思い付きで始めた『ジョブカン』

会社を設立して2年くらいでアルバイトも15人程になり、アルバイトの給与計算が大変になってきた。当時は月末にExcelで申告させて、集計するという手法をとっていたが、それを取りまとめていた根岸から大変になってきたと苦情が出始めていた。

ちょうど年末のタイミングで、電通大のアルバイト阿部君が年末年始暇だということだったので、12月27日あたりにFelicaでタッチして集計できるサービスを10万で作らない?と聞いてみたところ、やってくれると即答してくれた。1月4日に完成する予定だったが、つまづいたところがいくつかあったようで、結局完成したのは1月末くらいだった。

当初は自社のアルバイト勤怠のために使っていた『ジョブカン』だが、便利だったので友人の会社にもタダで提供していたところ、なかなか好評で、ASP化してビジネスにすることにした。

ところが、サービスをやるにあたっての競合調査や自社のアセットなど、ろくに考えもせずに始めていたので、やり始めたものの全然売れないなと思い、調べてみたら競合が2009年の時点ですでに100社位あることがわかり、これはマズイと思った。

しかし、さらに競合を調べてみると、外注でサービスを作っている会社がほとんどで、いかにも業務アプリといった感じのサービスばかりだったため、年間1~2件しか売れていない『ジョブカン』でも、これは勝てる、と思った。

当時、営業マン1人、アルバイトの開発スタッフ1~2人程度でやっていた『ジョブカン』だが、転機となったひとつが事業責任者の石山の入社だ。DeNAで同期だった倉林啓士郎の会社“イミオ”の営業マンだった石山とは以前何度か仕事をしたことがあって、使える営業マンだと思っていた。
たまたまイミオを辞めたことを知ったので、Donutsに来ないかと誘ってみた。石山はIT音痴だったが、『ジョブカン』の担当になった当初から『ジョブカン』を日本一のサービスにする、と言っていた。しかし、当時は誰もそれを信じていなかった。
事業責任者に必要な資質のひとつが100人が反対してもやり抜く力だと思う。

一方、別事業としてやっていたゲーム事業が好調になり始め、2010年くらいで月間で1億程度の利益も出るようになってきた。ただ、ゲーム事業一本でいくのは、ソシャゲ以前の過去に、名だたるゲーム会社が倒産したり、吸収合併していたことから危険すぎるなと思い、ゲーム事業以外の事業の割合を増やす必要を感じていた。その矛先になったのが『ジョブカン』で、勤怠管理というサービスの性質上、一度登録すればほとんど継続してくれるものなので、安定的な収益が見込めた。

全く売れていなかった『ジョブカン』に、毎月約2000万の広告費をかけるようにしたところ資料請求数が急増し、その結果、月に10件程度売れるようになっていった。しかし、毎月1億の利益が出ているゲーム事業と毎月2000万の赤字を出す『ジョブカン』だったため、社内外からはジョブカン事業をやめてゲーム事業にリソースを投下しないのかとかよく言われていたが、全部無視していた。

結局、『ジョブカン』が黒字になったのは事業を始めて8年後くらいで、当初の予定からはだいぶ時間がかかったが、現在はDonutsを代表するサービスのひとつになっている。

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