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もしもネットがなかったら4

そうか、この世界にはもう、インターネットはないし、WEBという言葉も概念もないんだな。呆然としている俺に坂田が言う。「とにかく明日までにコンテもってこいって、えらい剣幕なんすよ。」CMコンテとは、CMプランナーが描く漫画のコマ割りのようなCM案のことだが、1日やそこらで用意できるものではない。

「うーん、とにかくなんか持っていくしかないなあ。プランナーは、佐渡は、連絡つくのか?」「それが電話でないんすよね…」たとえネットがつながらなかったとしても、企画を考えるのは人だ。人がどう動くか、を想像することが大切だ。「佐渡の気持ちを想像してみろ。」「ええっ、あんな映画オタクの女がどこにいるかなんて」「それだ。」

六本木のTOHOシネマズは、東京の中でも、映画の高揚感を最も感じられる、映画館らしい映画館である。大階段を登りきって、ロビーの人混みの中に入ると、見慣れた赤い髪の女が、パンフレットに見入っていた。「佐渡」「っくりしたー!やめてくださいよなんなんですか人がせっかく犬ヶ島の世界観に浸っているところを…」「お楽しみのところ悪いが、仕事だ。」「いま私コマ撮りで犬を動かすことしか思いつきませんよ。それも、1年以上かけてちまちまちまちまつくるやつね。狂ってるのかなーってくらいのやつ。」「それだけ創作意欲があるなら十分だ。明日までにコンテが欲しい。概要は場所を変えて話そう。」「梅蘭のかたーい焼きそばが食べたいです。」やれやれクリエイティブの奴らはなんでこうタカるのがうまいのか。「俺も梅蘭好きです!」黙れ坂田。


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