電車の作法2031

電車を待つ人々は、はみ出すこと無く1列に並んでいる。電車が近づき、ブレーキ音が響く。それに従い全員がドアの方を向き、手に持った携帯や本をしまい、気をつけの体制をとる。乗降する際のトラブルを無くすための基本的なルールとなっている。

やがて電車が止まり、ドアが開く。降りる人々も列をなして中央から順番に降りる。効率性の面から、降りる側は2列になり2人づつ降りる。

そして降りる人がいない事を先頭が確認すると、順に電車内へと足を運びはじめる。乗り込む際にはそれぞれドアに向かって外側の足を電車に一歩踏み込む。降りそこねた人が中央から出る際に足を引っ掛けないようにする為の配慮である。

座席は1席づつ間を開けて用意されており、荷物置き場と座席が交互になるよう設計されている。座席の左側には合板が備え付けられていて、座った時に隣が見えないようになっている。プライバシーとセクハラ防止の観点から、鉄道各社で取り付けが義務付けられている。近年視姦の被害が相次ぎ社会問題となっているため、プライベートゾーンの確保が社会的にも活発化している。

車内には黄色と黒で彩色された格子状のマットが敷かれており、立って乗車する場合は必ず黄色のマスに足を揃えなければならない。黒いマスはスペース確保の為の余剰であり、如何なる理由があっても物や人が乗らない様配慮する必要がある。これは盗撮や身体的接触の問題を軽減させるための工夫である。

また、電話ボックス程度の個室が各車内に備え付けられている。防音素材で作られたその部屋は泣き止まない赤子や自閉症スペクトラムの患者を一時的に隔離するために用いられる。一定デシベル以上の騒音は各人のストレス係数を上昇させる事が科学的に認められているため、このような措置が取られている。ちなみに室内は完全抗菌仕様のため、度重なる利用がある場合でも問題なく利用する事が出来る。特に乳幼児が細菌やウイルスに侵され諸々の疾患を発症するリスクを低減させるという面で高く評価されている。

車両は各要素によって乗る場所がさだめられており、男女はもちろんのこと、学生、社会人、定年後の老人、乳幼児を伴う夫婦、ハーフ、黒人、白人、台湾人、東南アジア諸国のビザ労働者、在日の韓国人などに分けられてパーテーションが用意されている。今後は宗派による区分けも検討されている。多様性が進む昨今でそれぞれの主張を鑑みた結果、このような仕組みとなっている。このため車両は20両以上に及ぶことがあり、通勤ラッシュ時は1分ごとに電車が到着するという状況になっているが、諸問題を解決するためには仕方ないことであると世間からもある程度の理解を得られている。

車内のどこかで携帯の着信音が響く。乗客が顔をしかめて、「さっさと止めろ」と言わんばかりに威圧する。車内の誰かに話しかけるという行為はマナーに反するため、誰もが黙ってなり止むのを待つ。

最近では乗客にノイズキャンセリングのイヤホンを義務付けるという法案も出されているそうである。今回こそ反対するような輩が現れること無く、順当に可決されれば良いのだが。

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