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【サイレン考察】SIRENの映画は本当に駄作だったのか?(サイレン FORBIDDEN SIREN)

※映画・ゲームともに極めて重要なネタバレを含みますのでご注意ください。

SIRENとは

プレイステーション2で販売されたホラーゲーム。2003年11月6日発売。

他人の視界を覗き見る「視界ジャック」という能力を駆使し、屍人と呼ばれる敵から逃れつつ戦うステルスアクション。

2006年2月9日には続編の『SIREN2』、2008年7月13日には第3作『SIREN:New Translation』が発売されたほか、2006年にはメディアミックスとして、映画化もされています。

SIRENの映画『サイレン FORBIDDEN SIREN』

『SIREN2』をベースにしたホラー映画。ゲーム発売の2日後である2006年2月11日に公開されています。

監督にドラマ・映画『ケイゾク』『TRICK』シリーズを手掛けた堤幸彦氏、主演に当時グラビアアイドルとして大人気だった市川由衣さん、他に、田中直樹氏、阿部寛氏、森本レオ氏、嶋田久作氏など、豪華な俳優陣が出演しています。

しかし、「ゲームとほぼ関係が無い」「オチが肩すかし」などの理由から、評価は非常に厳しいものとなっています。

あらすじ

29年前。謎のサイレンの音とともに全住民消失事件が発生した孤島。一夜にして無人島化するという、この未曾有の怪事件から29年が経ち、現在平静を取り戻したこの島に引っ越してきた少女が、サイレンの音とともに出現する数々の謎に翻弄されながら、予測不能な怪異に巻き込まれる・・・。鬼才・堤幸彦監督による新感覚サウンド・サイコ・スリラー。

 amazon prime video『サイレン FORBIDDEN SIREN』 より引用

全体のストーリーは下記のWikipedia内にネタバレも含めて非常に詳しく執筆されていますので、すでにストーリーを忘れたという方は一読をオススメします。

駄作とされる主な理由

ゲームとほぼ無関係

『SIREN2』をベースにした映画という触れ込みで制作・公開された映画ですが、ストーリーは全く別物。この点が、ゲームファンを大きく失望させてしまいました。

もちろん、ゲームの壮大なストーリーを90分程度で再現できるわけもないため、ゲームの忠実な映画化を求めるのは酷というもの。それでも、ゲームの方は『並行世界(パラレルワールド)』が重要な要素になっているだけに、ゲームと異なる世界のアナザーストーリーとして描くこともできたはずです。それなら90分でも充分表現できますし、そういう作品を期待していたファンも多かったことでしょう。

しかし、本作は設定や登場人物など完全に別モノになってしまっています。

一応ゲームで岸田百合や加奈江などの役を演じた高橋真唯さん(現・岩井堂聖子さん)が出演しているものの、役の共通点はなし。また、ゲームのアイテムや音楽が使用されたり、「屍人」や「幻視」「人魚の伝説」など、原作からの設定も見られるものの、どれも上辺だけの登場に留まっており、深く掘り下げられていません。

オチが肩すかし

ゲームとは無関係でも独立したホラー映画として完成されていればまだ良かったのですが、SIRENとは無関係と割り切って観たとしても多くの問題が残ります

その最大の問題が、作品自体のオチともいえる『一連の出来事は主人公の妄想だった』という点。90分近く観てきたものが全て現実ではなかったという展開は、視聴者の予想を悪い形で裏切ることになり、落胆どころか怒りを覚える人が続出しました。

この2点以外にも「俳優の演技が微妙(下手・オーバー・映画の雰囲気にあっていない、など)」「伏線がほとんど回収されない」「ムダに長い演出が多くテンポが悪い」など、悪い点を数え上げればキリがないほどです。

一方で、『名作』とまでは言えないものの、それなりに見所のある作品ではないか? という声も一定数あります。

アマゾンの評価を見てみても、☆2以下の低評価よりも☆4以上の高評価の方が数が多く、高評価のレビューを読んでみると、「そういう見方もあるのか」と感心させられる意見もあり、安易に駄作と評価する前にもう1度観てみようかな、という気になって来ます。

その要因のひとつが、『一連の出来事は本当に主人公の妄想だったのか?』という疑問点です。

妄想とするには矛盾点が多すぎる

これは本作が酷評される理由のひとつでもあるのですが、一連の出来事を主人公・由貴の妄想とするには矛盾が多すぎるのです。

その代表的な例が、島では29年前に島民全員を虐殺・失踪する事件があったはずなのに、現在多くの人が普通に暮らしているという点です。島の住人とは父親の真一や医者の南田も普通に会話しているため、住人そのものが由貴の妄想だったとは思えません。

他にも、弟の英夫は由貴の妄想のはずなのに由貴以外の人物が反応しているシーンがある、赤い服の女は父親にも見えている、飼犬はどこへ消えたのか、時おり挿入される視界ジャックの意味は、そもそも治療のためになぜこんな怪しげな島を選んだのか、など、細かい矛盾や不明点を挙げれば、これまたキリがありません。

こうした矛盾・不明点を「作品の作り込みの甘さ」と捉えると、今作は駄作で間違いないのですが、これこそが今作の狙いであったとしたら、改めて評価する価値が出てきます。

名作『シックスセンス』と比較すると……?

今作のように「ラストのオチで全てが覆されるホラー映画」の代表作としては、『シックスセンス』が挙げられるでしょう。こちらの作品のネタバレは避けますが、ラストのオチで全ての辻褄がピタリと合い、良い意味で視聴者を裏切った結果、名作として語られることになりました。

この、名作『シックスセンス』が「ラストのオチで全ての辻褄が合う」のに対し、『サイレン』は完全に逆、「ラストのオチで全ての辻褄が合わなくなる」のです。

つまり、『シックスセンスとは逆のことをする』ことこそが、今作の狙いだった可能性が考えられます。何と言っても監督は『ケイゾク』や『Trick』の他にも、後に『SPEC』や『20世紀少年』を制作する堤幸彦監督です。それくらいの仕掛けはやりかねません。

では、『一連の出来事は由貴の妄想ではない』と仮定して、本作を再度見返してみましょう。

謎を解く2つのキーワード『人魚の呪い』と『鏡世界』

本作では、端々で『人魚の呪い(人魚伝説)』『鏡世界』というワードが登場します。

人魚の呪い

かつて島は不治の病に侵された人々を隔離するための島で、日々、多くの人が病に苦しんでいました。

島の周辺には人魚が住んでいました。人魚は島で死を迎えるしかない人間を哀れに思い、自身の血を分け与え、病気を完治させました。
以来、島では人魚を神と崇めるようになったのです。

しかし、時が流れるにつれ人間は不老不死を求めるようになり、人魚を食べてしまいます。

人間の裏切りに怒った人魚は、島全体に呪いをかけました。

その呪いは現在も続いているそうです。

鏡世界

島には古くから伝わる唄があります。歌詞を掲載するのは避けますが、要約すると、

  • 鏡の中に真の理(ことわり)がある。

  • 鏡を見ると狗(いぬ)は神に生者は悪に変化する。

  • 変化しない者は永遠の命などこの世の理を超える力を持っている。

ということです。

今作最大の矛盾点である『29年前に島民は虐殺されたはずなのに、なぜ現在多くの人が住んでいるのか』という点に関しては、島民全員がかつて人魚の肉を食べて不老不死となっている、と考えることができます。

また、『虐殺された島民が失踪した』点は、鏡世界へ行った、と考えることができます(現実世界と鏡世界を行き来する条件はよく判りませんが)。

そして、島民は3度目のサイレンを聞いて全員屍人化しましたが、由貴はサイレンの音を聞いても屍人化しませんでした。島の唄によると『鏡を見ると生者は悪(恐らく屍人のことと思われます)に転じ、変化しない者はこの世の理を超えている』とのことなので、由貴は不老不死の力やこの世の理を超える力を持った者であるのかもしれません。

よって、島民(屍人)は、自分たちや島全体にかけられた呪いを解くために、由貴の力を求めて襲ってくる、と考えられるのです。

そうすると、『由貴は何者なのか?』という疑問が湧いてきて、さらに考察を進める必要が生じます。

……という具合に、本作『サイレン FORBIDDEN SIREN』は、オチである『一連の出来事は由貴の妄想』という点を受け入れず、『矛盾する点を、人魚の呪い・鏡世界のふたつのキーワードで考察する』ことが、真の楽しみ方と言えるのです。

しかし、根本的な問題は解決しない?

以上のように、『オチを受け入れなければ考察のし甲斐はある』作品ではありますが、実のところ、考察をしたところで『そもそも作品自体がつまらない』という点は否定できません。

私自身も、前半はまだそこそこ楽しんで観ていられるのですが、後半屍人が登場するようになってから、前述したムダに長い演出や、ゲームの屍人とは程遠い古いスタイルのゾンビである点などがネックで、非常に退屈に感じてしまいます。

また、考察するという点においても、『真相を描くのを放棄して視聴者に丸投げしている』、つまり制作側の手抜きと取ることもできます。

この、『考察するか手抜きと見るか』が、今作が名作か駄作かの分かれ道だと思うのですが、正直、考察するにしてもそのためのヒントがあまりにも少なく、適当に謎っぽいものをちりばめただけ、という印象は拭えません。

私ももう何度も観ていますが、何度観ても根本的なところで面白くないな、という評価は変わりませんね^^;

その他の評価点

映画やドラマの見方には、『作品そのものを楽しむ』という見方の他に『俳優の演技を楽しむ』という見方もあります。

私のtwitterからこの記事へ飛んできた方の中には重々ご承知の人もいるかと思いますが、わたくしドラ麦茶は重度の女優オタです。
私にとって推しの女優が出演している作品の評価ポイントはストーリーうんぬんではなく、『役が役者のイメージに合っているかどうか』、ハッキリ言ってこの一点に尽きます。
どんなにストーリーや演出がチープであろうとも、役が推し女優のイメージに合っていればそれだけで楽しめますし、逆にどんなに評価の高い作品でも役がイメージに合ってなければ観るのをやめることも少なくありません。

こういった、『映画・ドラマを俳優で観る』視聴層は一定数存在します。
どれだけ批判されてもマンガ・アニメの実写化が絶えなかったり、アニメ映画の声優に本職の声優ではなく俳優がキャスティングされがちな点を見ると、むしろ俳優目当てで観る人の方が多数派ではないかという気もします。

こういった『俳優視点』で観た場合、本作は充分に名作と言えるでしょう。

本作の主人公・天本由貴を演じるのは、当時グラビアアイドルとして絶大な人気を誇った市川由衣さん。私も大ファンでした。演技力はファンが見ても到底合格点を与えられるものではないですが、全体的にアップの演出が多く、その可愛さを心ゆくまで堪能することができます。ブラコンの姉という役もイメージに合っており、彼女の魅力は充分すぎるほど引き出せていると思います。『映画としてはどうかと思うが市川由衣のPVとしては完璧』という声もあります。ワイの声ですが。

他にも、森本レオ氏や田中直樹氏・阿部寛氏なども、ホラーの雰囲気に合っていないという点は否めませんが、演技がダメだったり役自体が合っていないということはないと思います。

よって、出演している俳優のファンなら、本作は観て損のないデキではあるでしょう。

総評

ゲーム原作の映画ですが、ゲームとはあまりにもかけ離れた内容であり、ゲーム抜きに見ても『一連の出来事は全て主人公の妄想』というオチが肩すかしでガッカリします。

ただ、妄想とするには矛盾する点が多く、その点を作り込みの甘さと捉えるかどうかで評価は分かれるでしょう。

そして、『一連の出来事は由貴の妄想ではない』と仮定して見返せば、原作の楽しみ方のひとつである『考察する』という楽しみは出てきます

しかし、考察するための要素はあまりにも乏しく、そもそも制作側がしっかりとした真相を用意していないようにも思えるので、どんなに深く考察しようとも、それは一視聴者の『妄想』でしかないのかもしれません。

そう、この映画を観まくった先にあるものは、『一連の出来事は主人公の妄想と見せかけて実は視聴者の妄想』という結果なのです。

これは、原作SIRENにおける『羽生蛇村にループの呪いをかけたのはプレイヤー自身という、究極のトリックを再現したと言えるのではないでしょうか?

実はこれこそが鬼才・堤幸彦が仕掛けた、この映画最大の仕掛けだったのかもしれません。


……ウソやでー。


※羽生蛇村にループの呪いをかけたのはプレイヤー自身

あまりにもメタ要素が強いのでこのサイトでは考察記事にしていませんが、『羽生蛇村にループの呪いをかけたのはプレイヤー自身』という説があります。

『因果の成立』条件である『2003年8月5日23時に須田恭也が堕辰子の首を落とす』ため、登場人物に何度もやり直しを強制している存在といえば、ゲームをプレイしているプレイヤー自身である、と考えることができるのです。


劇場版サイレンが視聴できるサイト


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