返ったとき、ジャニーさんの姿がそこにないわけがないのだ。繰り返しきいた「時を超え」「つないでくストーリー」が、今このときを歌っているとは夢にも思わなかった。ABC座メドレーそしてネバマイも、全部ジャニーさんへのラブソングじゃないか。

2017年の感想、こうまとめていた。

「もしもさよならの妖精たちが来て僕にキスしても消せない切なさ」なんだよ。消えないよ実際。ほんとに。今回のえびちゃんはきっと、さよならの妖精だ。

今年、You…を歌うA.B.C-Zとジャニーズジュニアたちをみて、「ああ、本物のさよならの妖精だ」って思ったんだよね。3年目にして伏線を回収された気分。空っぽのスポットライトを囲んで「愛してるよ」と歌う、さよならの妖精たち。

舞台の上手にぽっと照らされる光を、まっさきに振り向くのはたいてい河合くん。みんなが振り返ったあとにひとりだけゆっくりと振り向く戸塚くん。床に落ちたスポットライトの輪郭をたどるひと、光源の空を見上げるひと、いろいろいる中で戸塚くんは、「小さな子どもぐらいの背丈のなにか」に視線を注いでいた、ように思う。

千秋楽。戸塚くんはライトに向けて両腕をひろげたあと、一度くるりと後ろを向いてしまった。そうだね、抱きしめられたらいいのにね。すい、と光に差し出した橋本くんの手は空を切る。はにかんだように笑う河合くんは、ほめられて照れるときみたい。ターンした五関さんの衣装の裾が、ふわ、と光をかすめる。塚田さんはもう、そのまま、光に飛び込んでしまうんじゃないかと思った(笑)。5者5様の「愛してる」で満たされたすごい空間だった。

初日はまだ、切なさが消せなくて、喪失の悲しみのほうが大きくみえたけど、千秋楽は愛しかなかった。別れを受け入れるというのは、きっとそういうことなのだろう。ラブソングのおすそわけをありがとう。A.B.C-Zのより一層のご活躍と、ジャニーズ事務所のますますの発展をお祈り申し上げます。

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