キチガイなすびと恋なすび(前編)

「Anesthesia(麻酔)」という言葉は、ギリシャ語のAn(No;無)とEsthesia(Feeling;知覚)を組み合わせて作られた言葉で、1世紀の終わりごろのマンダラゲという植物に言及した論文で初めて出てきた。
(※ただし、このときに使われた「Anesthesia」は現在の意味でのAnesthesiaとは若干意味が異なり、医療的な麻酔のこととして定義されたのは1846年のエーテルによる全身麻酔が成功したときからであったらしい。)
この人類初の「Anesthesia」が当てられた植物マンダラゲは別名チョウセンアサガオ、キチガイなすびと呼ばれている。
一方、4世紀頃のヨーロッパで流行り始めた「Anesthesia」の1つには、マンドラゴラという薬草がある。このマンダラゲと名前が似ている植物(実際に聖書の日本語訳の中には混同した誤訳もあるらしい)は、別名マンドレイク、ドクニンジン、恋なすびとも呼ばれている。
今回の記事は、このマンダラゲとマンドラゴラについての類似点(混同しやすい部分)や相違点を書いて、見分けがつくように整理していこうという試みである。

まず、そもそも両者よく使われる名前が似ているので、以下、マンダラゲはキチガイなすび、マンドラゴラは恋なすびと表記するが、もっと見分けがつきやすい方のマンダラゲ=チョウセンアサガオ、マンドラゴラ=ドクニンジンを採用しない理由を説明したい。
その理由は、キチガイなすびも恋なすびもナス科の植物だからである。
これは両者本当は「なすび」なのに、「アサガオ」や「ニンジン」と呼ばれ、他の植物と混同されている同士であるという類似点が際立つという考えもあって、「なすび」表記を採用した。

また、両者の類似点として、その毒性成分(麻酔成分でもある)が共通しているという点も挙げられる。
キチガイなすびも恋なすびも、ヒヨスチアミンとスコポラミンを含んでおり、専門用語でいえば、抗コリン作用により毒性(鎮痛効果)を示す。
この抗コリン作用というのは、神経伝達物質の一種であるアセチルコリンによる伝達を阻害することを言うが、もっと乱暴な言い方をしてしまうと、神経を遮断することでもある。現代の人類は、このなすび達が持つような抗コリン成分を参考に、調節したい部位の神経だけを遮断するような抗コリン薬をつくって、喘息や頻尿を治療している。(もっと良い例はいっぱいあるので興味がある方は調べていただきたい。)

後編では、キチガイなすびと恋なすびの相違点を中心に書いていこうと思う。

参考:

https://www.jstage.jst.go.jp/article/kagakutoseibutsu1962/26/1/26_1_31/_pdf/-char/ja


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