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怪談・THE私28

※階段で手を振られた事はありませんか?
可愛い動物は微動だにせず立っているだけで恐ろしく感じ、猛獣になれば先入観も相まって出会った時の恐怖があとからやってくる。

油断。
それだけが一番人間の怖いところ。


団地外


  僕は決して憧れない建物が二つある。
タワーマンションと団地だ。

  理由は分からない。
本当に分からないんだ。
でも、今なら説明できる気がする。

茂樹しげきもタワマン暮らしかあ。
羨ましい。」

  もうブームは過ぎたのになんらかの形で不況の現代で稼いだ友、茂樹。

「本当に住みたい時期は過ぎたけれど。
一軒家が買えない時代にタワーマンションに住めるのは安心するよ。」

  オタク趣味をやめて、新たなオタクになるために都市部のタワーマンションに住む。
僕は大学に行けなかったから都市に引っ越して精々、工業系の社員。
やっと引越しが終わって一人暮らしの僕と関係が続いているだけありがたいよ。

「茂樹は金持ち感出さないのすごいね。だからスーパーでビールかなんか買ってくるよ。」

  茂樹は少しだけ仕事があると言っていたので気を遣って外へ出ることにした。
本当はここまで高級な場が肌に合わないから出て行きたかっただけなのだが。

  セキュリティがしっかりしているので茂樹に連絡しないといけないけどとりあえず僕は外出した。

 タワーマンションの廊下に出ると、煌びやかな外装とは裏腹に怪我をしていてやや古い格好の女の子がこちらを見ていた。

  迷子?そう思って管理者の元まで案内しようと女の子へ近づくとその子は後ろを指差す。

「何かいるの?」

  後ろを確認したがここに人は居ない。
そこで女の子の側にあったエレベーターが上がってきた。
空いた扉には誰もいなかった。
しかし、鏡には自分の後ろに大きな女性が立っていた。

  え?こんなスタンダードな恐怖体験ある?
瞬時にまた後ろを振り向くと誰もおらず、女の子は指を引っ込めてスケッチを広げた。

「だ…ん…ち?」

  今は女の子を団地?だろうか?
そこへ連れて行かないと。
僕は女の子をおぶってタワーマンションから出ていった。

✳︎

  団地なんて田舎のイメージだけど、昭和から建てられている歴史ある建物ではある。
それに日本のイメージないし。

  女の子はバリバリの日本人だった。
そこは別にいい。
途中女の子をおぶっているから家族や不審者に間違われた。
それを利用し女の子の団地がどこか聞くと一瞬沈黙しながら恐る恐る場所を教わった。

  変な反応だと思ったけれど教えてもらえるとは思えなかったので良しとし、その住所まで歩いていく。
距離は遠くなくてよかった。

  しばらく歩き、例の住所に着くとそこは大きな病院になっていた。

  あれ?
団地じゃない?

  引き返そうとするとこちらを見ていた看護師が固まっていた。
他の看護師も見なかったふりをしている。
ここは仕方ないと看護師へ質問しにいく。

「お仕事中すいません。ここ、◯◯団地があった場所でしたよね?
この女の子が迷っちゃったみたいで。
ここが住んでいる場所らしいんですけど。」

  すると看護師は僕の腕を引っ張り、奥の部屋へ案内し女の子から離す。

「またこの区域を知らない人が女の子へ誘われたみたい。」

「今度は団地?」

  ひそひそ声が露骨に聞こえる。
わざとだ。

  すると老年の医師が待合室に僕を呼び、ここに連れてきた看護師がお茶を出してくれた。

「今度は君かい。」

  なれているようだ。
それよりもあの女の子が心配だ。
そう思っていたら監視カメラの映像を看護師が見せてくれた。

  そこにはスケッチだけが置かれていて、患者も職員も「またか。」
といつものように反応した。

「え?確かに女の子がいたのに!途中の道でも現地人からからかわれたのに。」

  あの女の子は幽霊ではないはずだ!

  すると老年の医師が優しく話しかけてくれた。

「タワーマンションに君のような邪心のない青年が現れると、あの子はここまで連れてくるんだよ。」

  もしかしたら…それ以上は問い詰めず、医師の話を聞いた。

  この病院が立つ前は団地ではなく墓だったそうだ。
そこには女の子の父親の墓があり、よく母と共にやってきていたらしい。
ただ、女手一つで生活するには厳しい現実で二人とも手を繋いで餓死で団地の中で発見された。
その団地も取り壊され、何度も建物が出来たが最終的にタワーマンションへと変貌した。

  それから女の子は父親の面影を残す人がタワーマンションにやってきたらこの病院まで案内するそうだ。

「もうじき、あの人がやってくる頃だが今回はいないか。
君が歴代で一番、父親に似ていたのかもしれない。」

  要は成仏した…というわけか。
あの人って誰だろう?
タワーマンションに居たあの女の人?
それとも親族か友達?
いや、そんなはずはない。
だったら餓死なんてしていない。

  医師たちは思っていたより快く対応し、僕はスーパーへいって商品を買った。

  茂樹のタワーマンションまでやってくるともう女の子の気配はしない。
よかったな。
謎は残るが考えてはいけない。

  さっきタワーマンションの向かいの家から誰に手を振られた。

あの女の人だ!

  無視をすると通り過ぎたコンビニの雑誌置き場から手を振られ、

  今度は駅の階段付近で手を振られ、

  スーパーで後ろに並ばれた。
この女の人には自分以外気付いていない!

  今度は向かいの家。

  急いでタワーマンションへ向かうと目の前にさっきの女の子がまた指をさす。

  後ろに冷たい気配がする。

「カネモチ…キドリ…ジャ、ナイ!」

  タワーマンションの地上付近の部屋にある窓から二人が手を振る。

  役目は終えた。
早く茂樹の所へ帰ろう。
エレベーターに乗り、セキュリティを解いてもらって中へ入る。

「遅かったね。」

「思ったよりこの区は品揃えがよかったから迷ってさ。」

「この世ならざる親子に振り回されていた…ここのタワーマンションでたまに聞く話なんだけど、玉男は温厚な人だから誘われたか。」

  まさか友人がそんな目にあうなんてと苦笑いだった。

  そうだよね。
まさか、自分が誘われるとは。

  茂樹はお祓いの段取りと泊まりの手配までしてくれた。

「次の買い物は一緒に行くか。
セキュリティに関して面倒くさいし。」

  茂樹なりの気遣いだったが、自分達は怖がっていた。

  それでも女の子から恨みは感じなかった。

  あの親子は今も仲違いをしている。

  朗らかな父親を探す女の子と、裕福な男性を探す母親との考え方の違い。

  僕は少し涙がこぼれた。

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