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【Episode2】Iconic figure~第3号の場合~

「この世界はSNSを中心に周っている」

一般的な人達にはこんな言葉はあまり響かないが、コンカフェに携わる人達の世界では誰もが素直に受け入れられる言葉だと思う。誰もが納得出来る周知の事実であり、常にそこに在り続ける不文律として鎮座している。

コンカフェキャスト達にとっては、普段の自分とは違った『キラキラしたキャラクターとしての自分』を。利用する客達にとっては、退屈な日常から乖離させた『充実した自分』を。それぞれが偶像としての自身を投影できる仮想現実がSNSという訳である。

その仮想現実と現実がリンクされた空間がコンセプトカフェだ。そこは現実であって現実ではない。多くの場合、双方がプライベートを明かすことなく、偽りの名前で呼び合い、偽りの交流を楽しむ。非現実的な現実を過ごすことが出来る特別な場所だ。

SNSが中心の世界では、承認欲求の有る無しに関わらず、図らずも有名になってしまう事がある。それは容姿であったり発言であったり、様々な要因とタイミングにより、いつ誰が“バズ”ってもおかしくはない。小さく巻き起こった渦が、みるみる内に巨大なものへと変貌し、あっと言う間に消えてしまうこともあれば、ずっとそこに在り続けることもある。

彼女もまた、そんなSNSに無数に存在する渦の中心のひとつ。


メミという女の子について私が知っていること

『メミ』というコンカフェキャストの名前を知らない人よりも、知っている人の方が圧倒的に多い。当然これは『大阪のコンカフェ界隈』に限った話ではあるが、大袈裟でもなんでもなく明らかな事実である。ここでは誰もが彼女の名前を知っている。

小さくてかわいらしい容姿。コンカフェに於いて求められる『キャストの理想像』のマジョリティとしてこれほど分かりやすいものはない。彼女の場合、特に容姿が優れている事が彼女の名前を有名にした理由の内のひとつだろう。圧倒的にかわいい事。これが彼女を構成する要素のひとつである。

時を遡ること2018年の初頭。今現在続いているコンカフェブームの創世記に日本橋の『フローネ』にてコンカフェキャストとしての人生を歩み始めた彼女は、半年後の同年夏に東心斎橋にオープンした『うさちゃんは構ってくれないと死んじゃうんだよ!』のオープニングキャストに抜擢される。

翌2019年4月には20歳の誕生日を迎え飲酒が可能になった彼女は、大阪最大の歓楽街であるミナミを舞台に、そこから卒業を迎える2021年4月までのたった二年間で、ミナミのコンカフェに於ける象徴的な存在として不動の地位に上り詰め、就職と同時にその玉座から退いた。

『ミナミと言えばうさしんのメミ』

彼女がそこまで辿り着いた軌跡を私は知らない。

うさしんに初めて行った日の事を私は何故か全く覚えていない。当時の同店はどちらかと言うと『飲酒』のイメージが強く、私が好んで行くようなタイプの店ではなかった。ただ、コンカフェを知る為にはそんな事も言っておられず、店の知名度的にも決して避けては通れない選択肢であったのもあり来店に至ったのだと思う。

実際に行ってみて分かった事だが、世間に先行して浸透しているイメージほど治安も悪くはなく、食わず嫌いで行かないのも良くないなと思った記憶だけは確かなものとして残っている。世の中は自分の目で確かめなければ分からない事だらけであると反省し、この事がきっかけで色んな店に行くようになったと思う。

私が知る彼女のパーソナリティはきっと少ない。

うさしんの卒業も立ち会わなかったし、卒業後のキャバクラ時代も会っていない。本格的に話すようになったのは随分遅く、彼女の友人でありかつての同僚でもあったみぃちゃんが2022年オープンさせたコンカフェ『little wolves bar ephemeral』が出来てからかも知れない。

昼職を退職してコンカフェの世界へと舞い戻ったかつての象徴的存在は、東心斎橋の顔として再びミナミの地に返り咲いた。

彼女が居ない一年間でミナミに台頭したコンカフェはいくつもある。SNSでのフォロワーも多数抱え、事ある毎にバズるようなコンカフェキャストも今では沢山居るのかも知れない。

でも君達じゃない。君達では決して務まらない。
フォロワー数、いいね数、そんなものは関係ない。

コンカフェをコンカフェとして楽しむ人達に支持されてこその象徴でなければならない。コンカフェを愛する客達や多数のコンカフェキャスト達に支持されて初めて『Iconic figure』象徴的な人物として認められるべきであると私は思っているし、それが彼女だと信じてやまない。


彼女には自信があり、自信がない。

カウンターに立つ彼女は笑顔を絶やさない。正確に表現するならばヘラヘラしている。ヘラヘラしながら自分の事を話し、ヘラヘラしながら私の話を聞く。そこに余計な駆け引きはないし、上辺だけのハリボテ的の会話でもない。ありのままの会話がそこにある。

彼女は人を見て適切な接客を切り替えて行えるタイプに見える。若い客、年配の客、飲みゲーをしたい客、ダーツをしたい客、カラオケがしたい客、女の子、同業者など、ありとあらゆるタイプの対処法を自身の経験から熟知している。それを考えて切り替えるのではなく、自然にスイッチできるので相手に業務的だと思わせないし、本人も極めて自然に振る舞える。その上で自身の売上をあげる事に対しても意識は絶やさないし、その点でプロであると言える。取れる所からはしっかり楽しませて取るし、取れない客には何も言わずに楽しませる。接客に関しては本人も自信がある点だと思う。何も考えていないようで何もかもをちゃんと見ている。メミィは何でもお見通しという訳だ。

本来の彼女は飛び抜けて明るいという訳ではないし、友達が沢山居るというタイプでもない。活発でもなければマメな性格でもないし、器用というよりは不器用な印象が強い。かと言って気が弱いかと言うと決してそうではなく、嫌な思いをしたらしっかりと毒も吐く。自身の容姿の良さは理解しているものの、自信家ではなく極めて謙虚な姿勢を崩さない。根は陰キャな事がオタク達への理解を深めてはいるが、本人は決してオタクではないので時には辛辣な言葉をオタク達に向けることもある。ヘラヘラしながらも時折見せる自信の無さそうな表情は、それはそれで魅力的だと私は思っている。


何も持たざる者が、やがて翼を手に入れ舞う。

学生時代から華やかで充実した青春を過ごし、沢山の友人や最愛の恋人にも恵まれ生きてきた女の子が居たとする。その子は天性の愛嬌を振りまきながら、曇りひとつない笑顔で人と接することが出来る。常に明るく前向きなその子はきっと誰からも愛されるだろう。

コンカフェという特殊な世界に於いては少し違う。

決して華やかではない青春時代を過ごし、コンプレックスを噛み締めながら生きてきた女の子にこそ共感する客層も多い。なぜなら客の多くもまた『何も持たざる者』であるからだ。後ろ向きで卑屈な感情や不器用な笑顔。そんな女の子が接客を通して成長し、少しずつ自信を手に入れていき、やがて沢山の人に愛される存在へと変わっていく。これがコンカフェに於けるシンデレラストーリーであり、本当の意味での『キラキラコンカフェキャスト』であると思う。

メミちゃんがそういうタイプかどうかは私には分からないが、我々のような『何も持たざる者』に対して理解があることだけは確かだ。


k.w.s.k.ギャルズ第3号

「k.w.s.k.のツイートおもろい」と顔を合わせる度に言う彼女は、ご存知k.w.s.k.ギャルズの第3号としての一面を持つ。ちなみに私も彼女のツイートが大好きである。ユーモア精神と毒を持ち合わせ、自撮り画像にポートレート写真、そして時にはポエティックに。業務的どころか出退勤などの業務的な投稿の方が少なかったりする。

彼女と話していて思うのは、余計なものが何もないという事だ。会話の間を恐れて私が興味のない話題を振ってくる事はない。嘘をつかないし、かと言って全てを曝け出す訳でもない。こちらが聞かない限り言う必要のない事は言わない。そういう心地良さが彼女にはある。

繰り返し書くが、私が知る彼女のパーソナリティはきっと少ない。知っているようで何も知らない。ただ、コンカフェキャストとして必要なものは全て持ち合わせている事は知っている。私は決して良いお客さんではないが、彼女は間違いなく良いコンカフェキャストだと思う。有名かどうかは私にとってはどうでもいい要素だ。おもしろいかおもしろくないかだけが私にとって重要な事である。

ちんちくりんな彼女も、生誕衣装の着心地が苦しいと言ってブラジャーを外しにいく彼女も、自転車でミナミを爆走する彼女も、急にゴミを投げつけてくる彼女も、空になったブレスケアをプレゼントしてくれる彼女も、道端で会った時に200円をくれる彼女も私は全部好きだ。…ちんちくりんだけただの悪口だったかも知れない。

私はこれからも彼女に会いに行き続ける。ヘラヘラした顔で「なぁ〜聞いて欲しい事があんねん」と話し始める彼女に「どうしたん?とりあえず乾杯しようぜ」と言いに行く。

これが私と彼女のEpisode。

k.w.s.k.ギャルズ第3号
little wolves bar ephemeral
メミちゃんと私とのお話。


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