見出し画像

私がTENGAになるまで

気付くと私はTENGAになっていた。
2018年4月のことである。

きっかけは夫の「俺は水が苦手だから」の一言。
これだけでは訳がわからない。
少し時を遡って『私がTENGAになった経緯』を書いていこうと思う。

2013年8月
当時新婚だった私は二つの問題を抱えていた。

①夫によるセックスの手抜き
②夫による一切の家事の放棄

①夫によるセックスの手抜き

生々しい表現は避けたいので以下のように記す。

夫「我陳珍舐、所望」
我「御意」
夫「嗚呼…挿入可?挿入可?」
我「我、乳又、触所望」
夫「不可!挿入!挿入!」
我「御意…」
夫「………嗚呼っ!」
我「………早…」

お分りいただけただろうか。

少し夫の味方をすると、全てが手抜きだった訳ではない。ただ『non お手抜きセックス』の割合が非常に少なかった。

今思えば、当時の私は常にイラつきを抱えており、獣のようであった。

②夫による一切の家事の放棄

当時は専業主婦の私が家事を担っていた。しかし以下の点を夫に頼んだことがある。

・食べ終えた後のお皿を水につけてほしい

上記旨を伝えたところ
「俺は水が苦手だから、水につけるのは嫌だ」
と言われたため、非常に腹が立ったのを覚えている。

【手抜きセックスへのアプローチ】

手を替え品を替え、我ながら呆れるほどのアプローチの数々によく夫は守りを崩さなかったと思う。
そう、改善しなかったのだ。

以下、私が夫に『non お手抜きセックス所望』とアプローチした手法を紹介する。


☆non お手抜きセックス アプローチ講座☆

①普通に伝える
②感情的に伝える
③冷静に伝える
④甘えながら伝える
⑤夫に尽くす
⑥画像を送りつけて伝える
⑦事後寝るだけだが化粧をして挑む
⑧コスプレをする
⑨図に書いて説明

①普通に伝える
普通にスルー。

②感情的に伝える
言葉通り
「何故!?挿入前、私触不可!?舐不可!?」
と泣きながら伝えたのである。
「そんな風に言われると触る気もなくなる」と夫の一言で撃沈。

③冷静に伝える
夫「わかった」
後に分かっていなかったことが判明。

④甘えながら伝える
「我、触希望〜♡」と伝えたところ「甘えながら言って」と言われたので「今やったじゃろう」と内心ブチギレた。

⑤夫に尽くす
夫に尽くせば、私も丁寧に扱われるのかと思い、それはもう尽くしましたが尽くし損で撃沈。

⑥画像を送りつける
エロ画像を拝借して「我、是希望〜♡」と伝えた。「もう!こんなことしてほしいの!?変態♡」と言われ「はあ?」と思ったが、とりあえず伝えたので安心…と思いきや、ここで終了。実務への道は遠かった。

⑦事後寝るだけだが化粧をして挑む
病み始め。ブスだから触ってもらえないのか?と思い始め、化粧をして可愛らしくしたが「其方、可愛、可愛、挿入可?」となり逆効果だった。

⑧コスプレをする
ほぼ同上。

⑨図に書いて説明
比例グラフを元に、挿入前の儀式の必要性を説いた。

非常に馬鹿らしいが、私は実際に上記グラフを元に夫に説明した。

一応補足すると「触らず挿入とはこれ笑止!貴様の発射までのカウントダウンだけでは満足せず。せめて挿入前に触れ」と伝えた。

するとどうだろう…なんと夫が悲しそうな顔をするではないか。

「分かってはいるけど、(触ることを)忘れてしまう。どうしてできないんだろう」


こう嘆いたのだ。
こんなことで嘆き悲しむなんて、なんて優しい人なんだろう…!と思うはずもなく、比例グラフによるアプローチも失敗に終わった。


冒頭に戻ろう。

2018年4月

私は夫に再度「触所望、我儘言…舐所望…」と伝えた。

ここで一つ、大事なことを言う。

上記旨、つまり前戯をしてくれ、触ってくれ、舐めて欲しい…などを伝えるのは非常に恥ずかしい。

Yahoo!知恵袋で、発言小町で同じような案件を調べ対策を練った。人間の最大欲求の一つである性欲を満たすことができない。頭の中に常に「何故、大切にされないのか?」と不満があり、イライラしている状態だった。

『次は大丈夫かもしれない。触ってくれるかもしれない』と期待をしては何度も裏切られ、自己肯定感は超低空飛行、女としての自信などなくなっていたのだ。


話を戻そう。

「触所望、我儘言…舐所望…」と伝えたところ、今までとは異なる反応がきた。

『舐めると顔が濡れる。俺は水が苦手だから、舐めたくない。もうこれから舐めることもない』

頭が真っ白になるとはこのこと。

『匂いがあるのか?過去付き合っていた人に言われたことはない…でも今は違うのか?』等、一瞬で様々ことを考えた。真っ白な頭とは裏腹に恥ずかしさでいっぱいで顔が赤くなった。

そして食事後の皿を水につけることを拒否した夫を、走馬灯のように思い出した、死ぬ直前でもないのに…

死ぬ直前でもない…いやこれは間違いだ。

この時、一つの人格が消滅した。

すなわち「私はこの人の妻だから、大切にされたい、触ってもらいたい、舐めてもらいたい」という思考を持った『私』という人格を自分の中から消したのだ。

*               *               *

『水が苦手ってそのレベルかよ』事件から数日後のことである。

私は、自分がTENGAになっていることに気付いた。


『私はTENGAだ。だから前戯されず、夫の性欲のはけ口として使われるのだ』
こう受け入れることで、悲しさも大切にされたい欲もなくなった。


高校生の頃から何度も読んでいる本がある。

伊坂幸太郎の『オーデュボンの祈り』

何度読んでも、理解できない文章があった。

狂気と受容。
狂うことと受け入れることは似ている。

TENGAになって初めて、この意味を理解することができた。

「私はTENGAなんだよ」と人に言うと笑われる。そういう"ウケ"を狙っているのだろうと思われる。性的な不満を持つことをアピールしたいのかとも思われる。

それは違う。
TENGAになって、大切にされない苦痛から解放されたのだ。

TENGAになる、つまり狂って、手抜きセックスの問題を受け入れることができたのだ。

『触ってもらえるかもしれない』と行ってきた、事前の身体のケア。
事後『何の意味もなかった』と何度も落ち込んだ。
外で見かける女の人は、どんな人でも自分より魅力的に見えた。

『セックスで大切にされない私』

は消えてなくなって、悩みを抱くこともなくなった。


最後に、

同じような悩みを抱えている人たちはたくさんいるのだろう。もちろん女性だけではない、男性もいるだろう。

私のように、自分を責めて欲しくない。

過去に戻れるのなら、私は私にこう言いたい。

『私は悪くない、十分頑張っている。
顔が悪い、声が可愛くない、胸が小さい…そんなことはない(まあ胸は小さいけど)。だから自分を責めないでくれ。見えない何かと戦うのはやめてくれ。
どんなに自分を責めても、あの人は変わらないよ』

以上が、私がTENGAになった物語である。





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?