鱗曇に引き寄せられ―ダブっても恥じゃない―
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あらすじ
多古田英作はニ〇ニニ年で二十歳。
大学付属で独特の雰囲気のある高校までなんとか進学をした。
そこで二つ歳下のAOC部員、園崎勇人が話しかけてくれた。
詳細不明の留年生も樹ラムがいることをしり、仲良くなれないか考えてながらAOC部へ行くと「キンキロ」と呼ばれる生物が襲いかかってきた。
樹ラムが対処していると別の空間へ誘われる。
果たして彼らは帰れるのか!
{英作エレジー}
ダブっちまった。
英作は二〇二二年で二十歳を迎える。
周りは皆、新しい人生を謳歌し始め遅れをとったと感じる英作は悶々と春を噛み締める。
留年は二回目。
二回目の高校三年生。
英作は何か問題を起こした訳では無い。
「コホッ!」
クラスには見せないように手を隠す。
また血が出てしまった。
持病がある為に英作の同い年の友達は気を遣ってくれていた。
厳密には遠慮のある付き合い。
だから英作は少しずつ友人達に負担をかけないように距離を取ってしまった。
嫌われてはいない。
しかし罪悪感を大事な友達に植え付けるくらいなら留年して、下の学年に何も知らされない方がいい。
〇四年生まれの後輩達も今や高校三年生。
その代の有名人もとっくに声変わりして身体も精神も成長し、それぞれ進路を決めている。
英作は持病があっても誰も憎んだ事は無い。
しかしこれから先どうなるのか分からない恐怖が脳内を支配する。
馴染む必要のない新たなクラスで、英作は一人悩んでいると、
「はじめまして。」
名前の知らない誰かが英作に挨拶をしてきた。
「こちらこそはじめまして。まあ、俺はダブってるから知っている人いないけど。」
「そうなんだ。先輩…なのかもしれないけどタメ口ではダメですか?」
英作がどっちでもいいと言うと彼、園崎勇人が敬語とタメ口を混ぜた自己紹介をした。
園崎は高校生になってから友達という友達がいなかったらしい。
というのも園崎はこの高校にしかない部活と格闘技に打ち込んでいたため忙しいらしいのだ。
だから英作に話しかけられたのかもしれない。
「俺の自己紹介がまだだったな。多古田英作。久しぶりの友人付き合いだから、至らないこともあるかもしれないけどよろしくな。」
「なんか堅いですね。別に俺は大丈夫!」
なんてことの無い会話。
けれど持病で会話させ辛くしてしまった仲間達の事を思うとこれまでの反省を込めて、園崎との関係を大切にしようと思った。
━━帰り道
園崎とは年相応な会話で話が弾んでいた。
英作ももうすぐ二十歳。
しかし二十歳とはどういう生き方が適切なのだろうか?
園崎と話しているとそんな悩みの世界に行かなくてもいい。
すると園崎がある噂を話し始めた。
「多古田くんに話すのも変なんだけど、実は他のクラスにもう一人留年した人がいるんだ。」
「それは知らなかった。けど、俺の一個下だろう?」
「年齢は分からない…いや、詳細が不明なんだ。留年した理由は兎も角、その人がどんな性別なのかとかすらね。」
SFか?性別はいくらでも偽れるとして年齢も不明。
一瞬、英作は自分と同じ留年生なら話せると思っていたが怖さを感じる。
「その人、ウチの部活の先輩…なんだけど俺が一年生の時から居たから…そう言えば何年生なんだろう?」
今でこそ英作は持病が安定し始めたが、高校を入学してから病院の入退院を繰り返しいてロクにこの高校の生徒を把握していない。
園崎の部活…AOC部はまだ日本所か海外でも着目されていない独特の部活。
部活の事を聞いたら、園崎から専門用語で話されたので取り敢えず判明した事は
「認知されていない世界を引き寄せる科学。」
の研究だ。
大学で行うようなテーマだがこの高校は大学付属。
持病のある英作は確実に留年は避けられないから、
小学校、中学校である持病と相談しながら成績を上げて入学した。
通信制でも良かったがもし、そこで甘えたら二留では済まなかったかもしれない。
二留する程体調が悪化するとも思わなかったが。
ただの大学附属高校ではないそんな場所だからか挑戦と愚行の多い部活動…というか得体の知れない活動が多い。
それなら園崎の言う人間は英作より歳上の可能性もある。
「多古田君も俺の部活覗かない?」
「おいおい。高校三年生にもなってまだまだウキウキなんて羨ましいな。」
「いいじゃん。俺は俺なんだし!」
謎の説得力に引っ張られてAOC部へと勧誘された。
Ally Of Culture.
アーリーオブカルチャー。
略してAOC部。
未だ見えぬ世界を探すというフワッとした動機でよく発展させてきたなと英作は思う。
部室には英作達以外誰もいない。
春先で活動は盛んではないのだろうか?
詳細不明の生徒とご対面してみたい。
園崎とは二学年も離れているし、どうしても同い年以上の感覚では話せなかった。
園崎はそんな壁も多古田英作と見ているからかやけに話しかけてくれる。
有難いが…
ブォン。
謎の音が部室を揺らす。
ヒタヒタヒタ…
部屋の電気が消えて、変わった装置の青い光だけが照らされる。
なんだ?
学校の怪談でもはじまるのか?
「園崎、逃げるぞ!」
そう行って真っ先にドアに手をかけると閉まっていた。
セキュリティキーを正確に押しても開かない。
ヒタヒタヒタ…
影が英作達を襲った。
数分後、腕でガードしていた園崎と英作は何事もなかった部室に驚く。
そこには傷だらけの制服に身を包んだ男子生徒がいた。
「悪いな。部員がいたとは知らなかった。」
見た目の年齢は確かに高校三年生とは思えなかった。
性別は男…なのか?この高校では制服に男女指定はないから第一印象で判断するしかないのだが。
「あ、あなたか。居たんですね。」
なるほど。園崎の反応で察した。
この人が詳細不明の留年生。
[噂の留年生]
先程起こった怪現象は何だったのかを後から誰かへ報告されないように釘を刺されて説明された。
「最近妙な世界が現れてな。私は迎撃を止めていた。」
園崎は顔で「AOC部では想定外の事だらけです。」と英作に伝えていた。
「所で、あんた年齢は?俺も二回留年してるから事情を汲むためにも知りたくて。」
詳細不明と言われたその人は自己紹介を始めた。
「樹ラム。確かに私は留年しているがご覧の通り危ない橋を渡っていてね。この学校から目をつけられている。」
こりゃあお近づきになるのは難しそうだ。
英作は少し残念な気持ちになった。
すると園崎が好奇心を駆り立てる。
「樹さんっていうのか。なんで部員にも話してくれなかったんですか?」
「個人情報保護。
こんな実験に誰かを巻き込ませる訳にはいかなかったが…今日はうっかりしていた。」
喋り方もよく分からない人。
何か危ない事に巻き込まれないように逃げようと園崎に視線を合わせる。
すると装置が動き出した。
あらら。
逃げ場がないことを悟る英作は隠れて喘息をし、この現実を受け入れた。
[力儀の世界]
『いくら国内で有数の場だからと言ったって、学費はどうする?』
『あまり大きな声を出さないで。英作に聞かれたら気を遣わせるでしょう?』
『何だか兄貴を見ても幸せそうじゃないんだよな。頭良くて、才能があったって持病があったら意味ないじゃん。』
『なんてことを言うんだ!だが…俺達は英作に苦労を掛けさせたくない。勿論、幸宏達にもだ。』
『姉ちゃんも自分の人生歩みたかったって言ってたよ。いくら可愛い弟でも限度があるってさ。』
「…だから…俺は…!」
英作達は謎の場所で目が覚めた。
ホラー映画のようにヒタヒタと近付く生き物に樹が何らかの装置を光らせて撃退させていたらいつの間にか気絶していた。
「多古田くんやっと目が覚めたんだね。」
「園崎…ここは何処だ?どう見ても部室じゃない。」
こういう時に転送した人間がいなかったら…要は解決策がある人間がいなかった場合どうやって元の場所に帰ればよいかを考えていた。
「まさか君が一番遅く目が覚めるなんてね。」
樹ラム。
初めて会ってこのトラブルを生み出した人間がいて安心した。
これで帰れる。
「空間旅行の実験中とはいえ、よく分からない場所に来てしまったな。」
さっきいた生物はいない。
しかしここは自分達の知っている世界なのか?
「樹先輩?でいいのでしょうか?取り敢えず元の世界に帰してください。」
「園崎君はシビアだね。巻き込まないと言って結局君たちを連れてきてしまったのは悪いけれど、気にはならないか?この世界が。」
好奇心を失ってしまった人間は人間ではないと 何かのドラマで見たことがある。
ただ一つ英作が言えるのはこの人は好奇心があり過ぎる。
多分、帰れる術はあるのかもしれないがどうにも調べたいことがあるらしい。
ヒタヒタヒタッ
またか。
せっかく調子も戻って二度目の高校三年生を謳歌しようとしたら謎の世界で目覚めの悪い夢を見た。
そう。
いくら抗おうともどうにも出来ないハンデは誰しもが背負う。
ヒタヒタヒタッ
謎の世界に謎の生き物。
無事に帰れる気はしない。
「ガアッ、パァ!」
足音の正体。
黒色に包まれた人間のイメージに近い幽霊。
普通なら恐怖を覚えるが英作はただただ納得していた。
死ぬしかない!
覚悟を決めていた。
「全く。
力が無いか弱い獲物と思われるのは恥ずかしいね。」
樹ラムは華麗に幽霊を捌いていた。
「あれ?先輩強いんですか?」
「実験を何度も繰り返しているうちに留年してしまってね。単位を失った代償に強くなったのさ!」
ギャァァァグババ!
英作はさりげなく留年した自分を馬鹿にされたような気がしたが命さえ無事なら頼もしい人が味方で良かったと安堵する。
「園崎君。他の部員から君の事も聞いていたが、強いらしいね?」
白々しく幽霊をなぎ倒す樹ラムに背中を押されたのか共に迎撃をする。
「全く…自分の詳細は隠すくせに人の事は知りたがるんですね。」
倒せる相手と分かった途端に園崎は巴投げで現れる幽霊を倒す。
結局、五体満足で精神も良好な人間が求められるのか。
それならいっそ、弱い自分は殺してくれても。
そんな負の感情が英作に芽生えてしまった。
しかし今は二人に助けられている。
自分にも何か手伝えないか考えていると何か人影が飛んできた。
人間?自分達以外に?
言語が通じるか悩んでいると流暢な日本語で相手は話しかけてきた。
「三人…か。」
見た目は大人しそうな青年。
英作はその青年が自分と同年代だと思った。
「アリャ、ニンゲンダケドユダンデキナイネ。キンキロタチガテモアシモデテナイ。」
青年に纏う黒い単眼の影が話している。
流石に二人は青年が只者出ない事を見抜いた。
「契約者ではない者がキンキロを倒せる…か。飛んで正解かな。」
樹ラムは英作と園崎に告げる。
「今の話で確信が持てた。ここは、力儀の世界だ。」
リ、リキヨリ?
英作は困惑していた。
厳密には樹ラムがこの世界に一度は足を踏み入れたような口振りに驚いている。
「本当に単位を犠牲にしていたんですね。先輩って、俺より十年上とかあります?」
「留年ってのは六年間しか受け付けていない。私達の学校ですらな。って何歳に見えた?」
咳払いをした後に樹ラムは答える。
「言える範囲で伝えよう。私は〇三年生まれだ!」
こんなやり取りを間近でじっくり聞いている青年。
そして英作は樹ラムが『多分』一つ下で安心した。
流石にここでサバを読むわけないか。
園崎は結局先輩じゃねえか!とツッコミをいれていたが影の青年と向き合っている今は大ピンチだ。
「ヒトリハシンコクナヤマイガアルヨ?アノニンゲンハシンニュウシャトイウヨリマキコマレタダケダネ。ドウスル?」
「この場に許可なく現れた以上は戦いも辞さない。」
英作は臨戦態勢の青年に問いかけてみた。
「俺達は何も企んじゃいない!キンキロ?だったか、そいつらが襲いかかってきたんだ。」
影が青年に耳打ちしている。
青年は暗殺者のような形相を崩さない。
すると樹ラムが青年に話しかけた。
「ここが何回目に来たかは部室に帰らないと記録は無いが、私達の世界にキンキロが興味を示したのは初めてだ。もしかして君の差し金?こんなピンポイントな場所にやってきて余裕なのは調べていたからかな?」
そう言われればそうか。
英作は樹ラムの探究心が青年に何か敵対心を与えているような気がしていた。
「侵入者をおいそれと許す訳にはいかないからな。それと俺は、」
両腕を構えてオーラを纏う青年。
「今年二十だ。」
やはり英作の勘は正しかった。
だからこそ危ないと手に汗握った。
[空間旅行のツケ]
話せば分かる相手でも、時には拳や剣を交えざるを得ない事がある。
不幸中の幸いと呼べる状況なのか、英作以外は園崎勇人も樹ラムも戦える。
しかし確実にあの青年には叶わない。
実態の分からない謎の影が青年に力を貸している。
「悪いが早く終わらせる。俺は戦いが嫌いだ。」
樹ラムが嘲笑う。
「歳下相手かつ『交ラズノホンイ』と契約している人間は言う事が違うな。」
「樹先輩なに張り合ってるんですか?」
「あの人に何があったかは分からないけれど、少なくともこんな遅くに私達の対処をおいそれとするなんて油断されてるってことだ。」
英作は血気盛んな樹ラムを止めさせないといけない。
今年十九になる人間かつこの高校の生徒とは思えない一面。
思えば英作は何も知らない。
自分達の世界のことでさえ。
「今すぐに帰るのなら手荒なことはしない。いいな?」
青年はいつの間にか英作の肩を触っていた。
「男に触れる趣味は無いけどこれも仕事だからね。」
英作は予想通りの動きをする青年に、園崎達の足でまといにならぬようにスタンガンを当てる。
「物騒だな。」
「俺は持病があってな。いつ倒れて貴重品狙われるか分からないから自腹で買ったんだ!」
「ありふれた電化製品で俺を倒せると?」
「倒すつもりもないが倒される程ヤワじゃない!」
英作はそっと距離をとり、二人に命令を下す。
「影に触れるな!一瞬で溶ける。樹ラムなら分かるよな?」
樹ラムは園崎と共に青年から離れる。
少しだけスタンガンが融解し始めているのに気付いたようだ。
「リスクマネジメントガウマイニンゲンダネ。ドウヤラウゴケルニンゲンモココロエガアルダケデキョウイデハナイヨウダヨ。」
青年はオーラを抑えて警戒を解く。
同年代特有の自衛心。
だからこそ素直な弱さを示せば攻撃はしない。
一度グレた友達から聞いた話だったがこんな所で役に立つなんて。
「俺が警戒していただけか。それなら悪い。」
いくら時代が時代とは言え、そりゃあ力を持つ歳下からあんな舐めた態度取られたら力で返すよなあと栄作自身が思っていたので青年が大人で助かった。
「樹ラムだったか。
君がこの世界に来たのは三度目だ。
他の空間には何度行ったか知らないが、ここじゃあ警戒している者は他にもいる。」
樹ラムはあちゃーとでも言いたげだった。
すると園崎は他にも訊ねた。
「話を戻しますね。貴方はここから元の世界に俺達を返せますか?」
樹ラムが帰る方法を試しているのに帰れないというのはおかしい。
英作達はただ元の日常に帰りたいだけなのだ。
「イママデカエレタカラユダンシタネ。ドウヤラキンキロノオヤダマヲオコラセタミタイダ。」
「そうか。」
それもこれも樹ラムが調子に乗ったからなのだろう。
英作は園崎が樹ラムと自分を同じ留年生と偏見を持たないことを祈った。
樹ラムはこの世界の文献をスマートフォンで調べていた。
どうやらこの世界はほぼ自分達と同じ時代設計らしい。
異種族と共存し、力ある同年代が仕切る世界。
そうか。
本来なら二十歳だしそれくらい成長していてもおかしくないのか。
英作はいくらこのまま大学生になれるとはいえ時の流れを憂いた。
金や才能に執着するしかない現実に戻るくらいなら。
すると青年がさっきとは違う意味で英作の肩を触れた。
「表情が曇ってるね。俺で良ければ力になるよ。」
そして青年は自己紹介をした。
「ユキオ。
そして一緒にいるのはトンネルの影だ。
樹ラムは交ラズノホンイと呼んでいたがな。
よろしく。」
あの影は何も言わなかったがどうやら英作の考えている事はお見通しのようだ。
園崎勇人といい、ユキオといい、英作は相手を心配させて引き寄せてしまう力があるのかもと内心は思っていた。
[阻む者]
力儀の世界は信仰する必要の無い儀式が流行している。
昔で言えば地蔵へのお供え。
何かに助けられた時に対する礼。
近年なら親しみやすいライバーへのスーパーチャット。
何か貢献したという思いから生まれる呼気がキンキロを産み出す。
''キンキロ''は全ての生物の呼気から生まれ、幸福の絶頂にいる生物の呼気ならば都合の良い方向へ導く。
逆なら縁起の悪い方向へ導く。
普段は何かへ攻撃する事は一切ない。
何故なら、生きとし生けるもののさり気ない儀式がキンキロを生かす餌だからだ。
要するに生気が現動力。
偶に多くの生気を集めて己を高めようとするキンキロがおり、周りのキンキロを吸い込む魂が一箇所に集まる。
そうして強くなったキンキロは''影''になる。
影は強い生物を厳選し、縁を引き寄せ契約する。
影によって強さの選定は異なっており、食物連鎖の頂点とされている生物以外は大事な生気を渡してくれる存在であるため契約候補からは外している。
「それで俺が契約したというわけ。」
すっかり一同はユキオの話に聞き入ってしまった。
樹ラムはそこまでは調査済みというしたり顔でマウントを取る。
園崎は顎に手を当てて推理している。
「つまりユキオ…なんて呼べばいいんだ?」
「好きな呼び方でいい。」
「リュウネンニカイッテナカナカタイヘンダネ。
マアジンセイハオモウトオリニイカナイノガツネダシ。」
英作達も念の為説明していた。
もし攻撃対象と誤解があったらとんでもない。
「ここだから言うけど…園崎にも聞いてもらおうかな。」
推理していた園崎も具体的な英作の話を聞くのは初めてだった。
「俺は生まれた時から肺に重病があってさ。
小学二年生の頃までは手術もまともに受けれずに中々学校にも行けなくて。
ランナーになるのが夢だったけど傍から見てるだけでさ。
高学年になってから医者にも恵まれて勉強や運動にも精が出せるようになってただ上げられる偏差値は上げてきた。
辛かったけど入退院を繰り返してもちゃんと学べて、病弱とか虐められる事も無く色んな道を選べる。
繋がりはあるけど友達は別々の道にいったし、俺も頑張らないとって思ったら…」
「俺達の世界に飛ばされたのか。」
園崎が涙を流している中、ユキオがツッコんだ。
「ソンナリユウガアッタノネ。アソンデリュウネントカデモバカニハシナイツモリダッタケド。」
「皮肉はやめろ。」
「ハイヨ。」
樹ラムも何故、園崎が英作と友達になろうとしたのか察したようだ。
留年しているのは樹ラムも一緒だ。
「実験に没頭して留年した私と不可抗力によって留年した多古田君。これも、キンキロの力なのかな?」
いくら何でも自分達の世界とユキオの世界は理が違う。
不思議な縁があるのはどの世界でも共通なのかもしれない。
「話してくれてありがとう多古田くん。
こんな空気の中、話しにくいけどごめん。
取り敢えず気を取り直して整理するね。
俺達をこの世界に呼んで、ユキオさんに殺させようとした契約者が樹先輩の実験を利用している。
俺達の世界にやってきたキンキロはそのための雑兵。」
「伊達に空間実験の部活に所属している訳じゃないのか。」
英作はこのままだと自分達がまた何かやらかす学校だと思われそうだ。
ユキオは何を考えているか分からないタイプ。
だが、英作は変に同情するタイプでは無いことにほっとしていた。
「ケド、スタンガンモッテルノハオドロキダネ。」
「今回はたまたま。学校通う時に昔、俺を虐めてきた連中に絡まれて以来手放せなくて。」
いつの間にか打ち解けている影だがさり気なく触れられたくない質問をする当たり、人間に対する危機管理能力は大したものだ。
しかし、この縁を呼んだ契約者は誰なのだろうか。
英作はユキオに質問をした。
「ユキオは組織で動いているのか?それとも単独か?」
「俺と影は二人で一人。ただ、契約者同士が表に出ないだけで組んではいる。
契約者は仲間じゃない。」
「ユキオモタコダトカワラナイカモナ。
ケイヤクシテカライッサイノコウユウハタチキッテイル。」
英作達はユキオの孤独については分からない。
初めて会ったというのもあるが少し道が違えば始末されていたのは事実。
けれど悪い人間じゃない。
英作はユキオを信じる事にした。
多くは語らない貴重な同い年へ英作は自分自身の境遇と気持ちを重ねる。
「しかし、私の研究からこっちの世界へ攻撃する奴がいるとは。誰とも会ったつもりも無かったけど知らず知らずの内に恨みを買ってたのかもね。」
飄々としているが今年十九の留年生。
それに樹ラムも園崎にも詳細を隠して生きてきている。
そんな園崎が口を開く。
「来年卒業する俺の身にもなってくださいよ先輩達。
そしてここまでの道中を振り返って思いましたが、ユキオさんに仲間じゃなくてキンキロを差し向けた契約者って人間以外なら納得出来る。
ただその割にはこうして話している最中も様子を伺っているのが怖いなと思って。」
英作も気になっていた。
だが何らかの動きがあればユキオが察して既にことに及んでいる筈。
百歩譲って影はありえないとしても、ユキオが警戒しないなんて変だ。
もしかしてユキオは嘘をついている?
ガアアアアッ!
またあの声。
しかも声だけが聞こえている。
やはりユキオは誰かと組んでいる?
ガアアアアッ!
恐怖を煽る音が響いていく。
しかしユキオは眉ひとつ動かさない。
この怖さもユキオの才能だ。
園崎がユキオを警戒する。
「誰かと組んでいるとしてもしてないとしても、ユキオさんが俺達を最終的にどうするのか委ねられちゃっているのがなあ。」
沈黙を貫くユキオ。
すると樹ラムが「そこだ!」とナイフを突き立てる。
ユキオが少しだけ驚いたように英作は見えた。
「私も言ったよね?留年していた理由は実験による訓練。大体この世界と今の状況の仕組みは分かった。」
ナイフに突き立てられた影が心霊番組のような黒い掌を動かして痛さを伝えてくる。
「あ〜あ。ユキオちゃんがいつこいつらを狙うのか楽しみに待っていたのになあ。」
緩い口調の人間が影から姿を現す。
「意外と情に弱いのか?こんな場だからと言って隙を見せるなんてらしくないな。」
ユキオとは対照的な軟派な青年。
同年代ではない。
同世代の年上だ。
「孤独だと誤解されるよなあ。
好きに生きりゃいいのに。」
意図的に煽っている。
軟派だから思惑が読み取りづらい。
ユキオは真っ先に相手に向かっていく。
軟派な青年は黒い鎌状の腕でユキオの攻撃を簡単に受け止める。
「やっぱお前みたいなタイプを煽るの楽しいな。ここでお前に勝てば残りの連中からもう一つの世界について聞けるしなあ!」
軟派な青年はキンキロを周囲に召喚して樹ラム、園崎に差し向ける。
ユキオは交戦した。
樹ラムも園崎も出来ることでキンキロと戦い始めた。
このままだと元の世界に帰っても殺されてしまう。
何も出来ない自分が情けなくなった英作は震えるしか無かった。
「ユキオちゃんには俺の名前を教えておこうか。俺はオウテ。
よく自己紹介の時に稚拙とか文句言われるけどそれが標的の最期の言葉になるんだよね。
ユキオちゃん。今どう思った?」
オウテという契約者は英作にわざと聞こえるように言った。
英作は足でまといの自分を恥じた。
本当のピンチ。
だが不思議とドン底では無かった。
キンキロというこの世界の生物の特性を上手く活用出来れば…
「オウテ!あんたの相手なら引き受ける。」
「ナニイッテンダ!ダマッテタタカイカラニゲロ!」
影の荒い口調も怖くはない。
当然の反応だ。
オウテは舌を出しながらこちらを睨む。
「なんなんだお前は?俺を楽しませる事が出来る何かがあるのか?」
英作は自信満々に笑ってみせた。
一同は余りの狂気に固まってしまった。
「こんな状況人生で中々経験出来ないからな。二回ダブって一念発起したら幸先悪いし。逆に最高って訳だ!」
キンキロ達の動きがこちらへ向かう。
そうだ、こい!
しかしオウテが信じられないスピードで近づいた。
「お前と俺は歳近いな。
本来ならどうでもいい情報だが精神的にお互いガキなのは分かるだろ?」
こんな所で怯む訳にはいかない。
「ヒリヒリするんだ。
病院通いでろくな青春送れなかった俺みたいな奴にはな!」
「なら、もっと面白くしてやろう…な、何?」
キンキロ達がオウテを羽交い締めにする。
「何?てめえらどういうつもりだ!」
今度はユキオが英作に近づく。
「良い演技だ。」
キンキロは生気によって移り変わる。
例え作られた狂気による幸福でもキンキロ達にとっては最高の餌。
そして二回目にユキオに肩を触られた時に渡された物があった。
『別の影が俺に取り付いている。いざとなったらキンキロを利用しろ。』
とメモも渡されていた。
オウテは悔しく唸る。
「いくらキンキロでも簡単にこんな生気で満足する訳がねえ!ユキオ〜〜てめえが何か策を!」
ユキオは樹ラムの隣に移動すると同時に英作も避難させた。
「あんたが気に入らないだけだ。
同じ契約者として。」
樹ラムのスマートフォンに不思議な光が宿る。
樹ラムは目を輝かせている。
まだまだ十八歳。
「何だ!力が漲ってくるぞ!」
そして英作も力が増していく。
「孤独なのは俺だけだと思い込んでいた。
そう思い込むことで自分自身に蓋を閉じて強くなったと思いこんでいた。
けど多古田。
お前がこの世界に来てからも懸命に生きる術を探している姿…そして、久しぶりに同世代達と話せた礼だ!」
力強くなったユキオの言葉に皆、気を引き締めていた。
「クソッ!まとわりつくな雑魚ども!」
オウテは英作の生気に酔っているキンキロを打ち払う。
「青春カンドー物か。いいよなあああいう雰囲気。
だが続きはあの世でやってこい!」
オウテが首を狩るが如く飛び込んでくる。
「システム・・・リキヨリ」
樹ラムがスマートフォンを操作し、オーラを纏う。
園崎がそんな技術まで身につけていたなんても驚いた。
「俺が渡した。」
その力は英作にも宿っている。
樹ラムとユキオは交互にオウテへ攻撃する。
二人と一つの影の動きは、興奮するオウテの攻撃を通さない。
だが次の狙いは園崎となった。
「オレェェ?」
変な声で叫ぶ園崎を英作は庇った。
すると肩に渡された石によって大きな光がオウテを包む。
「な、この力は!?ユキオ…てめ…」
オウテは光の中へ封印されていった。
こうして英作達の激動の春は幕を閉じる。
エピローグへと続く
[出遅れてなんかない!]
オウテとの戦いの後にゲートが開いた。
ゲートと呼んだ方がいいのかは分からないがその方が説明はし易い。
本来ならとっくに開いていたゲート。
キンキロ達の侵入に驚いた樹ラムが念を入れて ゲートのセキュリティを強固にしてしまった為に ユキオの世界に閉じ込められたと言っていたが、 オウテのいない今となっては永遠の謎だ。
ユキオは俺達を迎えてくれた。
「多古田…いや英作。
出会えて良かったよ。」
「女の子好きなんじゃないの?」
「変な意味じゃない。だけど、久しぶりに学生時代に戻れた気がする。」
あの戦いの後にこんなやり取りが出来るのもユキオの強さなんだろう。
カッコイイな。
そう思っていたらユキオがゲートに入る俺達へ激励を送った。
「誰にでも出来る事はある。英作!ラム!園崎!卒業応援してる!」
「って俺は苗字呼ぶですか!?ユキオさ〜〜ん!」
園崎の慟哭が響く。
すると夕暮れの部室へと戻った。
夢ではない。
証拠に樹ラムのスマートフォンには力儀の世界のアプリ。
そして俺にはメモと石が残されていた。
━━3日後━━━
俺はAOC部の部員になった。
卒業するまでに他の部活は入ることが出来なかったからここが人生初の部活。
他の部員はまだ来ない。
忘れていたけど個人情報保護を徹底したいたんだったな。
ラム君は相変わらず実験に夢中だったが今年こそ単位を取って大学生になる事を目指している。
勉強で遅れた部分は勇人が教えてくれた。
「全く先輩達は事情に逃げすぎ!運動も勉強も俺が教えますから一緒に卒業だ!」
〇二年生まれ、〇三年生まれ、〇四年生まれ。
一つの学年にこれだけの濃いメンツが揃う部活や 学校もそうそうない。
ちゃんと勉強しておいてよかった。
別に出来なかった者を貶したいとかじゃない。
寧ろみんな出来ることで…身体一つで生きている事を忘れていた。
ユキオ。
別の世界で戦うユキオを俺達は遠くで応援している。
「じゃ、行きますか!」
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