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怪談・THE私29

※シンプルに集約させると物事がわかりやすくなると聞いたことがある。

それならばいるかわからない専門家へこの世への一言を分析していただこう。

「はやくしんでくれないかな?」

拒否するのなら自然の反応過ぎる。
なら大ごとを言わないで。


呪トモ



  俺は両親や親族が亡くなったので実家へ荷物を取りに来ていた。

  地方の実家、親族がいない。
よくある話さ。
いい思い出なんてないし、勉強を頑張っても地方じゃたかが知れてる。
友人がみんな都会へ出て、そして縁が切れた。
お陰で俺は自立できた。
悠々自適に家族だとか友達とかほざくみつみると絶滅危惧種の田舎のヤンキー見ているみたいでバッドサイン送りたくなる。

  まあ、ヤンキーの方が今でも繋がってる友達の方が多いけどな。
負の経験がない奴なんて脆くてうざいから。

  さて、そんな地方嫌いの俺の荷物で面白そうな過去の遺物はないかなあ。

「日記」を見つけた。

  へえ。
三日坊主でやめた日記まだあったのか。
どれどれ内容を確認しよう。

『上に死んでほしいやつの名前を書いた。
別にこのていどじゃ呪いなんておきない。
はやくここからでたい。
となりのねえさんの家庭ほうかいをみたらしあわせなんてウソだとすぐわかる。

はやくここからでたい。
しがらみをじまんするやつは

ドブにおぼれて死んじまえ。』

  むしゃくしゃしていたのか黒いロープの鎌を持つ死神が日記には描かれていた。
なんとなくだが、男性の下半身にあるものの絵や下品な落書きがいくつかあって

「そういえばこんなことあったなあ。」だなんて笑える内容じゃなかった。

  でも、あれから俺に運が味方して気に入らないやつ全員消えてくれた。
そして、気に入らない人間がくたばらない現実に憂いてる人達の集いを見つけ、俺はそこで家族や嫌いな奴が死んだことを話すことなく、かといって集いの仲間もその話題を俺に振ることなく話し合えている。

  三年に一度そのイベントが行われるか否かだから余計なしがらみもない。

『呪ってもいいですか?会』

  だから、大前提として報復は覚悟してる。
呪われるようなことをした人が悪いんだけどね。
被害者意識は交通事故でも悪手だからそこは呪われた連中を見習って紳士淑女として過ごしている。

  やっぱり、何かを許せない経験や体験は誰になんて言われても大切なんだよ。

  しかしこの死神、中学生の時の割にクオリティが高いな。
また絵を描いてみるか。
この時より絵が下手になってるかもしれないが。

✳︎

  あたしは今日も上司に悪態をつく。
受け入れる上司とは脈なしだが別にいい。
お互い帰れば、最悪辞めればすぐに他人になる。
地方じゃないからそうなれば、二度とあうこともないかも。
逞しくなったら、誰かと離島か谷でパルクールでもして死んでいきたい。
リスクと隣り合わせの生き方を知らない地方移住者と話したことがあって

「その子が大きくなる頃に自動車とかちゃんと支援できるのかな?
働くこと前提って親ってエゴの生物だな。」

  そう思っていたら地方移住者の親を持つ高校生が古本屋で漫画を立ち読みしながら地方移住者の親やそれらに類する人間を馬鹿にしていたので気分が良かった。

  あたしはそういう女なの。
明るい話をふる奴をみると、特に意味もなく丑三つ時に神社に行って藁人形に釘を打ち付けたくなる話を別のシチュエーションで新しい物語として描けてしまうの。

  かといって、アンチ的な活動をする奴らも論外。

  暴言と戯言や綺麗事は大嫌いだけど呪いは大好きなだけ。

  今はそこまでじゃないけれど、幸せの押し付けより子供に嫌われる親をみると家族というコミュニティは生きるための居場所の選択肢でしかないことを知る。

  あたしは自他共に認めるマイノリティだが不自由はない。

「呪ってもいいですか?会」として顔を出せるようになったから。

「いらっしゃい。
最近見なかったから、報復でも受けたのかなって心配していました。」

  皮肉な返しでも純粋な受け答えでもない。
そこだけ…この場だけのコミュニケーション。
あたし達は一筋縄ではないから変に重くも軽くもならないか関係でいい。
だからこんなワードが飛び交うのだ。

「いえ。理不尽は、生きていてつきものですから。」

  あたしは大丈夫だが、仲間達は死んでほしい相手がやたら長生きでこの国を恨んでいる。

  父型の親戚がなんの楽しみもないくせに髪を染めた自慢をする女性かつ姑で子供の頃から変わっていない世の男性から「女性は強い」幻想を打ち砕く痛いババアが死ななかったり。

  昔付き合っていた人が未だに未練を引きずっていて、謂れのないことを話しに来たり。

  自殺したいと急に言ってきて困らせておきながら本人はソシャゲで幸せアピールして縁を切ったり。

「クズばっかだよねえ。」

  とここでなら全員割り切って笑えるそんな空間だった。

  そして誰も「恨みの対象を美化しない。」

  だからこそお互いに線引きして深い仲にも浅い仲にもならない。

  最悪この会がなくなってもいいように調整している。

  恨みをしり、報復を知る。

  道徳はこれだけでいい。

「久しぶりです。」

「ああ、名前なんだっけ?
いやいっか。確か、実家戻ったんだっけ?」

「はい。
戻るほどの荷物もなかったんですけど。」

「いいですよ無理に土産話なんてしなくても。」

「ありがとうございます。」

  彼からは負のオーラを感じない。
よくはわからないけど、憑き物の原因はこの世よりマシな地獄へ堕ちたのだろう。
それくらいでいい。
彼の苦しむ顔をみるくらいなら、彼を貶めるやつらは側溝で外来種に食われればいい。
本来そんな悪口は言えないが、この場ならそれを許される。

  だからあたしは喋らない。

  大事なのは、恨みを抱えてもここにいて綺麗事や暴言が蔓延しないこと。

  倫理観を守って呪うのだ。

  彼は私の隣に座った。
別にときめきはしない。

  彼の後ろに見える死神はフィクションのようにシビアでもおおらかでもない。

  幽霊でもない。

  あたし達は誰にも見えないところで手を繋ぐ。

  多分そこまで深くはならない。

  ただ、「呪トモ」であるだけ。

  幸せではなく、報復。
手垢まみれのこの世を憎む仲間だから。

  彼の死神も警戒を解き、あたしと彼の真ん中を漂う。

  こういう空間が許されれば、案外人生は簡単なのかも。

 幸せな人達は精々遺産相続で揉めてね。

 もうあたし達に押し付けないで。

 呪いの形もすっかり変わった。

 フラットなコミュニケーションとして。

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