110円小世界

都会の夜。昼間の騒がしさがまるで嘘かのように静まり返って、バターみたいに溶けていく時間と街灯の光がなんとも言えず美しくてそれに見とれていた。
深夜料金で60分110円のコインパーキングに車を停めて2人きりで川沿いを歩いては、写真を撮りあった。背景に映るオフィスビルの窓に重なった影に見蕩れながら視線を空に向けた。
お世辞にも美しいとは言えない澱んだ星の少ない空がちょっと寂しさを感じさせて何故かこのままここに残りたいと思えて、場所とかお金とか時間とか景色、大切な物はきっとそこでは無いんじゃないのだろう。俺にとってはその時間のそこは遊園地で宇宙で好きな食べ物の最後の一口みたいなもの。
「車で送ってくれてるから」そう言ってたったさっき奢ってくれたコンビニのコーヒーと同じ値段の駐車場代110円。
その110円は俺になによりも最高の景色を見せてくれた。

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