避けられぬ懐疑〈影虚〉
※お祓い済みです。
これは、ある日の出来事だった。
前回
総集編(ここを読めば追いつけます)
◎誕生
鼻歌が部屋に響き渡る。
散らかった部屋、付けっ放しのゲーミングモニター画面。
そこに映し出される、青年の姿。
側には二十代後半以上の男性が倒れている。
「長かったなあ。ここに来るまで。」
鏡から現れた青年。
その姿は、モニターに映る青年とほぼ同じ。
「鍵っと。いや、その必要はなかったな。」
青年は部屋から透けるように出て行った。
「あの男の持ち物はある程度手に入れたし、この世旅行と洒落込むか。」
研究対象:ドッペルワン
そう記録する海月の様な生命体が居るとは知る由もなかった。
◎変形
俺の名は……
いや、………
これも違うか。じゃあ……
面倒だ。
なら、『幻』なんてどうだ?
俺は誰にでもなれる。
男の姿を気に入ってるから俺という一人称を使っているがもう一つの性別にも変われる。
混ぜる事でさえ。
俺がどうやって産まれたのかはまた後で語ろう。
秘密は隠蔽され、謎は深まるままの方が生きるというのは楽しいし飽きない。
そして、鏡のように正直じゃないし嘘もつかない。
俺は目の前でファッションを整える奴がいたらそいつになれるし、得があれば褒める。
映えも夢も思い通り。
姿は何でもよかったが都合のいい若い姿が手に入った。
データは俺が去った部屋の持ち主から学習した。
名前は『浦泉奈冨安』
避けられぬ懐疑スタッフ兼プロファイター。
現在高校二年生で、レジェンドの兄『浦泉奈土蛛』の弟。
友達は多いが反動で孤独を好む…らしい。
服装を変えるのは大変だった。
ほぼご丁寧に制服だったから姿を消して街中にある雑誌から只見でファッションを学習。
記憶に残ればあっという間にチェンジできる。
俺は必要経費要らずだからな。
「え?あの人って浦泉奈君じゃない?」
「本物?けど、令和の体育会系って感じじゃないね?あんなにかっこよかったっけ?」
少しだけ顔はいじってある。
この浦泉奈冨安って奴の双子っぽさを出しておけば、後で言い訳もできる。
だが理解出来ない。
あんなマニアックなDVDでアグレッシブに取材する独特な環境で育ったこのオマージュ元の身体が都会とは言え思ったより認知されていないのは。
俺は何にでもなれる。
人影からやってきたからな。
だから特定の身体が欲しくなるもの。
本人がきたらどうするかって?
その時は他の姿に変わればいい。
必要経費要らずだが、腹が減った。
こんなこともあろうかと部屋の持ち主から金銭は奪っておいた。
他の方法で出せなくもないが、この身体に特定される訳にはいかないからな。
「すみません。そのクレープください。」
味覚もちゃんと備わっている。
この国では料理が美味いと聞いているからな。
じっくり味わせてもらった。
「また来ます。」
そういって帰ろうとすると
「あなたって、浦泉奈冨安選手ですよね?ほぼそっくりな外見だけど、格好がテレビで見た時と違ったから。」
隠れファンがいるのか。
羨ましい奴。
奴の暗い部分はバレていないか。
「それ、言う相手間違えていますよ。」
「え?どういうこと?」
その時に俺は一度姿を消す。
◎会頭
持ち主を寝かせたのは間違いだったかもしれない。
もっとも、とっくに死んでるけどな。
しかし生きづらい世界になった。
労働問題や社会問題はそのままに、科学技術の発展も良く言えば過渡期。悪く言えば停滞。
持ち主の姿にもなれるし記憶もあるからセキュリティは突破できるがすぐにバレる。
幸いなことに俺は他の姿で誤魔化せる訳だが…
俺は突然、触手にまとわりつかれ廃病院へと誘われた。
倒されても俺は態度を変えない。
しかも触手の主は俺とは違う別の生物だった。
「九弾。コイツは浦泉奈冨安じゃないね。」
「そうか。確かに、顔見知りとは言え俺を見て反応が無いとはな。」
俺は『何かに映し出された存在ならデータを取り入れられる存在』
浦泉奈冨安の記憶にあるこの青年と『新種族』と呼ばれる生き物。
確か、掟で禁じられた人間との融合を行った離反者でもあるらしい。
つまり、半分俺達側で人間の敵側。
けれど俺のカモフラージュも見事なものだ。
浦泉奈冨安かどうか困惑している。
廈門道九弾。
二◯二三年今年、二十歳。
家族は居らず、無所属だとか。
俺は人間の環境がどんな形であれ否定も肯定もしない。
ただ、この人間は全てを憎んでいる。
浦泉奈冨安は合体したこのタッグをこの人間の後輩であるもう一人の青年と一緒に撃退したようだ。
いくら俺の力でも対抗は出来ない。
だからこそ提案した。
「お前らの探している浦泉奈冨安は俺じゃない。」
「ナニ?苦し紛れの言い訳か?」
新種族の触手は透明化した俺の身体をも簡単に掴む事が出来る。
という事は合体している九弾という人間にも俺へ接触する事は可能かもしれない。
迂闊に動けばやられる!
「今、お前達に説明しても信じては貰えまい。
だが…俺はお前達よりも人間の弱点を知っている。
急所を狙う様な事とは違う。
要するに、お前達の知らない人間の記憶がある。
その一つであるお前達が、俺が模したこの姿にどんな恨みがあるかも知っているからな。」
二人も様子を探っている。
「おっと!攻撃はやめてくれよ?漸く条件が整ってこの世界にやってこれたんだからさ。」
新種族が九弾という人間に耳打ちしている。
敢えて聞くのはやめた。
「ふん。
本当にあるんだな。怪現象ってのは。」
理解が思ったよりも早い。
「お前達は心霊や妖怪のような存在なんて信じないかと思っていたが…まあ、間近で見られては信じざるを得ないか。」
この時点で俺が浦泉奈冨安では無い事は分かっているとこちらは信じたい。
「ホォ。新種族のデータのルーツはそういった類だと聞いていたが…だが、感触は人間だった。
どこまでが嘘で、どこまでがホントウだ?」
簡単には逃してくれないか。
新種族のデータは避けられぬ懐疑でもまだ未知の段階。
離反者すらも今の今まで姿を隠していた。
チャンスがあれば今のように浦泉奈冨安をやれた訳か。
感謝しろよ?ヒトカラさん。
「どっちにしろお前達は俺を始末出来ない。
それよりも貴重なサンプルだろ?
浦泉奈冨安に変態出来る謎の存在。
怪異なんだからな。」
そういって俺は側の物質を貫通させた。
伝承にある幽霊のように。
「ちっ。つまり偽物が現れたのか。
折角一人の時間を狙ったのに。」
「それは残念だ。
しかし、そこまで憎んでいるとなると俺も困るからな。
姿形は簡単に変えられる。
だがこんな面白いエピソードがある身体ならこの世も楽しそうだ。」
そこで九弾は質問をしてきた。
「何者だ?お前は。」
「浦泉奈冨安ではない事だけは確かだ。
そして、俺はお前達の敵でも無い。」
これで警戒は解けたかもしれない。
何れ、お互い利用しあう可能性が高いからな。
そうして俺は反射している場所へ逃げた。
二人はそこで俺を怪異だと認識したらしい。
◎日記
離反者発見。
合体元の人間も特定。
こちらの存在は二名からはバレなかった。
ドッペルワンと名付けたこの世ならざる存在が姿を現した。
欠けら現象によるクリーチャーの見えるかによって新種族の勢いよりも霊現象が実体化し始めた。
ドッペルワンは、かつて我々新種族と接触をした避けられぬ懐疑というチームのメンバーに化けている。
ある程度はパーツを変えられるらしいが…。
そして、出てきた場所にいた人間のデータを命ごと奪っていった。
ドッペルワンのように、他の怪現象が我々に牙を向けぬよう私がこの報告をする。
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