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トレイラーseason1/飛行生物の遊戯

※この物語はフィクションです。

 皆さんは、PERIARUペリアルという生命体をご存知でしょうか?
宇宙人、UMA、怪獣…様々な生命体はこの地球を苗床に、人を恐れて生きている。
停滞し続ける「人」という生命体が弱まる時を狙い作戦は遂行されるのだ。

(スカイフィッシュ)

  思ったよりもちょこまか動く者だ。
「離せ」と抵抗するがそれは無理な話。
『人間のいいとこ取りをしろ』だなんて無茶な命令だよなあ。
この地球で目撃されて三十年程経つが、文明というのは何度も滅びを繰り返して犠牲を生み出した。
生き残った人間もその他の生物も、我々の実験に貢献してもらう形で存在してもらう。

やっとこさ解剖する人間が見つかり、少し眠らせておいた。
上手くいくか分からなかったが、人間が実験をする時の真似も手に馴染んだ。
こればかりは飛行能力は関係ないからな。
捕まえた人間の女性から出来るだけサンプルを採取する。
ただの飛行生命体にあれこれ押し付けすぎだ。
おかげで飛ぶ以外の能力も手に入ったが。
後は、このサンプルを他のメンバーに手渡す準備をする必要があるが…なんだ、別の人間が気配がする。
広められても俺たちのことなんざ信じて
もらえまい。
逃げれば捨て置く。
人間が作るフィクションのように安易に目撃者を殺すのはキリがないし、非効率で逆効果だからな。
しかも、この気配は何かカメラや端末で此方を撮っている様子がない。
終わりまで覗くつもりか?
一体何者だ?

流石に気付かないわけがないと思ったのかその気配は消えた。

ヤバイな。
恐れる事がないか。
大方何かの撮影だと思っているのなら助かる。

俺はそう油断していた。
身体に痛みが走るまで。

                           ✳︎

(身辺調査)

 探据 夜奈蛾さがすえ よりなが
彼は揚げ物バイトを続けながらその店の客だった人からスカウトされ、副業として心霊&超常現象番組事務所で働いている。

だが現実で幽霊に出会う事は無い。

よく聞かされていた話だが

『霊魂やオーブを肉眼で見る確率よりも死体を見る確率の方が高い。』

確かに彼にも覚えがあった。

分かりやすく言えば身内の葬儀。
或いは飼っている生き物の死。
そして、事故。

そうだよなあと彼は実感する。
死んだ後に簡単に化けられるなら藁人形の呪いなんて広まってないよなあと。
きっと呪いに成功するより「人を呪わば穴二つ」と報復を受ける確率の方が高い。いや、それは確定か。

スカウト主である豫癒よすが所長は事務所の清掃と投稿されてきた依頼、添付ファイルの確認をしている彼へある実を手渡した。

玉葱と某少年漫画に出てきそうな植物の実の模様をしている。
いやあ、これは食べられない。
そう躊躇ったが食事を抜きにして働いていた彼は所長に確認し、毒がないか聞いた。
所長はその実を食べて証明する。
そういえば水以外この人が何か食べている様子を見た事がない。
精々最初に店へ来た時くらいだ。

彼は勇気を出してその実を食す。
すると食べたかった物の味が口いっぱいに広がる。
それだけでなく栄養も取れるのか疲れていた身体に染み渡る。

食べ終わってから少しだけ事務所の奥を見たが何か蠢いていた。
人のような何かが。

見てはいけないものを見たときは何も無かったフリをする。
飲食店に勤めているのに気が緩んでいた。
食べちゃダメだったかな?

遅効性の毒があった場合でも症状は一日で現れる。
二時間ファイルを見ていても疲れず仕事が出来ていたので毒はないが力はあるようだ。

すると『必須事項』のファイルに依頼があった。
確認してみると、

『廃墟で闘う者、身辺を探れ』

という内容があった。
そこにはまるで指名手配犯のように自分と同世代くらいの若者で男性の顔が写っていた。

匿名で送られたが、その者には詳細なデータがあった。

「これだけ情報があるのに何故此方が身辺調査をしないといけないんだ?」

そうは思いつつも興味深い話が詳細なさに記されてあった。

亜薇 尾彪あばら びゅう

03年3月28日生まれ。

血液型はO型。

CORECHIMERコアキメラ大学中退。

理由は経済的困難と闘いを求めているから。

ここまで調べて捜査を此方に頼むのは何故だろう?

そして所長から連絡があった。
必須事項を確認しているか?という確認にイエスと答えたが最後。
現場へ向かうよとトークが来た。

いよいよ外での仕事か。
しかし彼はワクワクもしていた。
非日常への関わりへ。

そしてあの実を食べたから分かるが、側に実と同じ香りの気配がしたので一刻も早くこの事務所を出たかったのも事実だったので丁度良かった。

                         ✳︎

(止めてみろ)

 あの人間との闘いは今も続いている。
日本にこんな蛮族が如き人間が居るとは!

ー解剖した夜の話だ。

ある程度実験を終え、メンバーに送った後、気配のする方へ向かっていた。
すると殺気があり、振り向く前に背中に激痛が走った。

武器によるダメージじゃない!?

相当鍛えられた力で急所を狙われた。
幸いな事に俺の身体の構造上、致命傷にはならなかったが。

そこには細身だが目付きの鋭い人間が立っていた。
細胞年齢は比較的若い。
恐らく成体を迎えたばかりの青年か。
至近距離を殴られたのにちゃんと距離を取っている。

「やだやだ。怖いなあ人間。
けど、こっちも君の同族を解剖していたからな。
見てたから分かるよね?」

青年は何も言わず、此方の隙を狙っている。
怖くはないが得体は知れない。

「俺を殴ってもどうにもならないよ。
見た感じ誰かを助けたいわけじゃ、なさそうだし。」

不思議なことが起きてるねえ。
こんな細い身体の青年が闘いに飢えてるなんて。
しかも再生したとはいえこちらの身体に傷を付けた。

また攻撃しようと動いて来た。
なら、飛んでみますか!

俺はヒレを使って空を飛ぶ。
流石に掴みかかってはこれまい。

「見下しているわけじゃないが俺は君に構っているわけにはいかないのさ。」

悔しそうに舌打ちをする。
地獄耳だから聞こえてしまう。
しかし中々に強い攻撃だった。
これなら俺の秘密は守られそうだ。

それに。
女性一人に、あの青年と変わらない若さの男性一人がやって来ている。
援軍ではなさそうだな。
今のところ。

映画じゃないので余計な体力は使わない。
撤退は恥じゃないからな。

解剖も運良く進みそうだし、この区域での役割は終えた。
趣味であの青年を研究してみるか。

人間の不思議さの片鱗…
解剖命令もこの不可解さを調査するためか?
まあ、そこまで詮索するのは俺の仕事じゃないか。

せめて青年に良き獲物として認識してもらえれば張り合いが出来るな。

さて、帰るか。

PERIARU・スカイフィッシュ。
次に出会う時があればそう教えておこう。

                         ✳︎

(亜薇 尾彪あばら びゅう)

 たった今、何かが飛び去ったのを目撃した。
カメラで撮れた部分を見ても完全に作り物にしか思えない。
所長と探据は折角のシャッターチャンスを逃した。
しかし、依頼の内容は「人間の身辺調査」だ。

そこに写真通りの対象人物。
亜薇 尾彪が居た。

「せっかくいい相手が居たのに。
邪魔しに来たのか?」

彼の物言いは物騒だ。

探据は不思議と彼にあまり怖さを感じなかった。
ここは慎重に聞いてみよう。

「亜薇尾彪君だね。
君の情報は匿名でこちらの事務所に伝わってる。

彼は黙って聞いている。

「闘いが好きという理由は知ってる。
でも、さっき何かと対峙してたらしいけど、そこは敢えて聞かない。
俺達も誰からも理解されない仕事をしているから。」

所長は何か言いたそうにカメラを構えて足踏みしていた。

彼も探据の質問に何かあると感じたのか話をし始めた。

「きっかけはSNSだ。
俺は不公平な幸せを委ねられるのが苦手だからな。
大学への資金が足りなくて中退して、あても金もなく悩んでいた。
そしたらさっきいた変な生物が誰かを攫っていた。
何も出来ず、ただ黙って見ていたがせめてもの仇を討つためにその生物に一撃をお見舞いしてやったよ。」

フラストレーションが溜まっているという理由か。
しかも更に物騒な内容を聞いた。
けれど、探据は彼から疲労を感じ取った。
強気な姿勢で分かりづらいが、あの怒りは余裕のなさの現れだ。
そして彼は誤解が多いタイプかも知れない。
すると所長もサバイバル経験があると仰っていて見抜いていたのかあの実を彼へ投げた。

疑いもせず彼はその実を受け取り貪り食った。

昔アスキーアートでトンカツを食べる擬音を表現されたものがあったような飯テロを披露した。

「この実凄えな!やっと疲れも何もかもとれた。

「やはり疲れだったんだね。」

「いやあ、理解されない世界を生きているのは他にも居たのか。
こんな事なら、あの生物殴るんじゃなかった。」

今これ以上彼について言及するのはやめておこう。
すると所長が嬉しそうに探据にしたように住所を彼に渡す。

「唐突だけど二人目のスタッフとして、働かない?
食費も要らないし、スケジュールもあなたが空いている時でいい。
あなたからは腕っ節の強さを感じるし、ここまでフラストレーションを溜めつつ生きている姿はサバイバルならでは。」

「あんた、馬鹿にしてるのか?」

「あ、誤解だったらゴメン。
怪現象の事を知っている上に、依頼も達成したから喜んじゃってごめんね。」

サバイバル。
確かにそうかも知れない。
それと回復したから油断していたけど、彼の闘気は見えないのに圧が強い。
何をしてきた人なんだろう?
習って手に入れた筋肉じゃない。

不安だけれど貴重な同世代の同僚が出来て探据は喜んでいた。

これはまだ序章に過ぎないのかも知れない。

エピローグ

 亜薇あばらはやっと定職に就けた。
バイト代は別として身を隠すのにはいい場所を見つけた。
喧嘩ばかりしていた高校生時代を思い出す。
せっかく大学進学も出来たのに金銭的理由で辞めざるを得なかった。
卒業後の働く先に今更意味なんて見出さない。
だがパートナーと過ごすには選択肢が少ない。
最も、そんな奴はいないと亜薔は落ち込むが。

あの生物の正体をいち早く知った後で、その技術を使ってどうにか生き抜いてやる。

だがあの二人も自分をスカウトする程の余裕がある。

食費をタダで過ごせるのは助かる。
だがあの実の事も気になる。

亜薇は人間を殴るのはなるべく避けて、仕方がない場面で戦ってきた。
だが得体の知れない生物相手なら問題はない。

毒があったわけでもなく、殴っても倒せなかったがあの生物からは睨まれているだろう。

ここにいればまだ会えそうだ。

亜薇はチャンスを大人しく待つことにした。

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