花に嵐 ~ 『改竄・熱海殺人事件 モンテカルロ・イリュージョン』

初日おめでとうございます。1stブロックが終わったところでこれを書いています。

そのときその場所で上演されることに意味のある公演というのはたまにあって、こうして現場の地縛霊をやってるとたまにそういうのに巡り合ったりすることがある。

以前それをびりびり感じたのは、奇しくも同じつか作品の、「広島に原爆を落とす日」を広島で上演したときだった。そのときの私は、推しのことを心配するふりをして安く見ていたのかもしれない。作品の力は信じられるが、果たしてそれを誤解なく届けられるのか、それが推しでいいのか、とそわそわしながら観ていた。ような気がする。

さて、果たしてまたその時はやってきた。望む望まざるに関わらずその場に立ち会う瞬間が。自粛、対策、批判。花に嵐とはよく言ったもので、春の風はとんでもないものを連れてきてくれたけれど、それでもやはりここで、紀伊國屋で、この作品の幕が開くのは、やっぱり「春だから」なのかもしれない。そしてそのテーマに据えられたのが「青春」であったことも。

「こん広い地球の上で、あげな鉄の玉をたかだか20メートルくらい投げられたからって、一体何の意味があるんじゃ」

青春すべてを捧げてきた女の子に殺人の引き金を引かせるには十分なその言葉に、彼女が返した叫び。

「あるんよ。きっとあるんよ」「あの直径10センチのあん鉄の玉を投げなきゃ分からん青春ちゅうもんが、何かあると思うたとよ」「それが何か確かめる為にも、うちは砲丸を投げ続けなきゃいかんとよ」

それは、「こんな時にそんなことして何になる」と、不要不急の存在だと言われたエンタメの叫びそのものだ。青春を、人生を捧げてきたことの意味を軽々と否定される、引き返せないところまできて突然梯子を外される、その叫びを聞いた私は、客席から何を返せば良いというのか。

なんだかんだここ5年?6年?ぐらいは春の紀伊國屋皆勤賞の私ですが、多分今までで一番わくわくして待っていた今年の熱海。キャストも演出もがらりと変わった熱海。新しい風のにおいがぷんぷんする古典。最高かよ。それがまさかこんな、ひりひりするような上演になるとは(笑)。とはいえ楽しみ方はいつも通りです。

モンテカルロ・イリュージョン、わかりやすく青春の話だと思うけど、もしかしたら熱海がもともと青春の話なのかもしれないな、と思った。大山の、水野の、熊田の、木村伝兵衛の青春の話。今まであんまりそんな風に思ったことなかったけど。それにしても、数ある熱海の中からこれを選ぶやしきさんって……。

以下はツイッター/ふせったーにぼちぼち書いてることのまとめです。

音楽の使い方が特徴的すぎていまだに慣れない(笑)。借景としてもそうだけど、なんというか、音楽のBPMでこちらの心拍数をコントロールしてくる感じがすごい。あとライトかつビビッドな照明、これはおそらくロンゲストスプリングと対比があると思うので(ランタイム1:45にこだわっているところもロンゲのほうと何かしら調整があるものとみている)ロンゲ観た後だと印象変わりそう。というかそう、やしきさん、やしきさんだよ……。そこの感想はロンゲのあとにする。

多和田伝兵衛:ピンクのフリルシャツ(ビジュアルのときより派手になってないか!?)、真っ赤なキャバドレス(和田アキ子に瓜二つ)、ショッキングピンクのつなぎ(13階段)というお色直し。最高。オネエ語が最高にキモく最高に幼児でありながら、たまに独居老人みたいな孤独感を出してくるのがすごい。まっきーも言ってたけど声がいいよね。歴代伝兵衛の中でも低いほうだよね。それこそ阿部ちゃんとはるぐらい。低いんだけど高いところも出るし、ひっくり返ることもがなることも自在にできる、強いのか技巧なのかよくわからない喉……。声であんなにわかりやすくコメディに振ることができるの、武器だと思う。何よりたっぷりした声量が良い。身体的には、めちゃくちゃ動けるのに身長大きい人っぽいどんくささがちょっとだけ残っているところがキュートですね(言葉を選んだ)。総じてボディコントロールは良さそう。踊りで好きなのはDESIREの「ガーラスのディスコティッッッ」のとこ、歌で好きなのはクライマックスの愛の誓いと(あれはあのシーンでなければ歌うまギャグになるレベル)、カレンの歌い出し。初日、愛ランドの上ハモをちょっと見失っていたのが超面白かった。

兒玉水野:はるっぴさん、板の上にいる人間の中では今回一番の狂人認定。他の熱海に比べて比重の大きな水野を、プレッシャーなど全く感じさせない軽やかな狂い方で演じていて、これだからアイドル出身・野性の女優はよぉ……!と頭を抱えた。最初はマジで声出てなくて聞こえなさすぎてやべえと思ったけど、予備動作なしでいきなり狂うのでビビる。海のシーン、というかアイ子の回想が本当に回を重ねるごとにエモーショナルにぶっちぎっていて、よくあんな、崖からひらりと飛び降りるようにノーブレーキで狂えるな……とこちらの背筋が寒くなるんだけど、あれは相手が鳥の大山だからかもしれない。立花を殺した後の「でも、」から始まるシーン、熱海の海の向こうに故郷をみているシーン、あのへんすべて兒玉遥という女優にとっては“用意された台詞”にすぎないのに、喋りながら自分の感情に飲み込まれて言葉に詰まることすらある。セリフがとんでもつかえても間違えてもテンションが全く下がらない。拙さは芝居を止める理由にならない、ということを突き付けられた。すごい。激情的な部分だけじゃなく、花のサンフランシスコのマスターに聞いた話を立て板に水のごとくまくしたてるところ、水野に戻ったあとの「そう躾けられてきましたから」とか、本当に狂っててゾッとした。野生の女優は本当に怖い。

鳥越大山:もう5万回見たような気すらする、鳥の大山金太郎。実は飛び道具ばかりの4人の中で、一番場を掌握するのが上手いがゆえに一番引いてるし(役のポジション的にも)、出が遅いので初日はギア入れるのもちょっと出遅れ感あったけど、5公演やったらもう完全に場をコントロールするようになった(笑)。かわいくない(何を求めているのか)。コメディパートは完全に鳥におんぶに抱っこ状態だ。後半も、なんせはるっぴさんがエース級の狂い方なので、キャッチャー役としてとてもよくやっていると思う……何目線か、っつー話だけど……。けどそんな中にも波があって、やっぱりだんだん良くなってきた。アイ子を殺すシーン、そのあと伝兵衛に「なぜ来なかった」っていうシーン。最初のマチソワ日のソワレ(14夜)から、明らかに本人がアガってるのがわかるようになった。いつも「安定してんな~」としか思っていなかったので、鳥にもノってる時とかあるんだな~、という新鮮な気持ちでみています。あと15日の「なぜこの捜査の間、俺に恨み言ひとつ言わなかったのですか」も良かったな。あそこは大山の気持ちがぐちゃぐちゃであればあるほど、水野の正しさが際立って気持ち悪いのだということがわかった。あと、言っても詮無いことだし今回のこの本、このキャストだからこその良さだけど、やはり「海が見たい」も聞いてみたさはある。5万回見た気はするけども(笑)。

菊池速水:一番未知数だったのでどうなのかな~と思ってた、けど、超良かったじゃん~なんだよ~言ってよ~/////となった。へへへ。ラストシーン超良かったけど、早々に喉死んじゃうよ?と心配になったりした。良いからこそちゃんと最後までもってほしいな、あの喉……。そして前半の圧倒的なコメディリリーフぶりよ(笑)。紫のキャバドレス、マジで最高なんだけど、でんでんでんすけ!がすごいザツなのがめちゃくちゃ笑ってしまうwwwww別にいいけどさwwwwwwwwあと水のシーンでやたらイジられるようになってきたので、かなり今後に期待している。あれは荒れる(笑)。しかし、あんなに可愛いのに「不憫でならないんですわ」とか「ひっこんでろ!」とか、高圧的な響きのセリフほど意外とハマってるので、闇が深いとおもいました。速水って4人の中で唯一スポーツ選手じゃないからどうしても外から覗き込むような構図が多いのだけど、大山がアイ子殺しを再現しているとき、最初はとまどい(というより、おそれ、か……)ながら止めようとするんだけど伝兵衛に手を出すなと止められて、ギリギリのところで止めに入り、最後は結局大山がアイ子を殺してしまうのを、呆然と座り込んで子どもみたいな顔をして見ているのが、なんというかすごくグッとくる。絶望というには妙にイノセントな顔なんだ。

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