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マーケターが闘うべき事業部や一時的なユーザーの圧力と、「PayPay(ペイペイ)」キャンペーン

 マーケティングを単なる「集客装置」としてとらえる企業人や企業が多いが、本質的に機能させようとすれば、単なる「部分」に留まらず「全体」に及ぶ「市場創造」を担うことは必然だ。

 消費者の認知を変え、購買に変換し、物やサービスの体験を通じて愛着度を高め、リピートを促す、消費者行動をマーケティングするのは決して「集客装置」だけで完結されるものではなく、「認知→購買変換装置」「体験→愛着変換装置」「愛着→リピート変換装置」が必要であり、長期的な時間軸でマーケターがかかわる必要があると理解できるだろう。

 一方、事業部はクオーターごとの売上・利益目標がついてまわり、中長期の事業戦略と事業推移が合致していない状況でまず考えるのが、短期的に売上・利益目標を達成する方法だ。
短期的に達成するには、すぐに顧客になりやすそうなユーザーを(言葉が悪いが)刈り取ろうという発想であり、あくまで「手段」として考えるべき類のものだが、時としてその「手段」を「目的」に変換してしまう事態が発生する。

 それを「迷走」というのであろう。

「認知→購買変換装置」には、その商品やサービスを利用するのにふさわしい「コア集団」、そのユーザーと価値観が近しい「準拠集団」、価値観は近しくはないがそのカテゴリーの顧客になる可能性がある「ターゲット外集団(便宜的に定義すると)」がいる。

 マーケターは限りある予算の中でまずターゲットとするのは「コア集団」と「準拠集団」だ。そこに注力して目標に達していない場合にまずやるべきことは、ベネフィットとその根拠が意図通りにユーザーに伝わっているか、伝える媒体は正しく機能しているか、マーケットサイズは本当に充分か、検証と改善だ。

 それでも達成できない場合に、ターゲット外ではあるがそのカテゴリーの顧客になり得る集団に対して一時的に魅力的なオファーを出して顧客にしてしまう、ある種の逆説的なキャンペーンを放つ。

「PayPay(ペイペイ)」の100億円あげちゃうキャンペーンは記憶に新しくその類のキャンペーンだ。このサービスのターゲットとなるコア集団、準拠集団は、Yahoo!・SoftBankユーザーかもしれない。そのユーザーを取り込みつつ、短期的にもっと多くの顧客を獲得するための施策が100億円あげちゃうキャンペーンの狙いだと思う。このキャンペーンで獲得したユーザーは、本来そのサービスに関心がなく利用しない層のため、コア集団や準拠集団と較べて利用し続けてもらうには困難かつ多大な労力が必要だ。このユーザーに対しては、せっかく獲得したユーザーだからリピーターに育てていかなければならない、と無理に固執せずに、短期的な事業目標達成の手段として割り切る覚悟が必要かもしれない。

 マーケターがやるべきことは、コア集団、準拠集団に利用し続けてもらうためのベネフィットを提供し、関与度を高める努力を行うことだと私は思う。それは長期的な活動になるだろう。

「PayPay(ペイペイ)」をこのキャンペーンがきっかけで利用したユーザーは、この種の麻薬的キャンペーンにまた期待するだろう。
事業部もまた短期的に事業目標が達成するならと麻薬的キャンペーンを希望するもしれない。

 しかし、本当に育てる必要があるのは、LINE PayでもOrigami Payでもなく、「PayPay(ペイペイ)」を利用し続けることに魅力を感じるコア集団、準拠集団であり、それはYahoo!・SoftBankユーザーだろう。

 マーケティングと事業部が管理する時間軸が異なるが故にときに衝突することがある場合、「コア集団」「準拠集団」「ターゲット外集団」の誰に焦点をあてて議論しているのかを明確にし、中長期的な利益に資するかの議論を丁寧に積み重ねる中で解決の糸口を見出していく必要があるだろう。

 一時的な麻薬の効能は認めたうえで、事業部の圧力、ターゲット外ユーザーの圧力に惑わされずに、中長期的な視点でじっくりと「市場創造」することがマーケターに問われていると私は思う。

#マーケティング

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