女神様たちにスパチャされたので異世界からバトロワ配信します。その1

 異世界転生あるあるその1。超が付くほどの美人の女神様に異世界に呼ばれて、魔王を倒してくれ、とお願いされる。よくある話だよな。まさか、自分もそんな日が来るとは思いもしなかった。

「お待ちしていました。勇者様」

 異世界転生あるあるその2。だいたい不慮の交通事故とかで車に轢かれたり、電車で人身事故を起こして転生する。たまにネットとかのなろう系? てっヤツか? そんなファンタジー小説とかだったら、だいたいその流れだよな。

「あ、こんちわ。帰らせてください」

 誠に遺憾ながら、俺は別に事故に巻き込まれたわけでもなく、タンスの角に足をぶつけ頭から転んで死んだわけでもなく、今の今までピンピンしてた。元気100万倍。おまけに、とっても大事な記念すべき大事な日だったのだ。

「100万人登録おめでとうございます!!」

「あ、ありがとうございます・・・ひょっとして、光と風の女神アルティナ様(17才)さんですか?」

「はい!! コメント読んでくれました?」

 アイコンの姿まんまだ。あっちの方が少しばかり若く見える気がするが。

「え、まあ(毎回このひと限度額フルスロットの5万投げる太客だからな。覚えるよそりゃあ。ちなみにコメントは流し読みです。ごめんなさい)」 

 何を隠そう、俺はVチューバーだ。知らないって?おいおい、だったら説明しよう。Vチューバーとは、バーチャルな2次元の漫画やアニメのようなキャラクターが、動画配信サイトで配信を行うストリーマーの総称だ。ようは、生身で配信するとのはちょっと、というアレな感じのヤツら(炎上しそう)だ。

「どうか助けてください」

「いやです」

 

 
 
―――おしまい――― ラーラーラーラー!(EDテーマ)





「勝手におしまいにしないでください!」

「こっちとらタダじゃねーだ! 生配信中やったんやぞ! ボケ!」

 おおっと。勢い余ってよくあるエセ関西弁が出てしまった。ちなみに俺は、とあるVチューバー事務所に所属しており、悲願の100万人登録達成! さらに新衣装の3D配信お披露目という、記念すべき日のはずだった。よくわからん永遠の17才(笑)の女神に、異世界転生させられてしまったらしい。

「何つったテメー!・・・あっ、女神パワーで炎上させちゃうゾ」

 あ、この女神被ってるな。怒らせっんとこ。

「アッハイ、炎上だなんて・・・俺は別に何も」

「私、知ってるですからね。あなたが密かに如何わしいサイトからイヤらしい女の子のは、は、裸を」

「あの、そこまで言いかけて恥ずかしがるのやめてもらっていいですか?」

「ど、童貞のくせに」

「しばくぞ!」

 何んだあこの女神、俺の思考を読み取れるのか。チーターじゃねーか。運営に報告せねば。て、このひとが運営みたいなものなのか。

「で、その女神様、魔王を倒せって? じゃあそれなりの能力とかくれますよね?」

 そりゃあ、全知全能的な手札にあるもの何もかも、コスト無しでバンバン使えるようなチート能力を期待したいものですな(眼鏡クイクイ)。

「はい、現金で」

「・・・は?」

「私にスパチャしてください」

(何いってんだコイツ?)

「この世界は【GOD】と言われる通貨を様々なクエストやイベント、モンスター討伐で獲得していただき、私たち神々に投資して力を得られます」

「どっかで聞いた仕様だな」

「こなれているのでは?」

「配信見てるもんね」

 おっしゃるとおり。MMOだけでなく、この手のRPGやソ◯ルライク系のゲームは散々やってきた。システムを理解すれば無双できるはず。問題は、

「ちなみに、ここ最近の私も含むリスナーからスパチャされたお金が、貴方のスタートの所持GODです」

「誠に遺憾ながら、ないです。最新のゲーミングPCと格ゲー用とかのノースティクコントローラー代とか納税でお金は消えましたー」

 今、空前絶後の格ゲーブームの再来ですよ。転生させてくれるなら、ファンタジーな世界よりストリートなファイティングをしたかったよ。あと納税とかマジ勘弁。

「ええ・・・仕方ないですね。でしたら、先ほど言った様々な方法でお金を貯めていただくか【配信】で稼いでください」

「ふーん・・・んん!? 配信!!」

「はい。この世界はどこでもフリーWi-Fiなんで安心安全に配信できますよ」

「配信PCとか機材は?」

「貴方がお望みの機材が必要であれば私に投資を」

「フ〇〇キュー!」

「ヒッドーイ!(笑) あ、でも初期配信用のノートPCとかは一応あります」

「俺、完全防音配信部屋がいいんだけど」

「どうやって冒険するですか? せっかく受肉させてあげたんですから」

「受肉? はっ! 今の俺の格好、まさか!」

「ライブカメラ見ます?」

 早速、女神様はややグレードの低そうなノートPCを空間から光と共に取り出し、そのディスプレイ画面を俺に見せてくれた。

 あろう事か、今の俺の出で立ちは、Vチューバーのアバターそのもの。有名なママ絵師さんにお願いをし、獣耳狼系ワイルドイケメン男子。チャラくて壁ドンすれば、登録している女共は全員落ちるはず。

「再現度スゲー、まんまじゃん」

「恐悦至極でございます」

 体も軽い。体幹もあがっているのか。別に元の体が太ってたとかそういうわけではないが。まてよ、今この場でこのエセ女神に壁ドンすれば、それなりの能力をタダでくれるのでは?

「フッ、女神様。いや、アルティナ」

 見えない壁、ドン!

「ひゃ、ひゃい!」

「俺と、悪いことしないか?」

「は、はぁー!? なにを言ってるですか? 貴方は勇者として私が呼んだんですよ! 正しい行いをしてください」

 あれ? 顔真っ赤やん。イケそうか? 

「どんな行いをされたいんだ?」

 女神のあごクイ。

「わ、私じゃなくて、ミスティーノちゃんの推しを倒してください!」

 ん? 推しだと。推しというのはいわゆる、この女神様に対しての俺。一番好きなVとかの俗語だ。

「あー、いきなりネタバレ的なこと聞いていい?」

「はい、何でしょ? 私のスリーサイズですか?」

 あ、馬鹿だはこの女神。

「俺以外にも、ストリーマーやVチューバーが異世界転生してるのか?」

「はい。私以外の女神や邪神や魔神たち、だいたいおよそ30名くらいが、貴方の世界のストリーマーさん、主にVの方をお呼びしてます」

「マジかよ! 何で!?」

「え? ゲーム配信だけじゃアレでしょう。リアルな感じで楽しんで貰おうかと」

 ざけんな、神々のお遊びに俺たちは付き合わされてんのか?

「・・・この世界で死ぬとどうなる?」

「全ロスしてすぐにリスポーンできます。あ、でも大丈夫。そのあたりのルール説明は後ほど、絶対神である【アザナミ様】がこれから発表します」 

「勘弁してくれ。帰らせてくれよー」

「ダメです。期間は30日と短いですし、それが終われば無事に帰れますから」

「は!? 30日!! 企業さまからの案件とかイベントの大会とか控えてるんですけど!?」

「ご安心を。スケジュール調整は各担当の神々が、事務所なり企業様にお話してます」

 ここぞとばかりに女神様はガッツポーズ。

「マジかよ! 根回しハヤスギー!」

「もちろん、タダじゃないですよ。ステータスとかを含めた獲得GODが一番多い方には絢爛豪華な優勝賞品もでます」

「あっそう。ステータスも含めた最高資産獲得者が勝者か・・・ん? まさか、スキルだけじゃなくて筋力とかの能力値振りも金か?」

「ええ。安心安全のソ〇ルライク仕様です」

 うっわー、実に馴染む親切設計の異世界転生だ。

 話をまとめよう。神々の悪戯で俺以外にもまだ見ぬ多数のVチューバーが、このイカれた世界に転生させられ、億万長者番付バトルをする羽目になった。

(何だよ・・・いつものことじゃねーか)

 よくある、最新鋭のVRMMOとかだと思えばいい。VRはないが、似たような配信者を集めたイベントもの大会バトルは何回も経験したことがある。優勝もしてる。さっきもいったように、この手のゲームは得意だ。リアルファイトは別として。今は覚えたての格ゲーの知識が活かせるか?

「ルールはなんだ? チーム戦か? 魔王ってことは徒党を組んでそいつを・・・いや、バトロワか?」

「バトロワです」

「ですよねー、いってもそこはアレだよな」

「はい、誠に遺憾ながらいきなり魔王を味方にするのもありです。序盤から中盤は協力プレイも有り。ですか、最後の勝者はただひとり」

 カッコよく女神様は人差しゆびで天を指し、ドヤッと顔から笑顔をこぼした。マジむかつく。

「その魔王、つうのはミスティーノちゃんだったか? その子が呼んだVか?」

「ええそうです。確か、天才無敵アイドル天使? 【悪姫(ワルヒメ)ぐむゅぐむゅちゃん】」

「ぐむゅかよ、マジかー」

 知り合いだ。と言うか、俺より先に個人で100万人登録者達成した後輩Vだ。まあ、元同じ事務所の娘だったんだけどな。色々とトラブル起こして卒業して、転生したのが今のあいつだ。

「あいつの方が先にこの世界に転生してるのか?」

「公平を保つ為にスタートは皆さん一緒です」

「じゃあ、何であいつは魔王なんだよ」

「自称です」

「なんでやねん」

 魔王でも何でもねーじゃねーか。どっちかつーと、あいつの見た目はオタクニキたちがこぞって好むような、狙った感じのロリ巨乳の天使だ。転生前のアバターがツルペタだったので、アンチコメが湧いてデビュー配信は若干荒れたが、そこは経験値が若手と違う。上手く乗り切っていた。

「お知り合いなのですか?」

「まあね。そいつの配信は見みたことある?」

 女神様は首を横に振った。

「その子とコラボとかはされたのですか?」

「大人の事情でしてません・・・まあ、所謂効率厨の長時間配信お化け。それが転生したこの世界で、反映されてるなら少し厄介だな。つうかスパチャ!」

「ブラスパ(最高限度額スパチャ5万)ヤバめ?」

「べらぼうに。並の配信者が嫉妬してアンチコメするくらいに(しないけど)」

「あ、貴方だって負けてませんよ!」

「ありがと。メンバー限定の配信で荒稼ぎもしてるからよ。馬鹿みたいに浪費してなきゃ相当貯めてる」

「何だったら、彼女の配信見てみます?」

「何!? もうあいつ配信してるのか!?」

 ホント、イカれた世界だぜ。ファンタジーなのかSFって奴なのか。

 女神アルティナはどこからともなくノートPCを取り出した。天界無線LANだとか何とか。

『ぐむゅぐむゅわるー! 今日も悪姫ぐむゅぐむゅちゃんの配信が始まるよー! みんな観てるー? ぐむゅはカワイイ邪神様に呼ばれて異世界転生しちゃったよ』

 もう馴染んでやがる。リスナーも違和感を感じろよ。いつもの軽いノリの配信が始まった。同接数は2000から3000。やや少ない。いつもなら1万くらいはいってるはず。異世界配信だからか? んん!? みんな観てるだと!?

「おいおい女神様、この配信って現実世界にも回線繋がってるのか?」

「何を今さら。だから私は貴方の配信も切り抜きも追えてるんですから」

 こいつはたまげたよ。つまり、俺たちVの者たちによる異世界転生バトロワが、30日間に渡って現実とこのイカれた神々にネット配信されるのかよ。

『今日はねー、この異世界バトルロイヤル初日だけどスタートダッシュが肝心だとおもうだよね。だから、早速12体いるネームドモンスターの内の1体の【戦慄の氷刃ワーム】君を倒そうと思います』

「は? 馬鹿かこいつ。ステ振りは?」

「見てみます? このPCからストリーマーにマウスカーソルを合わせると、その方のステータスが見れますよ」

プレイヤーネーム:悪姫ぐむゅぐむゅ
レベル:17
筋力:8
知力:22
体力:5
技力:3
精神:12
素早さ:6
運:19

「ほぼ初期ステてすね。なんでこんなに運に振ってるのかしら? アイテムドロップには影響しますけど、クリティカルは技力依存ですし」

「ちなみに、初期からこのステータスになるには、金額にしてどれくらい必要だ?」

「5万GODですかね。あ、でも装備とかにお金かけてそうですし、トータルで50万くらいかな?」

「おい馬鹿やめろぐむゅ!! あーあー、コメントのリスナーも全力で止めにかかってる!」

 コメントは以下の通りだ。

 イカれてる
 さすぐむゅ
 ぐむちゃしやがって
 残念、ぐむちゃの冒険はここで終了です
 いいぞ、できるできる(笑) などなど。

『よっしゃー、ではさっそく邪神ちゃんから買ったこの【血祭りのミスリルバール(呪)】で撲殺してや―――ギャアアアアア!!!!!』


―――悪姫ぐむゅぐむゅ、LOST―――


「何やってんだあの馬鹿は!!!」

 さあ、愉快なVチューバーたちの異世界転生バトルロイヤルのはじまりはじまり―――


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?