深夜語り
(友人との深夜テンション通話をしながら1時間で書いてます)
ー出逢いは突然にー
「あなた、ここにはいつから?」
そう隣にいる奴が話しかけてくる。隣と言っても、壁1枚を隔ててだが。
「先週からだよ。」
そうぶっきらぼうに答える。留置所の鉄格子の窓からは月明かりが射し、房内を淡く照らす。
「へぇ。何で?」
「“何で”ってどういう事だよ?」
「分かるでしょ。何の罪で?って事よ。」
「詐欺だよ。金がなかったんだ。日本には多くの老人がいる。そしたら未来ある若者に金を渡すのが筋ってもんじゃねぇか?」
「何それ?バッカみたい。」
そう隣の房内にいる女は笑う。その笑いは子供っぽさを残しながらも、女特有の裏を孕んだ笑い方とでも言おうか。そんな不思議な笑い方をする奴だった。
「ところでお前は?何の罪で?」
「詐欺よ。馬鹿な男を騙してお金が貰えるんだもの。こんな簡単なことって無いわよ?」
「お前もなのかよ。全く。騙された男が可哀想になるってもんだ。」
「可哀想って何よ。可愛い私を一時でも好きにできたんだから、寧ろ光栄と言うべきね。」
自分を可愛いという人間にはろくな奴が居ない。それを俺はよく分かってる。
「はいはい。分かった分かった。」
「何?疑ってるの?」
「直接顔が見えないんじゃなぁ。」
「じゃあ直接見れば信じるのかな?」
「直接見れればな。」
とはいってもここは留置所。壁は分厚いコンクリートで囲まれ、趣味が脱獄の奴でもなければ脱獄する事など不可能だ。
瞬間、『ドゴォン!』という爆発音にも似た音が房内に響き渡る。その音は破壊をも伴い、俺の体を軽々と吹き飛ばし、反対側の壁へと叩き付ける。
「な...なんなんだ?」
「あら、直接会いたいって言ったのは貴方じゃない。」
その瞬間、俺は彼女に恋をした。
有り得るだろうか?あの筋骨隆々を体現化した身体。俺には無いものだ。人間は自分には無いものを持った人に憧れるとはよく言うが、俺の場合は正に筋肉だ。筋肉がないことで得られるメリットはもちろん脱獄という視点から見ればある。しかし、看守に見つかったりした際には戦闘には移行できず、逃げの一手のみだ。しかし、この女のような筋肉があれば...なんでも出来てしまう。コンクリートをぶっ壊せばそもそも悪知恵を働かせる必要も無い。なんと素晴らしい女なんだ、彼女は。
その瞬間、私は彼に恋をした。
かっこいい。何?あの顔。ヤバくない?声はとても好きだったけど外見までイケメンな事ある?ヤバイヤバイ。私今どんな顔してる?彼は筋肉ムキムキマッチョマンの事が好きなのかしら?いや好きにさせる。嫌いだとしても。私の全筋肉を用いて好きにさせる。
(彼女は)(彼は)
(誰にも渡さない)
ー別れは突然にー
儂の名は東田 祐介、67歳。儂は今、心を奪われてる人間がいる。
そいつは男だ。しかし、恋愛という心の推移に於いて、性別というものは関係あるのだろうか。否、関係はない。
そいつは犯罪者だ。ある人物を見る上で、犯罪歴は大切な物だ。しかし、犯罪歴は彼に付けさせない。何故なら、儂は裁判長なのだから。彼をどんな手を用いてでも、無罪にしてやる。救ってやる。そして、儂の物にしてやる。
しかし、邪魔な女が一人いる。そいつは強い。滅茶苦茶に強い。
だが、儂の恋路は邪魔させない。
何故なら、儂は裁判長なのだから。
「判決を下す!」「判決を下す!」
「被告、小林蒼太は」「被告、中川真帆は」
「精神疾患があり、」「正常な思考の下、」
「正常な思考が出来ず、」「他の者を騙し、」
「他の者を騙すという」「金銭をせしめるという」
「悪行をしてしまった。」「とても悪質な行為である。」
「しかし、」「故に、」
「情状酌量の余地はある為」「情状酌量の余地はなく」
「被告は」「被告は」
「無罪とする。」「無期懲役とする。」
ここでは儂が王だ。
誰にも邪魔はさせない。
この後小林と東田は共に姿をくらまし、真帆は刑務所を脱獄して小林の行方を探しているという。
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