かかってこい奇霊譚:後編
奇霊譚とは。
前回。
この話はある個人配信者達が遭遇した怪奇現象、超能力、非日常をカメラに残した物語のこと。
二〇二四年、今年二十二歳となる婿ノ逵天馳は地域や漁業関係者から『半魚人』とからかわれ嫌がらせを受けている海と共存を目指す青年。
そこへ男子高校生のホラードキュメンタリー監督が現れ、地域の住民のインタビュー映像を確認し、昔から噂になっている『本物の半魚人』かどうか確認して探すために協力することになった。
そう簡単ではなく
婿ノ逵天馳と男子高校生監督との半魚人捜索は案の定長引いた。
天馳は男子高校生を心配していた。
詳しくは無いが友人や地上波のホラー番組などの話だとこういうロケは長丁場になるのが当たり前で男子高校生…高校によってスケジュール管理は難しくないのかもしれないが彼はその辺大丈夫なのだろうか。
キャンプ許可の場所で半魚人捜索の休憩に天馳は男子高校生監督の話をしてみることにした。
立華イツキという名前で、男子高校生ではあるが卒業は既にしている。
高校生ブランドを使いたくて卒業しても男子高校生を四月前まで使うつもりのようだった。
だが彼は高校生時代に歳上のスタッフや他の動画配信者との協力も得て、半ばリモートで取材を進めて映像編集もしてきた完全個人のホラードキュメンタリー監督だった。
彼も業界から『まだホラーが登竜門だと思ってるの?』といじめられたことがあるらしい。
それ以上多くは語らなかったものの、真相解明や依頼者の想いを無駄にしたくない意思はまるで海を守ろうと人間からの嫌がらせと戦う自分のようだと天馳は彼の境遇を重ねかけた。
もちろん信用したわけじゃない。
だが歳下に好きなことに命と身体をささげる熱い気持ちや念を無碍には出来ないと手を差し伸べ、握手しようとした。
「嫌なら別にいい。
真相は残酷かもしれないが半魚人をまた探そうぜ。
春休み期間の気晴らしにもなるし、こうして本人がこの地域に訪れたのも観光目的もあるだろう?
あとでじっくり楽しんでもらうためにも時間は無駄にしたくないしな。」
彼は片付けをした後にすぐにカメラを構えて半魚人の場所を突き止めようと行動を急いだ。
なんか十八歳だなあと三年前を思い出した天馳も一面じゃ分からない彼の行動を手伝うことにした。
バトル半魚人
実際の他生物は簡単に人間へ向かっては来ない。
近頃クマが温暖化による影響か住処や餌がなくなったことによる影響か人里まで降りてくることがあるがその現象がこの海の辺りにも来たということかもしれない。
科学や常識なんていつも覆される。
海に住むエイが街を流れる川、つまり淡水にやってきたり外来種とされるミシシッピアカミミガメやナマズ、コイが海を泳いでいたり進化はたった数十年で行われる。
人間だけが進化しない霊長類だといつも天馳は思う。
誹謗中傷に思想の偏り、知識自慢に環境自慢。
許せないことも多く犯してきた。
悲しいことにそれは男子高校生監督や天馳自身もそうだ。
きっと自分達の活動が正しくないから周りに嫌われている。
それでもベストは尽くす。
人はエゴを建前にエゴで生きていくしかない。
だから監督が見せてくれたこの地域のインタビューイも、半魚人も守りたい。
それでも人間を完全に嫌いになれないのは監督もそうかもしれない。
また夕暮れになってまで海周辺を探す。
満潮になったらまずい。
夜の海は危険だ。
そしてまたキャンプ場へ戻ると気配がしたので監督を抱えるように伏せた。
…オオオ…
エラ呼吸か肺呼吸か。
不思議な呼吸音。
餌を求めて何か現れた。
小声で天馳は監督にカメラを構えるように指示し、天馳は音の主の前へ立ち塞がる。
「本物の半魚人…か!」
フィクションでギリギリ見た事のある半魚人。
ほぼ人間で魚の部分は映像と少し違っていた。
半魚人の手にはキャンプ場に置いてあったスーパーマーケットで買った弁当の残りと『半魚人の着ぐるみ』だった。
そうか。
人間であるように変装までしてこの辺りまでやってきたのか。
「怖かったろ。
人間連中。
そのまま帰ったって俺たちに見つかったんだ。
不安で気絶させたいだろ?
けど簡単に倒れないぜ。」
敵意と驚異を教えないとこの半魚人は人間達に解剖される。
監督に存在を知らされたとしてもホラー関係ならどうせフィクションと民衆には伝わるだろう。
ごめんな監督。
だが真相は隠しておくものだ。
このご時世では特に。
本物の半魚人もストレスが溜まっているのか拳の骨を鳴らしている。
ここまで進化していたとは。
負けるわけには、いかない!
本物の半魚人とあだ名で半魚人と呼ばれた天馳は取っ組み合いになりながら戦いをおっぱじめる。
人間と半魚人の共存を行うために人間が介入せざるを得ない現状に半魚人の打撃で受ける痛みよりも、海の生物と同じ忌み嫌われる者同士で全ての対処をするつもりだ。
鱗は硬いが弱点まで現代人と変わらないのは好都合だった。
圧倒的に天馳が有利に立ち、半魚人をノックアウトした。
「あんた、すげえ。」
やっぱり十八歳男子か。
夜なのに目を輝かせているのは伝わった。
いやそれよりも。
「はやく逃げろ!
これは俺と他の人間が喧嘩したことにする。
お前は知恵が回るからバレないようにしろ!
秘密はなんとか俺たちが守る!!」
言葉では話したがこれは周囲に人間がいた時に人間同士の喧嘩だと誤魔化すため。
半魚人は言葉ではなくパッションで感じ取ったのか、荷物を捨てて天馳達の飯の残り物だけ持っていって海へ帰った。
こうして秘密裏にこの地域の怪奇は幕を閉じた。 そして天馳は監督の元へ向かう。
「大事な秘密がお互いに出来ちまった。
俺、あんたを手伝うよ。
監督君。
俺もスタッフにさせてくれ。
だからこの件はフィクションとして公表するんだ。
今回のギャラは要らないが、その代わり雇ってくれ。」
一瞬考えた男子高校生監督・立華イツキは大きくうなずいて握手をした。
いつの間にか天馳は映像業界にも仕事が出来た。
今まで知らなかったホラーの世界。
海しか知らなかった天馳にとってもホラーは他人事じゃないことを経験した。
これも海を守るために。
そしてバッチリあのバトルをカメラに収めた彼に感服したからこそスタッフとして手伝うことを決めることが出来た。
本当は名前があるかもしれない半魚人との共存を守るために秘密は厳守する長い戦いがここから始まる。
それでもエゴなのだから逃げるわけにはいかないと今後強く誓うの天馳だった。
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