執念深い神様 ~ 朗読 蒲田行進曲完結編『銀ちゃんが逝く』

「ネタバレ」みたいなわかりやすい記述はありませんが、内容に触れています。

感染症よりも突然の公演中止におびえながら紀伊國屋に通っていた、3月の終わりのことを思い出す。蒲田どうしようと頭を抱える声を小耳にはさんだあのロビーに再び足を踏み入れるまで、私はどこにも行けなかった。どこにも、というか、どこの劇場にも。DDDとかコクーンとか、行こうと思えば行ける現場はいくつかあった。でも再開するなら紀伊國屋からがよかった。それだけ未練があったのだと思う。失われた千秋楽に。改竄された春に。

この夏の「銀ちゃんが逝く」は、構造的にはわかりやすく神殺しの物語だ。親殺しともいえなくもないけどちょっと違う。やっぱり信仰と神殺しの話。そして生命と種の存続の話。……銀幕スターと大部屋役者の話のはずなのに?笑

はたして味方良介は、最初から神だったわけではなかった。16年の新幕末(単に私が覚えている最古の味方)から数えて4年。4年をかけて、紀伊國屋と界隈とわたしたちが、味方を神に仕立て上げてしまった。“銀幕”の「スターは神様なんか信じてちゃいけないのよ」みたいなセリフを思い出す。スターが神様を信じちゃいけないのはなんでかって、そりゃ、スター自身が神様だからなのだわ。わたしたちは味方から信仰を奪い、そして神に祭り上げたのだった。

蒲田は銀ちゃんをめぐる三角関係の話といえるけど、倉岡銀四郎という神を堕とせるのはヤスではなく小夏(女)だし、親を殺すのは子(ルリ子)だ。「俺たちバチあたりなデンドロは、どんなことがあっても神様に手を合わせてはいけないと教えられてきた。が、今その俺がこうして手を合わせております」……信仰を取り戻し神を引きずり下ろすのは子供、次の世代だ。

味方はスターすぎて、銀ちゃんすぎて、神様すぎて、ちょっと消化するのに時間がかかるんだけど、とにかく3か月のブランクを経ても紀伊國屋の一番後ろまでビリビリするほど届く声の伸びがヤバイ。自粛してる間に音量調節バカになったんちゃうか?笑 もうあまりに紀伊國屋と一体化しすぎてて、前にやしきさんがキャスで言ってた「味方は紀伊國屋ホールの声を聴いてる」「紀伊國屋ホールと共演してる」を思い出した。わたしたちが待ってた以上に、味方が紀伊國屋に立ちたかった以上に、紀伊國屋が味方を待ってたもんな。1年の時を経てあのときの「(味方は)紀伊國屋ホール以上の恋人を見つけなきゃいけないから大変だね」が重く響く……飛龍伝の桂木もめちゃくちゃよかったけど、やっぱ新国と味方は付き合ってないからさ。笑 あんなにハコと蜜月な役者、他に見たことない。稀有な存在すぎる。だって味方を神に祭り上げたのはわたしたちだけど、味方を次の神に選んだのは間違いなく紀伊國屋だから……。(何の話?????)神様は嫉妬深いから気を付けて、みかぴー。

植田ヤスは、まじで出だしがガッチガチのバッキバキすぎて不安になったけど(まじで)だんだん落ち着いてきて、小夏を殴り始めたあたりからすごい調子が出てきた。いや、そこで出るのかよ、調子。笑 でも、それこそモンテの鳥同様、2.5の現場だと俯瞰的な立ち方なので、あんな普通の若手俳優みたいなガチガチの芝居してる植田みるのめっちゃレアな気がしていいもん見たな、となった……って本当に鳥のときとおなじこと言ってる!笑 火花のときはタイミング的にちょっとこなれてから見たからなー。あと相手役が石田さんという天才キャッチャーだったから……。今回は植田がキャッチャーやらないといけないもんね。本来ならヤスのなつっこさをもうちょっと別の方向で出してくるんじゃないかと勝手に思ってるけど、どうなんだろう、どうですか識者?????

つかこうへい戯曲における「スター」は、現代における「アイドル」という職業と近い概念。だからアイドル出身女優は親和性が高い。にもかかわらず、井上小百合さん、なにげにほぼ初めましてなんだけど、圧倒的女優力ですごかった。ずーみんゆっかーはるっぴとアイドル感を残したヒロインが続いていたので、目が覚めるような女優っぷりだった。ちょっとくたびれた女がハマりすぎている……。張り切ってるときだけじゃなくて、ちょっと気を抜いたときのしぐさや声がめっちゃいい。今日は引きで見ることを優先してしまったのでもうちょっと寄って見たい。

そして俺たちのけ~~~~~~ちゃんの中村屋、見てくれが完全に新幕末なので混乱がすごいんだけどwそういうのを除いたらよかったよ、超よかった。スター倉岡銀四郎と張り合える役者でありながら裏表の存在、互いに自分の血を呪いながら自らその血を絶やすことはできない、唯一の理解者同士。権威でありながら被差別者。中村屋の語るスター像、好きだよ。

この公演、この座組みだからこそ実現している。この時期に命日だったから実現している。全部を引き寄せているのはきっと紀伊國屋の神様だ。神様の、「このまま終わらせてなるものか」という気概を感じる。笑 執念深い神様でよかったよ。ありがとう神様。

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