怪談・THE私XIV
※よく謎の物質について夢に出て困る。
クルーエル
霊は包丁を握らないと聞く。
口に何か入れる必要がないから。
職人というのは研ぐ才能を尖らせれば尖らせるほど鋭さを増すと聞いていたが、あれは誰が言ったのだろう。
分からないのに広まるのが噂なのか。
何も喋る必要のない霊の方がよっぽど無害だ。
また今日も様々な人間の家を巡る。
死んでみたら特に目的も意思もなく転々としてしまうものだ。
これが無。
これが地獄。
空気を武器に飛ぶ空で、何も殺すつもりがないのに冷たい空間で何かが張り裂けそうになる。
答えは分からない。
そして、誰も語れる相手がいない。
この身体はもう冷気。
霊だけにってわけじゃない。
暖かな駄洒落も、冷たい突っ込みに変わる。
誰も恨んじゃいないのに鋭くなる私は冷たい人間だったのだろうか?
交錯する記憶なんてバイアスでしかないか。
何故こんな未来を漂うのだろうか?
それが現実というだけ。
この事実をそれとなく幸せそうな人間に空気で伝える。
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