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テスト・オブ・パラドックス

※この物語はフィクションです。

あらすじ


某所の治安を守る為に表に出ない始末屋をしている開発者。
そんな開発者も二十歳の成人となった。
開発者の幸福は依頼を達成する事。
ただ一人何かを実行するのに、寂しさを感じてはいる。
人間、能力者、怪人。
我々は交錯する。

◆排他の極み

━━居住区燦雷さんらい

依頼のあった場所はここか。
僅かに人間がいる。
年寄りが多くて若者は住みたくて住んでるわけではなく、SNSでは「生きていたくない」と素直に呟いている。
グローバルな社会であり、多用的になったのはいいがそれ故に本当に救われている人はせいぜい、俺が殺そうとしているクズだけだろう。
そういえばこの前始末した田舎暮らしで配信生活していた親父二人がいた。
そこにしか存在していない貴重な生物を無益に殺し、視聴者を増やす。
生物に疎い警察もそれを許す程に緩く堕落した楽園だ。

俺は「開発者」と呼ばれている。
開拓者…とまでは呼ばれはしない。
二〇二二年、夏に誕生日を迎えた人間だ。
もう二十歳になってしまった。
俺に関する家庭環境やそれらの付加価値は俺にもあちらにも何も関係はない。

無碍にされる命の依頼によってクズを殺すのが俺の存在意義だ。
今回の抹殺対象は工業関係務めのアラフォー。
それだけ言えば「立派な社会人」だろう。
だがお前達は甘い。
その立派な社会人が一番厄介だ。
人に役に立っているわけではなく、搾取されていて自分は履かせてもらった下駄が見えないから威張り散らし虐待を行う。
男性に多いらしいが俺は似たようなヤバい女性も始末してきた。
そして今回の「立派な社会人」はアニメや哲学者の本に恩を感じないくせに、感想にかこつけて自分語りをし、「人を人とも思わない」と良い歳をして狭いブログでのたまい、今の配信者で言う囲いを増やしてコンテンツを腐らせるタイプの人間だ。
俺はこの依頼を受けてから心が高鳴っている。
俺は俺の人生に満足している。
僅か二十歳にして法から外れた人間の言うことだと思われるだろう。
だが必要悪である以上、俺には大した悲しみでもないし哀れられるのが普通としか思っていないからな。

そうこう言っているうちにやっとターゲットに出会えた。
驚く依頼人も蜘蛛の糸で絡みつかせた。
御宅を言っていたような気もするが、物の少ない部屋で得られない欲望をほざいていた奴なんてどうでもいい。

「どうだ?
人を人扱いしない奴が人間に始末される気分は?
お前こそが全ての世界の底辺だ。」

槍で獲物を突き刺して俺の仕事は終わる。
他人事が蔓延るこの田舎には何名か俺に始末して欲しい奴らの名前と情報が集まってくる。
なるほど。
類は友を呼ぶのだな。
無休が続くが俺にとっては最高の瞬間だ。
なんせ、掃除だからな。

開発者として、俺は利用され利用していく。
何故なら、相手も人間で俺も人間。
そして、このような役割を担うのも人間だから…かもな。

▼プロローグ終

◆━蟻の王

今日も仲間の死骸を拾う。
人間や他の食物連鎖の頂点に立つ奴なんて腐ってる。
だが俺達、蟻の世界もヒエラルキーによって決まっているから世知辛い。

差別も区別も貧富の差や生まれの差、そして娯楽に浸れない地獄に住んでいるのは蟻の世界もそうだ。

俺は風美折波みかざねふぉとんと名付けられて生きてきた。
歳は二〇二二年の冬で二十歳だ。
蟻のことを語っているが、俺はバリバリの人間だ。
もっと言えば蟻達に選ばれて蟻社会を変える為、女王蟻に訓練された両親によって俺は力を受け継いだのだ。
勿論、訓練内容も。
折角力を受け継いでも訓練をしないと身にならない。
人の身体は宛ら拘束具。

更に女王蟻のやり方を気に食わない仲間達がいて、俺は女王蟻を始末する為に人間として生き、蟻としても生きていく。
女王蟻の命令はいつだって俺を縛ろうとする。
オスに人権…蟻権はないのだ。
人間なら差別だポリコレだと言えるが蟻の場合はそんなコミュニケーションは通じない。
遺伝子に全て組み込まれてしまっている。
そして蟻は人に踏まれ、鳥に啄まれ、サムライアリに支配される。

そうして二十年間生きているうちに色んな国の蟻達と出会って、俺達は仲間という上から目線の関係ではなくなった。
生きて俺についてくれる仲間もいれば、もう死んだ仲間もいる。
それに俺には人間の友もいる。
その人間の名は岸土嶂亜きしどみねあ
幽霊と共に過ごしてきたからか、生者への憧れが強い。
嶂亜が仲間の霊を探してくれて以来、ずっと共にいる。
しかも同い歳だ。

俺達は一人の人間であり、蟻と霊の中間の世界にいる。

「よお、蟻人間。それと霊媒師。」

サムライアリか。
複数の仲間を…かつて俺と一緒に戦ってくれた仲間を引き抜いてやってきた。
奴は人間であって人間ではない。
俺が蟻の力を受け継いだように、サムライアリは人間の力を受け継いだのだ。
力に屈するのは弱い生き物である俺達の課題であり、覆せないかもしれない現実だ。
俺を除いてな。

「あんたは一人で色々とやれるらしいな。流石蟻の中でも突出した種族だけある。
あんたに殺された無数の霊達が、今すぐあんたを呪いたいそうだ。
最も、呪いなんて存在しないけれど。」

嶂亜の言う通りだ。
俺達の力で出来ることは少ない。
俺でさえ。
しかし今日は何が目的だ?
多数の仲間を従えて俺達の前に奴が現れる理由。
喧嘩なのか?

「依頼があってな。
傲慢な人間を裁いて欲しいって内容なのさ。
だが、俺達は人間如きに興味が無い。
その依頼は他の奴に押し付けておいた。
だが、手ぶらで帰るのもつまらないだろう?
傲慢な人間を裁いて欲しいという抽象的な内容なら、前から気に入らなかった風美という人間を裁くのも一興だ…そう解釈させてもらった。」

そうか。
頼み事を引き受けておいて他者に押付け、理由だけいただいて喧嘩を売りに来る。
傲慢なのはどっちだ!
サムライアリは人間の姿から細くメタリックな蟻の姿へ変身する。
それが奴のもう一つの姿。
他の仲間は蟻から人間へ変身していた。
逆にただの人間もいる。
全員俺の友で仲間だ。

俺とサムライアリは取っ組み合いになった。
加勢する奴を相手にするのは嶂亜だった。

「今時、俺達世代でこんな多数派バーサス少数派なんて。
お前ら本当に02年生まれか?
もっと大事なことを学べるように、先人達の霊を呼ぶとするか!
カモン!スペクター!」

嶂亜が物言わぬ死者達を纏わせて多数派と戦う。

そうだ。
俺達若手も古い価値観と新しい時代と戦っている。
何故なら、誰も時代についていけてないからだ!

後は嶂亜に任せ、俺はサムライアリと戦う。

俺は仲間の死骸を硬質化させてサムライアリの攻撃を防ぐ。
そして、生きている仲間が作り、ストックした回復の蜜を使ってサムライアリの斬撃で受けた傷を修復する。

「傲慢だよお前は。死んだからって仲間の身体で防御する必要ねえだろ?」

その通りだ。
そんなことは俺が一番考えている!
だが死んだ仲間の経験も生きている仲間の意思も無駄には出来ない。
これが王と呼ばれるある俺の罰なのだから。

「怪人であるお前にも宿命があるように、俺も戦う運命がある。
それと身勝手なお前をここで倒せそうだ!」

海外で知り合ったグンタイアリが俺の身体に纏わってくれる。
このグンタイアリの一撃を喰らわせればたちまちサムライアリも蟻酸すら残さず痕跡は消える。

キンッ!

俺の頬を何かが掠めた。
銃?

「そうか。あんたが開発者!」

仲間の噂で聞いた事があった。
インターネットで依頼を受けているのに足がつかない不思議な技術の持ち主。
そして奴は俺や嶂亜と同い歳との話だ。
若手だからとかオーバーエイジというわけではなく、俺達はスペックを高めるしかなかった。
崩れぬ幸せを見つける為にな。
別に俺は結婚はバリバリしたいけれど!
そんなことはどうでもいい。
だからといって銃まで打てるのは非現実的過ぎる。

「随分と手が早いな?
そんなにこの蟻の王を始末したかったのか?」

「そっちこそ相変わらず仕事が速い。
この蟻との戦いの加勢は、スケジュールとしてはまだだっただろ?」

統率が取れてないのか。
だが二体一は厄介だ。
グンタイアリの鎧を硬質化させて様子する。
もしかしたら俺の能力は筒抜けかも知れない。
だが開発者はそれ以上は何もしなかった。
ただそこに居るだけで錯乱する。
サムライアリはそれを好機と見たか、俺へ攻撃する。
向こうも強化した腕で俺の鎧を攻撃する。
斬撃に打撃。
攻撃した奴の腕にグンタイアリが向かう。
肉を噛みきろうと群がるがそれが通じる程やわではなかった。
開発者のプレッシャーに、サムライアリの思ったよりタフな装甲と攻撃に疲弊していく。

「やっと王を殺せるか。
恨むなら、お前の女王様を恨むんだな!」

いつの間にか俺は倒れ、顔を踏まれながら罵倒される。
くそっ!ここまでか!
俺は硬質化させた死骸を操り、なんとか防御はしていたが奴の脚力に押されそうだった。

すると開発者がサムライアリの胸を貫いた。
蜘蛛の糸?
槍のように鋭い糸の槍が深く鋭く奴の肉体を抉っている。

「お、おい!…きさ…ま!」

すると開発者は依頼内容を話し始めた。

「サムライアリ。
あんたの依頼は女王蟻のものだ。
あんたが人間だと思っていた依頼人は最初からあんたが自分の依頼を断り、勝手に行動することを見越していてね。
そこにいる蟻の王へ喧嘩を売りにいくのは予定通り。
俺の依頼はそこの王を助けること。」

ど、どういうことだ?
女王蟻め。
俺へ貸しを作る為に?

「くっ、くそぉぉぉぉ!」

サムライアリは糸の槍を強引に折り、胸を回復させた。
完全に回復はしていなかったが。

不測の事態だが開発者は冷静に俺の側へついた。

「大丈夫か?」

余裕があるのか。
なんて奴だ。
そしてサムライアリも。
だが仕込みは終えた。

「サムライアリよ。
お前がしぶといことを思い出して良かったぜ。」

サムライアリは右腕のチェーンソーで俺達を狙う。
そして俺は硬質化させた死骸で防ぐ。

「強い。流石王様。」

そう褒められても嬉しくはないがな。
だが開発者の気まぐれがくれたチャンスを逃さない。
俺は合図を送った。

「餌付け!」

するとグンタイアリがサムライアリの傷口から無数に拡がり、肉を貪る。

「がはっ!な、なんだと?」

グンタイアリやハキリアリの肉食性を活性化させて、相手に群がらせた時に傷口や急所に潜ませる。
傷口を開くのは俺の役割だったが、開発者が大打撃を与えてくれたおかげで手間が省けた。

「前から仲間の仇をとりたかったのさ。
あばよ。
アリヤクザ!」

無数の仲間が怪人となったサムライアリを貪り食らい尽くす。

開発者は事の顛末を見届けた後に去ろうとした。

「なあ、あんた。
ただの依頼だけで俺を助けに来たわけじゃないだろ?
狙いはなんだ?」

開発者は俺に飲料水を投げて渡した。

「こ、これは?」

俺は開発者の心理戦にハマってしまったようだった。

「これも依頼。
あと、貴重な同い歳を守りたかっただけだ。
蟻の王。
いつか蜘蛛の協力が欲しい時は俺を頼れ。」

そう言って風にのり、開発者は消えた。

▼━━蟻の王 終

◆俺達のこれから

霊を纏う嶂亜に蟻と共に生きる俺。
もうすぐ二〇二二年も終わり、成人式がやってくる。
スーツを二人で選んでいたら、開発者がやってきていた。

「お、おい!あんたこんな堂々と出歩いていいのか?」

俺はつい話しかけてしまった。
すると開発者は微動だにせず服を選ぶ。

「同年代なのは対等だろう?
気にしすぎるなよ王様。」

この辺りは他の人間と変わらないのか。
もしかしたら俺達は案外真っ当に生きているのかもしれない。

なんだか成人式が楽しみになってきた。
仲間や友以外の誰かと集まるのは苦手だったが、人生一度切りの経験だ。
俺達はこの時のみ繋がった。

~終~


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