警棒
経達は戦っていた。
廃校かつ誰にも見られない場所で
「目に見えないが存在している何か」
の気配を察知出来る為、ここへ誘き寄せたと言うのが正解。
憑依という意地悪な技は使ってこないが、多数で囲むという卑怯な手を使う所を見るとどうも人間的な考えのようだ。
「くそっ!リーチは俺の方があるのに!」
簡単に掴まらないのをいいことにこちらの攻撃を避ける。
奴らの手にも何か目には見えない物質があるのか?
手探りで敢えて攻撃を食らって確かめるという愚かしいにもほどがある行動さえ、思考回路が整っていてもやらざるを得ない。
更に
「ギュオオオオオオオオオン」
廃校体育館まで最高三体の不定形を誘き寄せたものはいいが「キョン」という鹿に似た動物までやってくる。
組んでいないからいいものの手間がかかる。
ー自身
経達は部類の喧嘩好きだった。
他に趣味がないわけでもなく、弱い者には興味がない。
ある日、一人で潜入調査を頼まれ怪しい論文を朗読されて顔に敵だとバレないように表情を作っていたらバレて人を呼ばれた。
まだ経達は高校生。
中学時代から廃校や廃墟探索が好きで、海外で偶々廃墟を見つけた時、リサーチ部作で毒虫や猛獣に襲われかけるなど九死に一生を得る。
いつ死んでもいい!
と思えるように趣味の一つとして「単独捜査」を続けている。
そうしているうちに現在人間が表に出している世界に一銭も払う価値がなく、搾取される世界と知ったからか、タダで行う喧嘩より素晴らしいものはないと考えるようになった。
ーいま
経達は特殊警棒の性質を持つ不定形の一撃を喰らい、打撲と切り傷を負った。
偏差値がちゃんとした高校に通っているのにやたら他校とのバトルに助っ人を頼まれるくらいには力に自信があったのに。
防御力が足りないという現実を受け入れ、猛突進してくるキョンの動きを交わす。
喧嘩好きとはいえ、殺生は好まない。
経達は人間であって猿ではないから。
更に不定形からの攻撃がやってくる。
壁に叩きつけられるが攻撃パターンからするとこの不定形の一つ一つの力は小さい。
一気に畳み掛ける為に調整している。
要はフェアリーだ。
本来のフェアリーは悪戯好きだそうだ。
そこへキョンが嘶き、蹄を床に叩きつける。
経達(けいた)は改めて自分が人間だと悟る。
若さは怖い。
なんとか両手両足残ってるのも奇跡だ。
いつ死んでもいいと思っても、リサーチして廃墟巡りをしている。
この怖さがあるからやめられないのかもしれない。
思い出すんだ。
人間が、誰か一人を追い詰める時に囲む場合にどこから攻撃をしかけてくるか?
今、経達は壁にいる。
キョンは不定形の存在には気づいているようだ。
流石動物。
だが、コンビネーションは悪い!
キョンがこちらへ攻撃しに来た時に、経達(けいた)は左へよける。
すると読みが当たったのか、すり抜けた不定形の攻撃がキョンに当たり、不定形はキョンの角で身体が破かれた。
キョンは気絶しているだけだが不定形は一体消えた。
だが二体の気配は上と、下か!
すり抜けるのを利用して攻撃してくる。
左へ避けたはいいが向こうは計算済みのようだ。
仲間の命さえ捨ててでも弱い者イジメをしたいのか。
考えていることは人間と大差ないな。
なら、
半歩後ろへ下り壁に密着する。
二体の不定形はスピードを止められず激突して砕け散った。
後ろの不定形に経達が気付いているとは思われなかったが、すり抜けるのなら何処からでも攻撃してくる。
しかもキョンの攻撃もあったから判断能力が鈍ってると相手が油断した。
そこで、
スペースが広く空いている左へ移動した。
右でも良かったが地面をすり抜けられるとは想定していなかった。
こうしてたった一人の死闘は終わった。
経達(けいた)は喧嘩は強くてもあまり筋肉がない事が悩みだった。
日常に潜んでまで能ある鷹は爪を隠すという下心はイケ好かなかったからだ。
逆に言えば体型は関係ないという事だ。
勿論、重ければ隙が生まれるのだが。
罪のないキョンを抱えて廃校を去る。
もう二度と来るなとキョンに伝え、
経達も夜を乗り越える。
この後、警察に詰め寄られるのも何回目だろうか。
勿論何も悪いことはしていない。
その時、具体的に自分が体験した話をしても信じてもらえず「面白い」という理由で逃してもらった。
おいおいしっかりしてくれよ。
だが事情はこちらにもある。
経達は若さは隙だらけと思っているがまた違うシチュエーションを目指して人気のない場を探す。
筋肉はつけたいが、目立たないように何処を鍛えるかは勉強不足だ。
やはり防御力が大事か。
まるでゲームだ。
逆Eスポーツなら活躍できるのかな。
そう考えながら経達の戦いは続く。
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