冷焰

深夜、1人で家に帰り静かな部屋の中、間接照明だけが光るその部屋の中にあるソファーに腰掛けた。
すると何かがそっと姿を消したような、最後の残り火が消えたような。そんな気がふとした。
それはさっきまで当たっていた焚き火の煙が服に着いた匂いがそう感じさせたのでは無く、心の中の何かがざわめいた。
違和感。
直ぐにその正体を突き止めるべく答えを模索した。「やっぱり...」
確信には繋がらないものの、今の僕の心にはそれはとても大きな不安と絶望を感じさせた。
時刻は朝の4時を指したところ。帰宅から約2時間近くが経過していた。
眠りにつけば現実から逃げ出せる。
寝て起きたらまた新しい1日が始まる。













眠れない。
確かに体は疲れてるし昨夜もあまり寝ていなかった。寝るにはもう十分すぎるくらい疲労は溜まっているはずだ。
でもいざ眠ろうと目を閉じると心がざわめいて様々な感情が押し寄せ、襲いかかってくる。
そのままそいつらに押しつぶされそうになって体をゆっくりと起こしてまたソファーに腰掛けた。
たまたま起きていた友人に連絡を入れ外に連れ出してもらった。早朝から空いているお気に入りの移動式コーヒー屋やモーニングを食べに行ったが何一つ喉を通らない。味もしない。何も感じない。
こんな時に限って晴れ。市場のターレが大きな音を出して、周囲に音が溢れる。朝が来た。
苦味だけのコーヒーと寂しさから加えたタバコを持って学校用の椅子に座り項垂れる僕の耳に街が語り掛けてくる。


「街はいつも通り、なにも変わらない。」


「うるさい。」
「今はなにもしたくない。気力がない。」


なにもしたくない....。
いや、出来ないんだ。辛くても自力で立ち上がれない。


本当の優しさってなんなんだろうか。
結局人は自分にとって都合のいい解釈で優しさの定義を書き換える。
ひとりよがりなだけなのに。
保身なんだろうな、きっと。
後々思い出して自分を嫌わない為の保身。
今思えば僕もそうだったのかもしれない。ひとりよがり。気持ちの押し付け。
そもそも人の事をとやかく言える立場でも無いしその気持ちを自分の中でコントロール出来る程人間として立派じゃなかった。
それなのに人の事ばかり。

結局人間は弱い上に都合が良い。
弱ければ弱いほど自分至上主義。
どれだけ強がったり綺麗事を残したとしてもいざ決断の場に立てば、その弱さが露骨に顔を出す。
仕方が無い。誰しもそう言う風に生きて行かなければ干からびてしまう。
自分くらい自分の機嫌をとってやらなければ。
そんな弱さはきっとSNSとかみたいなスポットライトの影に隠れて見えないものだ。
自分自身もそうだから。


日が差し、明るくなったソファーに腰掛けながらそんな事を考える。
お腹は鳴るけどもなにも食べたくない。食べようとしても食べれないだろう。
眠りに付けない中、あの瞬間から早、7時間が経とうとしている。
返信は無い。確かな事はなにも分からないまま
ただ時間だけが過ぎていく。
当分なにも出来そうにない。

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