もしもネ_top

もしもネットがなかったら6

「いい方法?」

「就職したくなる会社かどうかってさ、お金とか、有名かどうかとか、そういうのもあるけど、就活生に対してどう向き合うかじゃない?」「うん」「就職が決まった学生に、『1年間自由に過ごしていい権利』をプレゼントするってどう?」「1年間も?」「そう、1年間も自由に過ごせるなんて、学生でも社会人でも無理。この先ずっと働くならなおさらでしょ?だから、1年間。もちろんずっと家にいてゲームするとかはダメだよ。海外に飛び出して、いろんな経験をして、一回り大きくなって帰ってくる。そういう制度。」「いいじゃないか。」「でしょ?ちょっと会社辞めて、1年くらい海外ふらついて映像撮ろうかなーとか思ってたから思いついたの。」

広告会社のクリエイティブ職は、わがままで、子どもで、思いつきでしゃベる。だが、それが人間の本来の姿な気がしてくるから不思議だ。そして、そいつがわがままを言うほど、そのまま消費者ー今回だと、就活生の気持ちに近くなれる。それをクライアントに通すのは、俺の仕事だ。

「それで行こう。簡単なコンテ書けるか?」「文字コンテと資料なら」「それでいい。明日10時。品川駅に集合だ。」「ちょっと、改札はどこよ?」そうか、忘れていた。この世界にはネットがない。「中央改札を出て、西口の高輪方面あたり」「OK」

ふと気がついた。ネットがないのに、あまり不便を感じていない。この仕事が本来アナログなものだからなのかもしれない。しかし、そんな想いは、プレゼンで打ち砕かれることになる。

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