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海月が導いた答え

あらすじ

柔道部の先輩に好意を持つ或走茶南あるはしさなん

友人の柚羽ゆずはに誘われて海月専門水族館でかき氷を食べに行く。
沢山の海月に囲まれて少しセンチメンタルになった後、海へ向かうとポージングを取っていた逞しい肉体の男性がいた。
それから水族館へ戻ると見覚えのある顔がやってきて、話す事となった。

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 海開きがもうすぐ始まる。
地元じゃないけれど、電車で三駅の距離に海がある。
住みやすい街に近い海。
或走茶南あるはしさなんは退屈な授業も「次は海があるから!」と明確な根拠で行動できる目的がある。
つまり私の日常。

そして。
他の楽しみといえば。

「はぁぁぁ!」

柔道部への見学だ。
昔は地元にプロレス団体や格闘技イベントがあって昨年まで興行を魅せてくださったのだが事情があってもうやってくる事が出来なくなってしまった。

そりゃあ、eスポーツなんて素晴らしい競技があるしゲームも多少好きだけれど
私はeスポーツ選手の

「ただゲームだけやってるわけじゃない。」

という下心満載のマウントやポジショントークを見て

「透けているよ?脆い心が。」

と言い放ちそうで中指を突き立てたくなる程に嫌悪してる。
もう遊びでゲームやってくれよと。

話を戻そう。
私の高校では柔道部や他武道の見学が認められていてそこにはパソコン部の子やeスポーツ好きの友達や教師までやってくる。
海外から来た子とも意気投合して

「私は日本の武道や格闘技スキルも好きだよ。
嫌味じゃなくて。
それにマウントでもないから。
茶南!私は他人には言えないけれど日本の格闘技興行も好きなイギリス人!
だから、日本料理と言語教えて!お願い!」

なんてやり取りできる友達が出来るぐらいにはこの柔道部見学にお世話になっている。

すると見学中の私に男子生徒が私に声をかけてきた。

「君が見てる北条雪人ほうじょうゆきと先輩の柔道技術は、そんなに目を見張るもの?」

たまにいるんだよね。
本質を見抜いた気になってるかっこつけ野郎。
女子にもいたし。

「私はそう思っているから。」

この手の奴には一言で済ませばいい。
そういいながら彼も北条雪人。

私の先輩である柔道部員の技を楽しんでいる。

皮肉屋なだけで多分、好きな作品の感想はインターネットでは見ずに端末を切るタイプだ。
私もその一人。

いい。
実にこの柔道部いい!

そういえばKINEキイン柚羽ゆずは、私の水族館仲間から連絡があったのを思い出した。
約束の日からまだあるけれど、私のもう一つの楽しみがあった。

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 待ち合わせ場所へ着いた私と柚羽。

癒しを求めて「海月専門水族館」
にやってきた。

柚羽との出会いもこの水族館がきっかけで、エチゼンクラゲを眺めている時にこんな会話があったのだ。

「私の家族が下水?とかその清掃の仕事していて、エチゼンクラゲが増えて暮らしのトラブルが発生したからエチゼンクラゲの料理を私に食べさせてきた事があってさ。
それ、『ウシガエルが外来種だから駆除して当然』だって言う上から目線の人間の都合じゃないかって喧嘩した事があるんだ。
それ以来私はタンパク質の摂取を考えるようにしてる。
エチゼンクラゲは食べないようにって。」

私は柚羽の押さえ込んだ憎しみを聞いてから彼女の友であろうとした。

憎しみ囚われば話し合おう。
推し海月見つければ愛で合おう。

そして今日も水族館で海月を楽しむのだった。

とっくに一部を除いた人間に辟易してる。
進学をするのはお互い働かない為。
でも、どうせ就職するなら水関係がいい。
なおのこと大学進学とバイトを考える。
でも、ずっと海月を見て飽きた事もないし興味ばかり。
Z世代の中で私達ほど充実した経験をしている人も少ないかもしれない。

私達は海月にフラッシュを浴びせないようにインスタントカメラで撮影した。

揺蕩う海月の流れに、私達も身を任せるように。

                              ✳︎

 私達は水族館にあるかき氷店で海月はいかに素晴らしいかを語り合った。

エチゼンクラゲを食べなくて済む方法や本当の海月達動植物への共存。
決して上から目線ではない私達と他生物との過ごし方。

インスタ映え用の高くて美味いかき氷まである店で私達は祭りにあるような小さなかき氷を食べてそんな話をしていた。

すると私の目にある光景が映った。

ポージングがしっかりしているパンイチのマッチョ。

海沿いの水族館から見える岩場で大勢の観客に感動を与えているマッチョがいた。
気がつくと熱弁していた柚羽も見惚れていた。

そこにいた若い男性のマッチョはボディビルダーなのだろうか?
しかしあの筋肉はコンタクトスポーツの鍛え方に近い。

近年珍しい旧格闘技のヘビー級?
それともプロレスラー?

海月を見にきたのにこんな経験まであるなんて。

私はドギマギしてしまう。
海月の話をしたいけれどこの光景も見逃せない。

それからボディビルダーは水戸黄門のお銀のように早着替えして水族館の方へやってきた。

やばいやばい。
平静を装って私達は海月の会話をする。

するとかき氷店に彼がやってきた。

あれ?ちょっと遠かったから気付かなかったけれど

「北条雪人先輩!」

柚羽が「例のあの人?」と驚く。
あのマッチョがまさか。

「どうして俺の名前を?」

そういえば彼からすれば初対面のようなものだ。
私はこれまでの話を打ち明けた。

北条先輩はガハハと笑いながら喜んでいた。

「そこまで魅了させるほどの技とか実績なんてないよ。
けど、有難う。
俺の練習でそこまでべた褒めしてくれる人いないからさ。」

柚羽が色恋沙汰かと思い込んで私達の会話にうつつを抜かしている。
それでもいい。

「私、海月とコンタクトスポーツ観戦が好きで。
前から先輩の事が好きでした。
この流れで言うのも変な話ですが、お付き合いをお願いします!」

もう隠したくない。
あのポージングで決心したのだ。

そして先輩は手を差し伸べて、

「びっくりだけど、君は俺と初対面じゃないんだよね。
なら話をじっくり聴いていきたい。
それからでもいいかな?」

成立した。

海月専門水族館で恋が成就した。

やった。
柚羽も泣きながらおめでとうと言ってくれた。

それから私達三人はもう三周くらい海月を見て回った。

厳しい現実ばかりなんだからこれくらいの休暇は許されて欲しい。

そして一枚の写真を撮った。

「あれ?なんか写り込んでんじゃん。
なら、消しゴムマジックで消してやるのさ!」

「柚羽、ノリは分かるけれどこれピクセルじゃないから。」

「面白いなあ君達。」

凄い予定外だけど私達三人は海月達にまたお世話になりそうだ。

有難う大自然。

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