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一体感が生み出す奇跡を目撃した、エンタス2周年イベントレポート

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2020年9月22日、秋葉原オノデン本館5階に佇むイベントスペース「ENTAS」が、2周年イベントを開催した。VTuberクラブイベントの登竜門であると同時に、まだまだ未開のカルチャーに対して、"ラフ"で堅実に数多くのイベントを開催してきたENTASがカルチャーに与えてきた影響力は計り知れない。今回開催された2周年イベントでも、「VTuber」というコンテンツを主軸に構成されてはいるが、ジャンルに縛られず自分の好きなことに忠実なアーティストやクリエイター陣が集結。文化に対するリスペクトと、チャレンジ性が織りなしてきたイベントの陰には、スタッフ含め観客同士の一体感が常に存在しており、ENTASが「実家」と呼ばれる所以は、その一体感が生み出すムーブメントの他ない。

今回のイベントではソーシャルディスタンスの配慮や遠方のファンに向けて現地・配信・VRで楽しむことができ、場所を超えた一体感をオンライン上で生み出そうという試みが行われた。無観客配信ライブがオーソドックスになる今、バーチャル空間をいち早く取り入れた見せ方はこのカルチャーならではの強みだろう。どこにいてもスマホ1つあれば配信で、PCがあればVRChatでもう1つのENTASでイベントを観覧できる。もう現地に行くことだけが「実家」ではない。テクニカルな面からライブショーケースまで、全世界から参加できるという意味では、気の抜けないパフォーマンスが求められることは間違いないだろう。この日ENTASの2周年を祝いに来たアーティスト陣、クリエイター、そして観客全員が一体となった現地の様子をお届けする。

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オープンから多くの観客がフロアを占領する様子が伺えた。周年イベントとはいっても、純粋に「音に酔いしれたい」という前提を崩さないのが、ENTASを「実家」と謳う歴戦のファンであり、特別な緊張感は感じなかった。この日は常連から、久しぶりにENTASに来た人、遠方から来た人、ENTASに馴染みあるアーティストや関係者が数多く来場していた。それでも、フラワースタンドが並ぶ傍ら、物販やドリンクコーナーが佇むいつもと変わらない光景がエレベーターが開くと同時に出迎えてくれた。

FAIO

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「周年だから、初っ端から上げていきます」とこの日トップバッターとして登場したFAIOがアッパーチューンの轟音の中から声を上げる。VRChat内で開催される音楽イベント「VIRTUALIZE REALIZE」の立役者であり、VRエンタスを生み出した中心人物。ボカロからVTuber、カルチャーのアンセムを織り交ぜたセットリストで、開幕からオーディエンスをフロアの最前まで押し上げる。手探りとは無縁なのは楽曲だけではなく、サイドキックに同じくVIRTUALIZE REALIZEのメンバーである非暮とLAKUが、VJとしてFAIOのパフォーマンスを目まぐるしい演出で彩った。

咲乃木ロク

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トップバッターを務めたFAIOがそのままバックDJに立ち、この日最初のライブショーケースに咲乃木ロクが登場。重低音が鳴り響く「Hot Winter」「Monster」を続けて披露し、楽曲名さながら開幕からフロアを灼熱に仕上げる。思わず体をバウンドさせてしまう音の重圧と畳み掛けるように吐き出した言葉の羅列が、心地よくも開放感に覆われるようだった。軽くトークを繰り広げたあと、"アーティスト咲乃木ロク"のアンセムにしていきたいと新曲「Reason to live」を披露。先程の雰囲気とは一変、エモーショナルなトラックとメッセージ性の強い言葉が吐き出された。

そしてゲストに霊界ラジオ(地獄川震、朧家ブランコ)が登場。3MCによる「For Domingo」がアナウンスされると、情熱的なトラックと力強いラップの応酬がフロアで繰り広げられる。個のぶつかり合いのようなショーケースに、観客は体を揺らしつつ手をあげて踊る様子が印象的だった。続いては氷雨悠冰が登場し、コンピレーションアルバム「Box in the back ∀lley / Club Turtle」から「Re:birthday girl」が先行で披露された。これまでの燃え上がるような楽曲とは裏腹に、ダウンビート系の淡い音がフロアを包み込む。その流れからチルアウトしたフロアにとどめを刺すかのように「Diary」で咲乃木ロクのショーケースは終演を迎えた。

osirasekita

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DJパート2人目にはUSAGI Productionに所属し、VJとして活動するosirasekitaが登場。映像、DJ、どちらが本当の顔なのかわからなくなるレベルのマルチな才能を周年イベントで遺憾なく発揮する。除菌タイム(ブレークタイム)のShing02が嵐の前の静けさを演出するかのように、音の暴力が開幕から執行された。「ついてこいよ!」の掛け声と同時にアッパーチューンのセットリストがとめどなくフロアに突き刺さる。VTuber楽曲も要所要所にはさみつつ、休む暇を与えないパフォーマンスに観客の叫び声がフロアに鳴り響いた。

BOOGEY VOXX feat. clocknote.

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ライブパート2組目に登場したのはBOOGEY VOXX feat. clocknote.。2020年に突如現れ、飛ぶ鳥を落とす勢いでカルチャーを根底から覆す麒麟児の2人とBOOGEY VOXXのライブではお馴染み、マルチな才能で幅広く活動するclocknote.がVJとしてENTAS2周年イベントの舞台に参戦した。「オノデンCMの歌(TAKUYA the bringer Ver.)」「うちで踊ろう(K's Remix)」とPOPな立ち上がりを見せ、楽曲のインパクトではなくトークを混じえながら徐々にフロアをロックしていく姿はまさにエンターテイナーだった。エンタスコールで一体感を生み出すと野良猫又VRapperのヌコメソーセキが登場し、「Drop like a SAKUMA」を披露。Ciの心地いいハイトーンボイスと軽やかなリズムからユニゾンを誘発していく。3人の息の合った掛け合いからCiの力強い歌声がフロアに鳴り響き、続けざまにFraのライミングが炸裂した。

続いて同じくFulfill収録曲「empty」を披露。楽曲が醸し出す大人っぽい雰囲気がフロアを一気に取り囲み、観客が揃って大きく体を揺らしていく。曲が終わると再びエンタスコールを行い、ゲストに隣町本舗が登場、そのまま「Ghost City Club」を披露した。隣町本舗の優しい歌声とパワフルなCiが彩るメロディに、Fraのがなるようなラップがブレイクされて起きる調和の産物がフロアに鳴り響いた。楽曲が終わると「今日は、刻みにきました。来年の3周年ライブ、俺らよりもやばくないやつが出ること絶対に許さないっす。俺らよりも祝う気持ちがないやつは絶対このステージまたがせないぜって気持ちで今日来ました」とFra。今日がどれだけ特別なのか、吐露するかのような畳み掛けるトークが印象的だった。最後にオリジナル曲「D.I.Y」を披露、今年のキラーチューンでもある本楽曲をベースに、愛に近い祝福を刻み込んだライブを見せてくれた。

遊美深夜

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ENTASに時折現れ、暗中飛躍する遊美深夜も今ではお馴染みのDJとして2周年イベントに登場。謎に包まれた彼らは、一貫してインターネットカルチャーの真髄を追求し、アンダーグラウンドシーンからトレンド曲まで読めないセットリストでフロアを翻弄する。この日も、彼らの特徴でもある歌モノをメインに思わず口ずさみたくなるような選曲を披露。ビジュアルからは想像できないほど、ハートフルな楽曲を随所に組み込んでいく。激しい映像演出と長髪2人組の躍動感から、誰が何をやっているのかもはやわからない感じと説得力あるプレイで記念すべき周年の舞台を盛り上げていた。

Generation Z

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続いては、急遽参戦が決定したGeneration Zが登場。固定メンバーの概念はないというGeneration Zは、TEMPLIME、をとは、星宮とと、gaburyu、nyankobrq、yacaがこの日のメンバーとしてENTASのステージにあがった。VTuberのクラブシーンにおいて、彼らなしではここまでの発展はなかったと言っても過言ではない。そんなキーパーソンである彼らが集結することで生み出されたお祭り感は、さながらクライマックスのような感動がフロアに充満する。TEMPLIMEとgaburyuをバックに、をとは、yaca、星宮とと、nyankobrqのライブセット、目まぐるしい情報量と演出に必死に食らいつこうとする観客の姿が印象的だった。

ライブ後半、TEMPLIMEをバックにぼんやり浮かびあがって星宮ととが登場するシーンが印象的で、リアルとバーチャルの融合とも取れれば、リアル世界に星宮ととが舞い降りたのかと錯覚してしまう演出に、フロアからは大きな歓声が飛び交った。最後に披露した「ネオンライト」では、フロアのボルテージがマックスになるのがわかるくらいの歓声と、後ろにいた観客が押し寄せて前線まで駆け上がる姿が衝撃的だった。全員が4番バッターのような夢のユニットGeneration Z、これからの活動と今後どのようなメンバーが加わり躍動するのか目が離せない。

TAKUYA the bringer

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この日のメインアクトと言ってもいいだろう、ENTASの店長であり、カルチャーのフロントランナーとして2年間走り続けたTAKUYA the bringerがステージへとあがった。そして開幕、観客へのサプライズとしてVTuber事務所「ホロライブ」からAZKiが登場。「ENTASと共に歩いてきた」と語るようにこれまで3度のワンマンライブをENTASで行ってきたAZKi、思わぬサプライズに動揺を隠しきれないフロアをよそ目に、「Creating world」「from A to Z」「without U」の3曲を熱唱。熱気あふれるフロアに、AZKiの優しい歌声が響き渡った。興奮冷めやらぬ中、「よしやるか!もう、なんだこれは!」と感極まったTAKUYA the bringerのDJがスタート。1曲目にAZKiの「いのち」がかかると、フロアからは叫びのような歓声があがり、「スピーカーが増えたのも、上にモニターが増えたのも、全部AZKi様のライブの後なんだよね」と"共に歩いてきた"と語るAZKiに対してのアンサーを、楽曲や裏話を通して返していく。

繰り返し「今日はありがとう」と感謝の気持を伝えながらも、容赦なくVTuberシーンのアンセムを繋いでいき、徐々に自分自身も体を大きく揺らして音に乗っていく姿が印象的だった。音に合わせるようにカラフルな色彩が浮かび上がる中、リズムに合わせて手を高く振り上げる。80名の観客に負けないくらいの熱気がDJブースから放たれ出すと、それに負けじとフロアからも大きな歓声が飛び交う。TAKUYA the bringerとフロアの熱気のぶつかり合いがこの日1番の一体感をもたらし、全力で楽しむことで2周年をお祝いする使命感と本能がもみくちゃになりながら、最後に「Beep☆CARAMEL」でTAKUYA the bringerのパフォーマンスは終了した。

DJ WILDPARTY

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ENTAS2周年イベントのトリを務めたのはDJ WILDPARTY。にじさんじ楽曲と自身のRemixを織り交ぜたセットリストは、最後の最後まで容赦ないエンターテイメントの暴力が降り注ぐかのようだった。自身の色は崩さない中で、とにかく芸の細かい選曲はまさに圧巻で、イベントスタートから6時間経過したフロアから熱気を逃さないようなパフォーマンスが行われた。それに答えるかのように全力で体を揺らす観客と、再びそれを超えるバイブスで自らが前に出て声を張り上げて歌うWILDPARTYとの掛け合いも一つのエンターテイメントの形として成立していた。

全員が一体となって楽しむ時間がすぎるのは一瞬で、記念すべきENTAS2周年イベントは興奮冷めやらぬまま終了を迎えた。悲鳴に似た叫びがフロアに鳴り響き、開始から6時間以上経ったとは思えないほどの熱気がいまだ不完全燃焼と言わんばかりに漂っていたのが印象的だった。

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自分自身お世話になったENTASの記念すべき日のレポートを書くということで色々試行錯誤しながらこの日を迎えたが、結局は「お祝い」という形式はあれど、みんなENTASが好きで、TAKUYA the bringerが好きで、VTuberが好きで、音楽が好きで、ただそれだけなんじゃないかと、クローズしたフロアを眺めて感じた。

馴染みある多くのDJやVTuber、VJチーム、配信チーム、スタッフと観客が全員一体となって作り上げた1つの奇跡であることは間違いない。それはたぶんこの日現地にいた人だけでなく、配信を見ていた人、VRエンタスにいた人、全員が同じ気持ちを持って産まれたものであって、リアルとバーチャルの垣根を超えた一体感から感じ取れるものだと思う。何かを続けていくというのはとても大事なことで、小さくても、少なくても、一心に積み重ねてきたからこそ人が集まってくるし、感謝したいし、お祝いしたいと思える。それを体現したものがTAKUYA the bringerを筆頭としたENTASチームだろう。僕はこの日、積み重ねてできた船の上の宴会に参加したような安心感と、カルチャーの先端で爆発を目撃したような高揚感が入り交じる貴重な体験をした。また来年もお祝いがしたいと、色んな感情と余韻が抜けないまま「実家」を後にした。


<エンタス2周年イベントアーカイブ>



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