アドレナリンと麻酔 #3

#2においては、ノルアドレナリンの話をした。名前がアドレナリンのノル(化学構造が1つ欠けている)であるという、アドレナリンありきの名前でありながら、脳内ではアドレナリンよりもよくその働きが知られていて、中でも睡眠と覚醒に関わる機構におけるノルアドレナリンの役割は、その機構を利用して麻酔をするための薬まで作られる程度にはよく分かっているという話をした(つもりである)。
今回の記事では、それだけ色々な脳の仕組みに関わっているノルアドレナリンの機構の中で、なぜ睡眠と覚醒に関わる機構に焦点を当てて利用できるのかという話を説明するのに必要な用語、「受容体」について書いていく。

#1でも宣言した通り、理系科目が苦手な人でも何となく分かるように書くことを目標にしているので、この「受容体」を説明する前に、タンパク質やアミノ酸について説明する。

まず、タンパク質は、義務教育でも家庭科で習った覚えがあるし、食品の栄養成分表示にはほとんどの場合書かれているはずだから、字面で見たことが無い人は食品のラベルの栄養成分表示を見返してみてほしい。
私の手元にあるチョコレートの栄養成分表示では「たんぱく質」と、一部ひらがな表記になっているが、これは食品としての表示と生物学での表示の仕方の違いで、なんでそうなってるかはよく分からないが、「タンパク質」も「たんぱく質」も情報としては同じものを指している。(ので、以下、カタカナのタンパク質で統一する。)

「タンパク質は、体を作る機能、体の調子を整える機能、体を動かすエネルギーになる機能をもつ食べ物の成分である」と家庭科では習った。これをもう少し細かく言うと、
「タンパク質は、食べてから体の中に入って分解されて、アミノ酸というパーツになったのち、アミノ酸を材料に新しい機能をもつモノに再構築されることで、体の一部のモノになったり、体の調子を整えるモノになったり、エネルギーとして活用されるモノになったりする」
という話になる。
これは、私のイメージでいうと、アミノ酸というレゴブロックの1ピースがたくさんあつまって組み立てられた巨大なレゴの像がタンパク質、という感じで、食べたタンパク質が鶏むね肉だったとしてもそれはアミノ酸というレゴブロック1ピースにまで体の中で分解されるから、きちんと人の筋肉という別のタンパク質として体の一部になれるという話を上ではしている。

アミノ酸が1個のレゴブロックで、タンパク質がそれをくみ上げて出来た何らかの構造物だというイメージまで共有いただけたなら、「受容体はタンパク質である」と言っても鶏むね肉を思い浮かべることはない、と信じて話を進める。

受容体とは、特定の物質をキャッチ(受容)することでスイッチが切り替わるタンパク質のことである。例えば、今回の場合、アドレナリン受容体というと、アドレナリンをキャッチすることでスイッチが切り替わるタンパク質のことを言うことになる。
大抵の受容体は、特定の物質だけをキャッチするためのくぼみを持っていて、そのくぼみにハマる特定の物質が来ることで変形して、その変形から始まる化学反応のきっかけになる。
アドレナリン受容体にはアドレナリンがハマるくぼみがあって、アドレナリンがくぼみにハマったら、以下の化学反応が始まる、という感じである。

大抵の薬(麻酔も含め)は特定の受容体にハメるためにデザインした化学物質であるから、受容体がなんとなく分かれば、医薬品の添付文書がちょっと読めたりして、世界がちょっと広がった実感があって楽しい、と受容体を知った当時の私は思った。

タンパク質の話に文字数を割いてしまったので、アドレナリン受容体の話は次回に持ち越す。

参考:


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