春来たりなば ~ 『改竄・熱海殺人事件 ザ・ロンゲストスプリング』

今このときじゃなかったら、この作品どうなっていたんだろうな、と思うこともなくはない。でも今このときに上演されたからこそ、この作品だったのだろうとも思う。2020年の春は確かに長すぎて。

ラストで鳴る古い映画音楽っぽい曲、なんだろうと調べたら「Come Next Spring」という同名映画のタイトル曲だった。邦題「春来たりなば」。「冬来たりなば春遠からじ」になぞらえたと思われるその邦題によれば、永すぎた春の後には、一体何が来るのだろうか。

モンテのテーマが「青春」だったように、ロンゲは劇中のセリフで「愛」を掲げながら、一方で「自由」がテーマだったんじゃないかと思う。永すぎた春のあとにあるのは自由。寂しさと自由だ。

モンテと対になる演出、絶対にあると思ってたんだけど、まず幕が開いた時点でのカラーリングね。衣装も白黒反転(シャツが黒、ネクタイが白)だし、いつものセットのアクリルパネルの後ろ、モンテは白壁なのにロンゲは黒のビロードなんだよー。照明も白黒と青が基調で、黒のビロードにパキッとした白い光が映えるんだ、これが。センター後方でみると本当にうっとりだった。

熱海としてはやっぱり、一番の目玉は最も有名なシーンであるところの「パピヨンのテーマ+花束」をやらない、ってことかな。ライブでウルトラソウルを歌わないB'zみたいな、天体観測をやらないバンプみたいな。(笑)熱海の本質ってそこじゃないよねって言われているようで、なんだろう、ファイティングポーズをとられているようでいてすごい信頼されているとも感じる不思議な感覚だ。そしてランタイムが短いのもあってめちゃくちゃソリッド。なのにわかりやすい。大山の「腰紐貸してくれませんか」の「腰紐」はつまり水野のことを指しているということを、こんなにスマートに分からせる熱海はじめてだ。

あっくん:稀代の童貞力を誇る木村伝兵衛の爆誕である。いや~初日のあっくん最高だったな……今!おれ!熱海やってる!!!木村伝兵衛やってる!!!!!って感じが全身から噴き出していた……めちゃくちゃおもろかった。熱海をこじらせすぎなんだよ、お前は!(笑)熱海と木村伝兵衛とつか作品が好きすぎて、完全にがっついてる童貞みたいになってるの本当最高におもしろい。「俺はなれているから、なれているから、って(略)なれてないのよ!!!!!!」本当にそう。マジでセックス下手そうだった。そしてがっついていた。後半はさすがにスカした童貞ぐらいにはなれていたので、それはそれでかわいかった。そう、可愛いんだとにかく。いとおしくてたまらない。本当にラブホテルでトイレ掃除していそうな愛らしさがありながら、意固地に譲らない頑固さがある。それはおそらく、あっくんそのものなのだと思う。少なくとも、あっくんの木村伝兵衛に対する愛そのものではありそう。馬場フォロワーらしい唄うようなセリフ回しと伸び伸び放たれる声、ガワだけなら安定感あるんだけどねえ。(笑)

玉さん:玉さんの金ちゃん、ふとしたときの横顔とかが美しすぎて、人間っぽくなさすぎて、不思議な気持ちになっちゃったな。マッチ棒何本乗るんだろう、あの睫毛。わたしは玉さんの浮世離れしてるところすごい好きなんだけど、それがあんな風に凶悪に出てくるのズルいよなあと思う。さすが、当たり役は人外と凶悪犯(笑)。お芝居は当たり前のようにうまいので入り込めないとかじゃ全然ないんだけど、とにかく心を重ねられるところが全くなくて本当に怖い大山だった。ぶっちゃけ熱海って、新人をあてられがちな大山役の子が頑張れば頑張るほど「大山金太郎がどれだけ客の同情を引けるか」になっちゃうところがあって、わたしはそれを髑髏城における無界屋蘭兵衛問題と同質だと思ってるんだけど(余計なお世話だ)、今回のロンゲですごい好きなとこのひとつに、伝兵衛が大山にはっきり「このゲスが」っていうところがあって。アイ子に自分の口から売春していることを吐かせてどうするつもりだったんだ、っていうとこで「一緒になって(=結婚して)、一生いたぶるつもりだったのか」「お前は人間として絶対にやっちゃいかんことをやったんだ」っていうの。東京で夢破れて心細くなっているアイ子にとって「売春なんかやめて一緒に五島に帰ろう」という大山の甘言はある意味で救いだけれど、その先にある人生を考えたとき、果たしてそれは本当に救いなのかっていう。それはアイ子を殺すのと同じ、アイ子の人生を殺すことだ、っていう。あれすごい良かったな。一見古くみえがちな熱海の価値観の中で、はっきりと現代に通ずる価値観だと思った。そしてあれは、やしきさんの演出で、あっくんが玉さんに言うから成立してるところがあったので、ああ~なんか新しい風だなあ~と思った。あのシーン一番好きかもしれない。

ふみか:かわいい。……いや、はるっぴさんが結構イカレた水野だったので、ふみかの水野かわいいなあと思って。いちどふみか水野が部長と別れるときあんまりぽろぽろ涙をこぼすもんだから、あっくんめ!ゆるさん!みたいな気持ちになったりしました。前段からの続きだけど、アイ子の「いつかトップになっちゃる」は、自分の力で自分の人生を変える人間の言葉なんだよな……金ちゃんと一緒に五島に帰ったところで、土地と仕事が変わっただけで、今と同じような人生があるだけ、それこそ伝兵衛が言うように一生いたぶられて生きるなんてごめんだという、強い「生きる意志」だったんだよね。だからすごい切ないシーンだなというか、あそこで玉さんの大山がアイ子をすごい怖がってる(力関係が逆転する)のもまた切なかったよね。水野にとって静岡に嫁いで行くことは、アイ子が東京に行くように自由になることなのか、アイ子が五島に戻るように自由を捨てることなのか、どちらになるかはこれから分かることなのかな。

佐伯くん:最初マジでほめるとこなくてどうしようかと思ったけど(笑)玉さんに転がされて可愛がられて(フェアリーと呼ばれて……)後半はだいぶサマになっていたと思う。ひどい言いようだけどでもそうだったもん!(笑)熊田も自由を求めて東京に来た人だったけど、決して自由を捨てて富山に帰ったわけじゃないところが「熊田の成長」なのだろうな。ちょっと気障でかっこつけなところがある熊田のキャラクターもなんかちょっと熱海2.0感があってよかったよ。けどあまりにも真っ当すぎて、とても地元の女をすてて東京に来そうにない熊田なんだよなあ(笑)いや、まあ、いいけど……。あと玉さんに散々歌わされてたの本当面白かったし千秋楽にそれまでで一番のガチダメ出しされてたの最高だった。いままで何もわかってなかったのかよ、おまえ!!!!!(笑)

余談になるけど、玉さんと鳥がキャスサの配信でしゃべってたのがすごい面白かった。「(熱海は)マウントの取り合い」というのは去年のワークショップでも言っていて、そこのバランスが行ったり来たりシーソーゲームするのが面白さでもあるけど「演劇として観辛(みづら)い」とやしきさんが表現していて、ははー、となったのを覚えている。つまりはその逆(悪役は悪役、味方は味方、かわいそうな子はずっとかわいそう)なほうがみやすいってことだもんね。そして件の配信で玉さんが「(ロンゲは)やしきさんがわざとバランス悪く作ってる」と言っていて、うわーまじでそれ!!!!!と膝を打ったのだった。しかも「あえてみんなが覚えてる王道のセリフをわざと“足したり引いたり”する、それだけで全然(話が)変わってしまう」って言ってて、モンテよりもロンゲのほうが覚えてるセリフが多い分「改竄」感あったなーって。前述した通り、私がすごいひっかかっていたり好き!って思ったりしてるシーンは大体“足したり引いたり”されてる気がする。

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