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怪談・THE私Ver.8

※八回目というのは因果だと感じる。
七転び八起きと言う言葉があり、ラッキーセブンの次は特に何もない八回目の起立で終わる。

「七回も転ぶ羽目になってるのだから八回目が訪れそうなら寝かせてよ。」

と私は思う。
そろそろ諺も引用ではなく新規が欲しくなる頃だ。

見た目通りなんだね

 俺は基本的に悪夢ばかり見る。
「起きている時の方が怖い事が多いじゃないか。」
だなんてリアリストは言うがだからこそ、寝ている間はマシな夢を見ていたいのだ。

今日もまた無意味なテストを行う事になる。
成績が良くなくて公立の中学に行くしかなかった俺は嫌々、ため息をつきながら通っている。

「ある程度貯金があって、大学にいった方が学べるじゃないか。
こんな所で日本語と英語だけの世界を学んでも意味がない。
やりたい事も出来ないし、年寄りに支配されるなんてまっぴらごめんだ!」

と叫んでしまいたかったが多様性を強いられているこの世界でも言ってはいけない事がある。

余計つまらない。
インターネットも無秩序な時代は変わらないからか色々と制限されているし、SNSで見たくもない知り合いを見させられるのも嫌だった。

なんとなく一人だと居心地が悪いからなんとなく出会った奴となんとなく適当な話をしてなんとなくのまま帰る。

さっき聞いた話なんて忘れたよ。
私立に行けなかった奴ら同士でたむろしているだけ。

俺は下と相手のスマートフォンを見ないように高度な顔の動かし方をしながら帰路へ着く。

すると何か殴られている音がした。

みてはいけない

それはオカルト的な意味ではなく人間のトラブルに対してだ。

「離せよてめえ!邪魔なんだよ!」

だが見に行ってしまう。
よく震災の時に川や海を見に行く奴がいるあの心理のように!

もう見下さないから俺だけ無事なまま非日常を見させてくれ!

だなんて贅沢な願いとスリルを味わおうと覗いてみた。

すると同じ中学の制服を着た男子が(俺には)見えない何かを殴りつけている。

「もうてめえらは成仏しろ!後世まで迷惑かけんな…おらっ!取り憑こうとしてんじゃねえぞ!」

喧嘩慣れしているのかまるでそこに誰かいるようにしっかり殴って蹴っている。
ここで俺は彼が謎の存在に対してステゴロだけで対抗している姿に惹かれていった。

普通撮るだろ?
心霊現象やぞ?
しかもガチっぽい。

「ほらもう一発!お前も懲りないなあ。人間なんかに恋するから拗れるんだ。
東京タワーにしろ!」

やり取りが最高に意味が分からない。
やばい奴なのかなあ。
その割には対応はしっかりと手慣れているから意外な形で心霊現象の証明がされた。

すると男子が俺を睨む。

あっ。
本当に怖いの、こっちだったな。

彼は止まっている俺にいつのまにか近づいて胸倉を掴む。

「お前同じ中学か。今の何かで撮ってないよな?」

え?
これ、裏取引か何か?
見ちゃいけなかったんだ。
ガチだから。

「い、いやあ音が凄いから何かの犯罪だったら通報しようと確認してて。」

彼は俺の胸倉を話す。
強い力だ。
一瞬息が止まっていた。

「確かに何か撮った形跡はないか。」

彼からはヤンキーと言うより戦闘民族タイプのお洒落と自分をある程度客観視しているのに謎のIQを感じる。

「お前にはさっきの光景どう見えた?」

ここはどう切り抜こう?
変なアンサーをしたら次は俺が殴られそうだった。

「い、いやあ何かの特訓…ですか?」

すると彼がため息をついて「やっぱりそうか。」と凹んでいた。

「やっと俺の状況を説明してくれそうな奴が来たと思ったら何も見えないのか。これでまた俺は生きづらくなる。」

あんなに殴っていた人間とは思えないくらい気分が落ち込んでいた。

「もしかして、霊って呼ばれてる君にしか見えない何かがいるって事?」

決して馬鹿にしているつもりはなかった。

すると彼はこの現象について話をしてくれた。

「霊なのか何なのか分からないけどよ、俺にしか見えない何かにストーカーされてさ。
どうせ誰かに言っても助けてもらえないからこいつの前で殴る練習してた。
すると他の学校から喧嘩が好きな奴らに目をつけられて、今時おかしいだろ?
しかもこの得体の知れない奴が俺を触ってくる。
人間からは逃げて、こいつも無視をしていたら急に俺の背中を蹴りやがった。
だから対抗して痛い目に合わせてたんだ。
一応、暴力に頼らないように今までずっと黙っていただけだ。
けど、愚痴を吐く相手も見つからないし殴りたくもないし…それがさっき爆発した。それだけだ。」

何が多様性だ。
これだけ気をつけている彼が爆発するのは当然じゃないか。
だから場合によっては俺の端末を壊すつもりで説得しようとしたんだな。
そんなの、一人じゃ無理だよ。

「いまいちすぐに事情は分からないけど、話してくれてありがとう。」

彼は目を凝らし驚いていた。

「え?受け入れるんだ。殴られたらどうしようとか考えたりしないのか?」

悪い人ではないけど手段を選ばないタイプだったりするのだろうか?
けど、一概に言えないよな。

「さっきの話に嘘があるとは思わなかった。俺に見えないだけで、君には見えてるんだろ?
正当防衛だったのなら俺に止める権利ないよ。
それに、あの見えない何かってあれで終わりってわけでもない…のか?」

彼はまた表情が曇る。

「とっちめたけどな。」

会話が怖いなあ。
見えない何かも怖いけど、喧嘩慣れしている彼も怖い。

でも不思議だ。
理性で限界まで抑えて暮らしている人がいるなんて。

「異性じゃないから残念なシーンだけど、俺は君の今の行動を不審には思わない。同じ中学だし。
あの、先輩ですか?」

彼はクラスを丁寧に教えてくれた。

「同じ学年?でも、君の姿を見た事ないんだけど。」

「俺もだ。自分の事で精一杯だからな。」

素直だなあ。
それ程一人で抱えていた悩みだったのか。

「得体の知れない奴が見える人間だけどよろしく。」

「ツッコミたいなあ。でも黙るよ。
よろしくな!」

なんとなくの生活から唐突な生活が始まった。

ただ一つ言えるのはここまでお互いが分からないようカモフラージュしながら生きている現実と第三勢力の「見えない何か」との生活にどこかワクワクしている俺がいると言う事。

案外、彼と俺は変わらないかも知れない。

見た目通りの友が出来た瞬間であり、起きて見るらしい白昼夢が豪華特典として付属した。

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