スリル・ミー2021

いつものような前段はすっ飛ばしていきなり本題いきます。今回はポエムとかサブタイトルとかもありません(笑)。

成河×福士

成河私がとにかくヤバイ。ずっと怖い。反して福士彼はより無機質な印象になっていったようにすら思う。いや、拘置所での死にたくないとかは一応人間ぽいんだけど、その「人間っぽさ」すらも作り物のような、とにかく一貫して「私が語る彼」でしかなくて、しかもその「私」を成河くんが53歳の時間軸を巧みに利用してこれでもかというほど醜悪に描いてくるもんだから(笑)目も当てられんのですよ。事前インタビューでも「資本主義の病」について言及していたけど、私は資本主義にクローズアップしたというよりは「反ロマンチシズム」だと思った。この作品がここまで愛されてきたのは単に「良作である」という評価によるだけのことではなくて、(おそらく)特に日本上演においてはそのある種テンプレ化したロマンチシズムのウケがいいからだと思うのだけど、成福2021はそれを作品の枠を壊さずどうぶち破るかという試行錯誤の結論のように思った。「私」の造形に取り入れられたNerdっぽさとか、あの(ニチャア……)っていう笑い方とか、他ペアならもっと綺麗に描くであろうところをかなり露悪的に描くことによって「ある種の純愛」とは一線を画したかったのかな~というのは事前インタを真面目に読みすぎたせいでしょうか。もっと軽く考えていいのかな。ピアノ含む3人のキャッチボールが気持ち良いペアだから好きっちゃ好きなんだけど、正直胃もたれするのでなるべく間をあけたいって思ってたのに福士彼のせいでめっちゃ通ってしまった……。「私」の記憶の中で美化された存在(多分そう絶対そう)だけあって福士彼がとにかくずっっっっっと徹頭徹尾格好良くて、ずっと劇場で「えっっっっっっっっっっっっっっっっっち!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」って叫びたかったから今日家で一人で叫べてよかったです。森でキスするときの首の角度の美しさ世界一。


松岡×山崎

我ら上弦のオタクだもの、絶対好きっしょ~~~ってしたり顔で観に行ったんだけど、序盤は本当にこーだいちゃんがガンガンいこうぜ!!!!!!って鼻息荒すぎてたいき完全に腰引けてた。あれはあれで面白かった(笑)。我々中年はフレッシュな肉体と感性に19歳のきらめきを感じられることを寿いでしまうのじゃ……。もうあれ、飛行石を見せられたおじいちゃんみたいになった。眩しい。眩しすぎて目があかない。松岡私も山崎彼も人間一回目って感じでたまんなかったな。魂が未熟。19歳で時が止まってしまった彼(実際は19じゃなかったけど私の中では19で止まってたよね)はもちろん、53歳になっても幼なさの残る私よ。幼さゆえの切実さ、受け身の取れない傷付きかた、人間一周目だったのに来世は再び森の木とかになっちゃいそうなこーだい……こーだいよぉ……。成河私は審理の最中も自分に都合よく美化して話してる感じするけど、松岡私は馬鹿正直に全部本当のことを喋ってそうなんだよな~。「新聞が売れるようにそう書き立てた」ことにもきっちり傷付いてそうなところが、やはり幼くてやわいところ剥き出しの生き物って感じがした。彼と私が出会わなければ別の人生が、のくだりも、なんだか果てしない因果の始まりみたいな感じがして絶望感あって良かった。組んだばかりの新人ペアってところもあるし二人の年齢が若いこともあるんだろうけど、ラストシーンの「私」にそのさきの生みたいなものを強く感じたんだよね。彼の後を追ったり名前を変えてひっそり生きたりっていうよりも、なんか、それで報復されるとしても堂々と生きていきそうだった(笑)。その報復が次の悲劇の引き金であることとか配慮がなさそう。若いってこわい。霧ちゃんのときもそうだったけど、こーだいは目がすごいね。面積が広いから大きなブラックホールにもなるし二重三重の感情が乗せられる幅があるしギリギリとつり上がったように見えるときもある。たいきくんは声かな~声がいい、いいけど声に顔と身体がついてきてないときある(笑)あと滑舌を声で乗り切ってるときある(笑)。若いっていいね。


田代×新納

いや、さすが。としか言いようがない。現地では「強いんよ!!!!!!圧が!!!!!!!!強すぎなんよ!!!!!!!!!!!!!!」って完全にこっちが仰け反ってたけど(笑)映像になるとさすがにある種の毒気は抜かれるね。だいぶ観やすかった。まりおちゃんの毛並みの良さがすごい。もうピッカピカ。ドッグショーで賞とれる犬みたい。そしてそのフィジカルの強さに裏打ちされた芝居が強い。これはラブストーリーであるとねじ伏せてくる強い芝居。さすが「(私の彼への思いを)執着と思ったことはない」と豪語するだけある。初めて検事に心から同意したし、刺されてでも逃げたくなった彼の気持ち、わかる(笑)。新納彼は弟よりも私に対して抱いているコンプレックスが強くて、それゆえに、唯一私に対して優位に立てるのが私が自分のことを好きであるっていうこと(惚れられた強み)だけなので、ラストシーンも観念するの早かったな。彼は私が自分の命令で道を踏み外していくのを見ることでコンプレックスを解消していたんだろうなと思う。そういうこじらせっぷりからか、一番ニーチェ読んでそうな彼だなって思った(他の彼は別にニーチェとか読まんだろう感があって……)(いやうそ、山崎彼はイキり19歳ムーブとして読んでそう)。そのへんも全部ひっくるめて、確かに単なる執着では成立しない話に仕上がってるので、なるほどじゃんね~って感じでした。ツーショットトークで成河くんが「(初演は)どんなに美味しくできても一日目のカレー」「一日目にどんなに美味しく作っても二日目のカレーのほうがおいしいに決まってる」みたいな喩え方をしていて「おいwwwwwww」と思ったんだけど、それに則るならば田代×新納なんてもう秘伝のタレじゃんね。門外不出の秘伝のタレ。そして秘伝のタレは、ずっと食べ慣れている人と初めて食べた人では味わいが違うのだ……。いや~おもしろ。おもしろいね観劇。

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