見出し画像

怪談・THE私XXII

※はてさて、この先どうなりますことやら。

送りつける藁人形

 わっちも中々売れない歌手を続けている。
いつかファンの軍勢に「アンコール」や
「ブーイング」が巻き起こるような歌をドーム中に響かせてやるわ。

教員免許習得を目指していたけれどやる事が多くて諦め、小型特殊車両の仕事もこれじゃないと辞めて。

わっちには歌しかないと思ったのよ。

するとある一人の少女がわっちのライブ中、ずっと佇んでいるから少し心配になった。
こんなわっちのライブを遠巻きで観てくれるのは嬉しいけれど親御さんが探していたらどうしようかと心配になってスタッフに見張って欲しいとお願いしたの。

すると

「少女?その場所に人って立てませんよ?」

え?
けど、いつも同じ時間に見てくれる子がいるじゃない!
と、少女が見えた場所をスタッフと探していたら確かにそこは柵の向こう。
熱中していたから忘れていたけど、地下に駐車場や他の店がある会場だったわね。

怖いとは思わず、寧ろそんな事までしてわっちのライブを観に来てくれただけ特別感マシマシだわ。

わっちはまた歌い続ける。

ーある日

「まだ歌ってんのか咲かない芽!」

「あんたこそまた場所取りが強引じゃない?ここはわっちが予約してたのよ?」

歌手同士の縄張り争いだ。
ここのライブ会場は一種のステータスで、ここを確保できる歌手は実力を認められている事になる。
だが、相手の歌手は動画配信でファンサービスをし続けてファンを増やして歌の練習は全くしていないのにゴリ押しでここを使おうとする、よくいる「偽物」
だった。

別に他の歌手に別の活動をするなと言っているわけではなくて、この歌手は他の歌手を蹴落とす為に暴露ネタを探したり、肝心の歌がしっかりした内容なのにもかかわらずただただ相手の迷惑になる事しか考えていなくて悪口も多い、曰く付きの存在だった。

「下手な歌にダサい一人称のお前より、俺が歌った方が華があるだろ?」

「何よ?わっち達グループを馬鹿にするつもり?
よくもコケにしてくれたわね。
わっちの邪魔するヤツァ、許さないわあ!」

するとあの時の少女がこちらに手を振っている。

「ちょ、ちょっと待って。いきなり冷静になるけれど喧嘩はやめない?」

わっちは一人の大人として振る舞いを気をつけようとした。

するとさっきまで縄張りを主張していた相手の頭に藁人形が落ちてきた。

どうやら他のメンバーにも藁人形がいつのまにか握られている。

そして

ボンッ

と凄い音が相手の機材から聞こえた。

アクシデントと言うことになってその日はライブ会場はメンテナンスで潰れた。

その日以来、あのグループはこの辺りで歌手活動をする事もなく、迷惑行為も消えた。

そして、少女もわっちの前に現れる事もなくなった。

熱心なファンが、ああやって味方してくれたのは嬉しいけれどなんだか複雑な気持ちだった。

それでも、わっちはこれからも歌手を続けるわよ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?